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コラム No.59

トレンド

国交省が「不動産投資市場アクションプラン」を検証

公開日:2018/07/31

国土交通省はこのほど、「不動産投資市場の成長に向けたアクションプラン」のフォローアップを実施しました。昨年6月に策定した同プランは、2020年頃までにリート(不動産投資信託)の資産を総額約30兆円にする目標を掲げており、その達成に向けて進捗状況を確認して今後の方向性を検討するため、不動産投資市場政策懇談会を開催しました。

懇談会では、アクションプランで示したテーマに関して今年度の取り組み内容を確認しました。「CRE等の改革(企業・団体不動産の活性化)」では、CRE(企業不動産)やPRE(公共不動産)などの活用促進に向けて、地方協議会の開催や耐震・環境不動産形成促進事業を展開すること。

「リート市場等の改革」では、健康性・快適性に優れた不動産に対して適切な鑑定評価に反映させる仕組みを検討したり、新たな資金調達手段である不動産クラウドファンディングの検討会の開催とガイドラインの検討をしていくこととしました。「不動産投資家の投資環境の改革」では、海外の投資家への情報発信に関し、不動産に関する実務や商慣習の違いなども情報として盛り込むことで、開かれた市場を整備することとしました。

上昇率が鈍化し、目標の30兆円には届かないとの懸念も

今回の会合では、リートなど不動産投資市場の現状分析を行いました。それによると、2017年度と同じ上昇率(年度9.5%)で今後推移するとすれば、2020年度末時点ではリートなどの資産総額は30兆円に満たない資産になるとの報告がありました。また、リートでは市場規模が最も大きいオフィス物件は、ホテルや物流施設、ヘルスケア施設ほどの増加は見込まれない可能性もあり、リートへの供給もこれまでと比べて減少すると見られること、特に首都圏では不動産価格の高騰で物件の取得が困難になることが指摘されました。

Jリート保有不動産の用途別比率(取得価格ベース2018年6月時点 単位:%)

出典:不動産証券化協会Webサイト

そのため、今後資産30兆円を達成するためには、次の3点を実行することが望ましいとされています。

  • (1)市場の供給量の伸びに合わせた各アセットタイプの証券化の実現。特に成長分野であるホテル、物流施設、ヘルスケア施設など。
  • (2)オフィスをはじめとしたリートなどの不動産証券化市場に対する物件供給量の増加。
  • (3)価格が高騰している首都圏に集中する傾向にあるリートの地方での活性化。

こうした分析を受けて、懇談会では今後の方向性に関して、次のような方向性を示しています。

  • リートなどアセットタイプの多様化促進→オフィスだけでなく、量的な供給増も見込まれるホテル、物流施設といった成長分野の証券化を促進するべきではないか。
  • CRE・PRE事例の新規構築→リートなどの不動産証券化市場への供給量を増加させるため、CRE・PREの有効活用の事例を増加させることはできないか。
  • リートなどの物件所有地域の多様化促進→地方の物件を所有するリートなどを増加させてはどうか。
  • ESG不動産投資の普及促進→高品質なオフィスを増やすために、民間によるESG(環境・社会・企業統治への配慮)認証創設後を見据え、認証制度の取得促進のための支援策を検討してはどうか。

ホテルは上昇だがヘルスケア施設が不振

不動産証券化協会の調査によると、過去5年間における国内不動産の取得額は、2014年のオフィスが7755億円と最高、次いで2013年の物流施設が7739億円となっています。ただ、オフィス物件はこのところ取得額では2014年から下降し、取得件数も2015年の119件から3年連続で減少。物流施設は取得額に乱高下があるものの、件数はこの2年安定しています。

国内不動産における取得額の推移(単位:百万円)

出典:不動産証券化協会Webサイト「統計データ」をもとに作成

国内不動産における取得件数の推移(単位:件)

出典:不動産証券化協会Webサイト「統計データ」をもとに作成

一方、ホテルは、取得額では唯一右肩上がりを示しており、2020年の五輪開催を控えて活況を呈している状況です。しかし、ヘルスケア施設の取得は伸び悩んでいます。懇談会でも指摘されましたが、不動産投資市場30兆円を達成するには、成長分野であるホテル、物流施設、ヘルスケア施設における証券化の条件整備が求められるところです。なかでも、高齢化が本番を迎えているいま、高い需要が見込まれているにもかかわらず取得が伸びないヘルスケア施設の不振は、介護保険など公的支援に依存する収益構造や施設の運営方法などに課題があることを示しているのではないでしょうか。

物件の格段の情報開示に期待も

懇談会では、出席した委員から、30兆円という数値目標にこだわらず、投資家の利益に重点置くことや、市場活性化のために、幅広い情報開示を求めるなど、様々な意見が出ました。

不動産の情報開示は、市場の活性化にとって最も重要なファクターのひとつです。投資対象となる物件のディスクロージャー(情報開示)がより進めば、それだけ投資行動は促進されていきます。

例えば、不動産投資法人による物件取得のニュースリリースでは、取得するオフィス物件で主要テナントを記載しているところは少ないとの指摘があります。メーンテナントがいつから、どのくらいの面積を借りているのかがわかれば、対象物件の収益性を推し量ることができ、投資を促進することにも繋がります。

不動産証券化による金融商品は仕組みが複雑で、関与する当時者も多く、投資家の金融リテラシー(知見)が求められます。このことは、裏を返せば、高い知見を有している投資家だけを市場に呼び込んでいる閉鎖性を示してもいるのかもしれません。30兆円の不動産投資市場を達成するには、情報開示こそが最も改善すべき喫緊の課題といえるのではないでしょうか。

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