CREコラム・トレンド
外国人雇用と建設・宿泊業界
公開日:2018/12/25
改正出入国管理及び難民認定法が2018年12月8日に成立しました。人手不足に悩む我が国の産業界は今後、新たな外国人労働者の受け入れに向けて体制を整備していくことになります。不動産業界にも影響を与える建設・宿泊業に関連する外国人材の雇用の状況を見てみます。
建設業は五輪対策で2015年に緊急措置
2014年に発表された総務省の「人口推計」によると、我が国の65歳以上の人口は2010年には23%でしたが、50年後には約40%になり、世界でも類を見ない長寿国として少子高齢化が進むとの予測があります。一方で、15歳から64歳までの、いわゆる生産年齢人口は2013年10月時点で7901万人と32年ぶりに8000万人を下回りました。内閣府の「高齢社会白書(平成30年版)」によれば、今後の予測では2060年には4793万人と大幅に減少することが見込まれています。高齢者の増加と反比例して労働者人口が減少する時代に突入し、各業界で担い手不足が深刻になっています。
建設業界は特に労働者不足が顕著です。労働者の高齢化に加え、若年世代の建設業界への入職の敬遠もあり、慢性的な問題となっています。これを看過すれば中長期的には公共施設やオフィスなどインフラの維持管理や災害対応を担う人材が不足しかねないことから、必要な人材を確保することが喫緊の課題になっています。
国は2020年の五輪開催に向けて建設ラッシュが起きることを想定。緊急措置として外国人建設就労者受け入れ事業を開始し、2015年に受け入れをスタートさせました。配管や塗装など24職種36作業の技能実習におおむね2年間従事したことがある外国人が「特定活動」の在留資格を得て、外国人建設就労者として入国しました。その結果、2016年度の外国人建設就労者が2011年度と比較して1.2万人から4.1万人と3倍に増加しました。
図1:建設分野に携わる外国人数
国土交通省「外国人建設就労者受入事業について」より作成
図2:建設分野における技能実習生の数(上位5カ国)
国土交通省「外国人建設就労者受入事業について」より作成
最近は多くの職種でベトナム人の就労者が増加しているようです。建設分野でも2014年に中国人実習生の数に迫り、翌年には早くも倍以上の人数でいきなりトップに立ちました。ベトナム人増加の背景には、ベトナム戦争終結後の1980年代から推進している経済成長策「ドイモイ」(刷新)で、政府が海外企業の誘致に力を入れ、日本企業の国内進出が増えたことがあります。それによって日本との経済・文化交流が活発になり、日本での仕事を終え帰国したのちも母国で日系企業に就職できることなど労働条件が改善・整備されました。その結果、日本国内での就労の増加につながったと思われます。
ホテル・旅館業でも多い外国人材
外国人雇用事業所を産業別に見ると、厚生労働省の調査では製造業が21.4%と最も多く、次いで卸売業・小売業が17%、宿泊業・飲食サービス業が14.5%。建設業は意外にも9.4%で第4位に留まっています。これは、外国人労働者に対して、原則として単純労働を認めてこなかった我が国の政策に起因していると思われます。建設業は技能領域が広く、技術を身に着けるまでには一定の時間を要するため、外国人の中に技能経験者が少ないことが背景にあるようです。
図3:産業別外国人労働者数の割合
厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(2018年10月末現在)より作成
宿泊業界で外国人材が増えているのは、訪日外国人観光客が増えていることが最大の要因です。政府も2020年の東京五輪開催以降をにらんで観光庁が2030年の訪日客目標を6000万人と設定。「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針」によると、宿泊分野において、向こう5年間に最大2万2000人の受け入れを予定しています。
外国語ができるスタッフがいれば、宿泊する観光客にとっては助かり、宿泊施設の稼働率も上昇して業績が上がります。観光地は京都や鎌倉など人気スポットだけでなく、全国各地に点在しています。山村地域にもあり、日本人の就労さえおぼつかないところもあります。国内人材だけではまかなえないところに持ってきて、外国人旅行客もひなびた地域にまで足を延ばすようになった現在、各地の宿泊施設を支える人材に外国人労働者が増えているというわけです。
外国人の単純労働は原則禁止されてきた
我が国では、外国人の単純労働は原則として禁止されています。しかし、深刻な人出不足に対応するため、今回の改正入管法で14業種の中で単純労働を含めた就労を認めました。法改正では、これまでの外国人労働者の実態調査が不十分で、受け入れ人数の根拠もあいまいなど多くの批判が起きています。しかし、少なくとも、外国人材に対して単純労働を限定的ながらも解禁したことは、人材不足に苦しむ産業界にとっては朗報かもしれません。
新たな在留資格の概要
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
---|---|---|
人数 | 当初5年間で26.3万人から34.5万人を想定 | 当面は想定しない |
就労内容 | 建設・介護・宿泊など14業種を対象。詳細は検討中 | 建設業、造船・舶用工業の2 業種で、「1号」から移行 |
単純労働 | 可 | 可 |
在留期限 | 最長5年 | 際限なし。更新可 |
家族の帯同 | 不可 | 可 |
「特定技能1号」の対象業種は、介護業、ビルクリーニング業、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設業、造船・舶用工業、自動車整備業、航空業、宿泊業、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14業種。「特定技能2号」は建設業、造船・舶用工業の2業種です。
建設業界や宿泊業界での人手不足は、オフィスビルや商業、物流、ホテルなどの宿泊関連施設など多様な土地開発を展開している不動産業界に大きな影響を与えます。着工の遅れや人件費の上昇などによって開発費が高騰するリスクが生じます。ホテル・旅館などのスタッフが足りなければ、稼働率は改善しません。単純労働の定義付けなど課題が山積している外国人雇用問題ですが、今後の成り行きに注目が集まります。