日々家庭から出る生ごみを資源に!
オリジナルのコンポストを通じて生ごみを
循環させる取り組みを進める
「ローカルフードサイクリング」の
代表・たいら由以子さんに
詳しいお話を伺いました。
2024.4
コンポストで
「回す」暮らしを楽しむ
自分事になって向き合うようになったと話すたいらさん。生ごみ焼却ゼロプラットフォームや今後、循環型コミュニティガーデン協会のプラットフォームを立ち上げ、組織的な普及活動を行う。モンゴルなど国内外の研修のサポートも。
コンポストとは、落ち葉や家庭の生ごみなどの有機物を微生物の力で発酵・分解させ堆肥にすること、また、その装置のこと。堆肥は土に混ぜることで栄養分となり、草木や農作物の成長を促します。
「家庭で出る生ごみの9割は水分といわれています。つまり、ごみ処理はほぼ水分を運んでいて、焼却時にも負荷をかけている。生ごみをコンポストに入れるだけでその分の二酸化炭素を削減できるし、堆肥という資源に変わり、土壌を豊かにすることができるんです」とローカルフードサイクリングの代表・たいら由以子さん。その土壌で作られた農作物をいただくことで、食べ物がもう一度食べ物になる「栄養の循環」がかなうと言います。
「それに土壌は二酸化炭素の貯留庫の役割もあります。生ごみを濃縮して土に戻すことで炭素を一定量、土の中に滞留させておくことができる。これも温暖化防止につながることなんです」
生ごみは堆肥化することで、資源となり、新しい栄養の循環を生み出してくれます。
コンポストを使うことを「回す」と表現するたいらさん。回すための手段として、オリジナルの「LFCコンポスト」の開発と普及に取り組んできました。
「一番に考えたのは取り組みやすいものにすること。バッグ型なら持ち運びができて管理しやすく、見た目もカジュアル。ベランダの風通しのよい場所に置いて気軽に始められます」。国内のペットボトルのリサイクル繊維を使った生地や非水タイプのファスナーでニオイが少なく、虫の寄せつけや侵入を防ぎます。
開発には土に埋め込む設置型、ミミズを活用したものなどさまざまなコンポストを使って検証。ダンボールを使ったコンポストの開発を行った後、さらに都市部で手軽に取り組めるものをと「LFCコンポスト」を手掛けました。「発売後も、長年の経験をもとに改良を続けており、今も続いています」
「LFCコンポストセット」LFC専用バッグと基材で定期便初回4,301円、2回目以降(基材のみ)1,936円。1日約400gの生ごみを2カ月間投入可能。専用バッグは繰り返し使えます。
きっかけは家族のために
無農薬野菜を探し回ったこと
壁にたいらさんが描いた「山、川、海」の絵。昔と今が描かれています。
たいらさんが活動を始めたのは1997年のこと。きっかけは病気で余命を告げられた父親のために養生食を作ったことでした。小さな子どもを抱えながら、安全安心な無農薬野菜を必死で探し回った経験が、食について、土について考える契機になったと言います。
「始めて1カ月くらいすると父の顔色が本当に変わって。結局、食べ物が命なのだと。存在そのものを左右するものだとあらためて気づかされました」
どうすればそうした野菜が手に入るのか、いろいろと調べる中で自然環境へと意識が向かったそう。「山、川、海はつながっていて、自然はさまざまなものを私たちに与えてくれます。土壌を還元し、水を浄化し、栄養源を回して私たちの体を健康にしてくれる。なのに自分は何もしてないな、お返しをしていないなと思ったんです」
そこから里山保全の週末ボランティアに参加するなどの行動を起こしながらも、もっと日々の暮らしと自然、そして土壌改善を結びつけることはできないか…と思いを巡らせ、たどりついたのがコンポストでした。
「母が長年コンポストをしていて、これってすごいなと。生ごみが減って、ごみ収集の費用も削減できて、作物の栄養源になって、いいことしかない。これに特化してやろうと思ったんです」
半径2kmの取り組みで自分事に。
コンポストから意識を変えたい
「父の看病の約2年間は半径2kmの中で生活していました。その中で自然のこと、環境問題のことをすごく自分事として捉えられたんですね。なので活動コンセプトに『半径2kmの栄養循環』を掲げて、まず身近なことからやってみようよと、言いたかったんです」
重視したのが「楽しく続けられること」。重い、面倒、ニオイなどコンポストに抱きがちなストレスをできるだけ軽減。「生ごみを入れる、かき混ぜる、1日1分ほどの手間と時間でできるように、忙しい方でも続けやすいように考え抜きました」
さらにサポートにもこだわりが。動画のほか、メッセージアプリや電話による個々の問い合わせにも対応しています。「コンポストの状態は季節や置く環境などで千差万別。くじけないためにもサポートは大事。今はサポートメンバーの育成にも力を注いでいて、定期的なお声掛けなどもしていこうと思っています」
「LFCコンポスト」から
回す暮らしを!
