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注目されるサステナブル不動産
公開日:2018/05/31
サステナブル不動産が注目されています。不動産においても、社会に役立ち地球環境の保護に貢献できるよう長期間にわたって維持できることが価値向上につながる、との考えが広まってきたためです。ビルを建築し、老朽化すれば解体して新たな建造物を作り出すスクラップ・アンド・ビルドの時代から、100年耐えることができる持続可能性の高い不動産が求められているのです。
不動産においても企業概念の変遷と同じ歩調に
サステナブル(Sustainable)とは、維持できる、耐えることができるという意味です。経済成長は、その陰で環境破壊を生む要因のひとつにもなりました。企業の業容拡大が進んで国は発展し人々の暮らしは豊かになりましたが、一方で公害をもたらし、自然環境は悪化しました。その反省から、世界中で環境保護の重要性が叫ばれるようになります。
1980年代に入ると経済成長と環境保護を両立する機運が高まり、1992年のいわゆる「地球サミット」で、21世紀に向けた持続可能な開発のための行動計画「アジェンダ21」が採択されました。環境への影響を最小限に抑えた持続可能な社会の発展が認知されるようになります。
一方、我が国の主要企業では最近、持続可能な成長を経営理念に掲げるところが増えています。緩やかな成長が進む現代、これからは「100年企業を目指す」と経営者は異口同音に語ります。
企業の生産拠点でもあり、人々の暮らしの原点である不動産もまた、企業概念が変化するのと同じように、地球にやさしく、持続可能である、100年持ちこたえる物件が注目されています。
国交省も補助金でサステナブル建築物を支援
国土交通省は現在、サステナブル建築物の促進事業に対して補助金を出すなど支援しており、「サステナブル建築物等先導事業」として毎年、事業提案を募集しています。その種類は「次世代住宅型」「省CO2先導型」「気候風土対応型」「木造先導型」など多岐に渡っています。
次世代住宅の実現に向けて
次世代住宅型は、政府の「日本再興戦略2016」を受け、基本的視点に立って、次世代住宅として備えることが期待される機能やその将来像を検討し、同時に次世代住宅の実現に向け官民が取り組む課題を抽出しました。その基本的視点は、次の2つです。
- (1)住宅において、消費者・生活者にとってメリットや魅力のある新たな機能やサービスが提供されるとともに、安全かつ安心して活用できるものであること。
- (2)住宅関連事業者だけにとどまらず、医療・介護・警備・小売りなどの日常生活サービス事業者も含めた多様な業種間で、様々なものとサービスが消費者・生活者本位で結びつけられるものであること。
国土交通省資料より
2016年から開催されていた国交省の「次世代住宅懇談会」では、
- 1)高齢者・障がい者等の自立支援
- 2)健康管理の支援
- 3)防犯対策の充実
- 4)コミュニティの維持・形成
- 5)物流効率化への貢献
などの課題を導きました。
木造の住宅・建築物のリーディングプロジェクトを支援
木造先導型事業では今年は5月に提案募集が始まりました。構造・防火や生産システムの面で先導的な設計・施工技術の普及などを図るため、木造の住宅・建築物のリーディングプロジェクトを支援するものです。対象となるのは、
- (1)先導的な設計・施工技術が導入される一定規模以上の建築物の木造化を実現する事業計画の「一般建築物」
- (2)CLT(クロス・ラミネイティッド・ティンバー、積層接着した木質材料)など新たな木質建築材料を用いた工法について建築実証と居住性の実験を担う実験棟を整備する「木造実験棟」
の2種類です。補助金の対象は調査・設計計画と建築工事費で、補助金額は原則として1提案に対して1棟あたり上限3000万円。耐用年数前に転用する予定の場合は、実験・実証の年数に応じて減額されます。
国土交通省のサステナブル建築物等先導事業
気候風土適応型 | 地域の気候風土に応じた木造住宅の建築技術や低炭素化に関して先導的な技術の普及・啓発に寄与するプロジェクトを支援する |
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木造先導型 | 再生産可能な循環資源である木材を大量使用する大規模な木造建築物の先導的な整備事業の具体的な内容を公開し、木造建築物に関する技術の進展と普及啓発を図る |
省CO2先導型 | 省CO2の実現性に優れた住宅・建築プロジェクトへの支援で省CO2対策を推進し、住宅・建築物の市場価値を高めて居住・生産環境の向上を図る |
次世代住宅型 | IoT技術の活用による住宅の市場価値、居住・生産環境の向上に関する先導的な技術の普及啓発を図るためプロジェクトの整備費の一部を支援する |
増加する中規模以上の木造建造物
国交省の支援対象になっている木造建築物ですが、近年は戸建て住宅だけでなく、中規模以上の木造建造物が増加しています。2017年度の木造先導型事業では、企業の事務所棟や特別養護老人ホーム、幼児施設などのほか、10階建ての共同住宅が選ばれています。また、過去には大規模な運動施設などが支援対象になっています。
従来は鉄筋コンクリート建て(RC造り)が当たり前だった建造物に木造化の波が押し寄せています。背景には、我が国の森林資源が豊富になっている反面、林業の景気低迷で間伐などの維持メンテナンスが行き届かず、結果として森林機能が低下して地球環境の保護に影響を与えていることが挙げられます。また建築コストの観点からも、低コストな木材にスポットが当たっています。
森林の機能低下を防ぐために木造建築物を増やして森林資源を活用するとともに、我が国が古くから継承してきた伝統的な建築技術なども駆使して、RC造りに負けない建造物を実現する取り組みが注目されてきました。これまでは戸建て住宅に用いられるイメージが強かったですが、中規模以上の建造物においても、安全性や耐久性が担保される技術の革新によって木造建築が増えていくことが期待されています。将来には、木造による高層タワーの建設も予定されています。
不動産証券化では、投資対象である物件の価値向上のための企画とその具体案が常に求められます。地球環境や働く人々への配慮に富んだ、持続可能な建造物となるサステナブル不動産の企画開発が一層望まれるところではないでしょうか。