コンポストの使い方を簡単にご紹介。約2カ月間生ごみを入れて、そのあと熟成期間3週間ほどで堆肥に。
基材をバッグの中に入れます。基材は生ごみの分解を速め、悪臭の発生を抑える独自の配合です。
風通しのよい、ベランダなどに設置。脚のついた網台の上に置きます。
ローカルフードサイクリングでは軒先の網棚に設置。
入れるのは生ごみのみ。一口大にした生ごみを基材の中央に入れ、軽く混ぜます。
投入期間中は、入れて混ぜるを繰り返します。ファスナーは端まできっちり閉めます。
生ごみ投入期間が終了後、熟成させます。熟成期間は3週間ほどです。
出来た堆肥は、土と混ぜて使います。家庭菜園などに活用できます。
「回す」ことで、
暮らしがもっと楽しく豊かに
社員ランチには山盛りサラダ! 野菜やエディブルフラワーを入れた生春巻き、小豆と間引き菜をのせて土をイメージしたポテトサラダ、野菜だしのスープなど。元気もりもりの野菜は味わい深く満腹に。
庭で収穫。野菜もハーブもすくすく育ち、使いきれないときは、ご近所の方に自由に持ち帰ってもらうことも。
社内のキッチンで調理してランチに。日々、回す暮らしを実現します。調理時に出た生ごみは計量してコンポストへ。
レモングラスやミントなど摘みたてハーブを入れたハーブウォーターサーバーも。
今回お話を伺った社屋は民家をリノベーションしたもの。屋上や庭にはコンポストを設置し、出来た堆肥を使った菜園にはベビーリーフやにんじん、小松菜、ケール、ネギ、ミントなど、さまざまな野菜やハーブが。どれもみずみずしく、すくすくと育っています。
育てた野菜やハーブは収穫して、毎日の社員ランチとしていただきます。もちろん調理時に出た生ごみはコンポストへ。回す暮らしを体現しながらコンポストのさらなる普及へと取り組みを進めています。
これまでユーザーからは「思ったより簡単」「生ごみがこんなに減るんだ」など驚きの声が多いそう。「卵の殻はOKだけどシールは外さないとねとか、やってみて気づくことも多いと思うんです。中には、おそるおそる始めて1年後には畑を借りていたという方もいて。コンポストを通じて少しずつ行動が変わってくるんだと実感しました」
「ローカルフードサイクリング」ではさらに大きな「回す」仕組みづくりも。農家さんと連携して、出来た堆肥を届け、それで育った野菜が還ってくるサービスや、循環型コミュニティガーデンなど地域で堆肥を活用することも。取り組みが注目を集め、活動の輪も広がっています。
微生物を育てたら、次は野菜を育てて…。コンポストで新しい暮らしを。
「人の意識を変えるのが、このコンポストの一番大きな部分。自分たちでやろうという気持ちにさせてくれる」と言うたいらさん。コンポストをすることで、堆肥をどう活用するかなど考えるきっかけになれたらとも。キッチンの小さな取り組みが大きな環境の循環につながるとしたら…新たな気づきや思考がそこから生まれるかもしれません。
ローカルフードサイクリング
福岡県福岡市東区香住ヶ丘6-12-3
tel.092-402-1575
10:00~16:00
土・日・祝日休み
※現地の見学は行っていません。
lfc-compost.jp
https://www.instagram.com/lfc_compost/
https://www.instagram.com/lfc_lunch/
※表示価格は消費税込み2024年4月現在。
詳しくはローカルフードサイクリングのウェブサイトをご確認ください。
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