『子どもが生まれたら犬を飼いなさい』という言葉があります。
これは子どもの成長に、犬が果たす役割の大きさを伝えるものです。
遊び友達として楽しい時間を過ごし、世話をすることで責任感を育み、
かけがえのない命の大切さにも気付かせてくれます。
ここでは、子育て家族が犬とうまく暮らすポイントを解説。
犬種選びや、しつけなど接し方の注意点のほか、
愛犬と快適に生活できる住まいについてもご紹介します。
Part1犬が子どもに与える影響

忙しい子育て世帯が、ペットとして犬を飼うにはそれなりの負担があります。しかし、人間と動物が共生してきた長い歴史からも分かるように、動物との触れ合いが良い影響を与えることはよく知られています。子どもにとって、心理的・身体的・社会的な側面でどのようなメリットがあるのか見てみましょう。
心の成長につながる
犬は本来集団で行動する動物だといわれ、家族を一つの「群れ」と認識して寄り添って暮らします。そのため子どもにとっては犬を兄弟姉妹に近い、家族の一員のように感じることが多いでしょう。一方で、犬は飼い主が散歩や食事などの世話をしなければ生きていけない存在です。自分がその世話をしなければという気持ちから、子どもに優しい思いやりの心が自然と育まれる機会にもなるはずです。無償の愛情を感じられる犬との触れ合いは、学校や友達関係のストレス、孤独感も和らげ、心の安定を保ちやすくしてくれるでしょう。
責任感と命の大切さを学ぶ
犬を飼うと、食事の準備や散歩などの世話を毎日しなければなりません。また、排せつ物の処理も欠かせません。定期的なシャンプーや爪切り、歯磨きなどのグルーミングも行います。病気になれば看病し、人間よりも寿命が短いため、やがてくる別れにも直面することになります。ペットを飼うことで責任感や、命の尊さと向き合うことを子ども時代に学ぶのは、貴重な経験になるはずです。
コミュニケーション能力の向上が期待できる
人間の言葉をしゃべることができない犬とのコミュニケーションでは、犬の表情や動き、ほえ方などから、「うれしそう」「元気がない」「おなかが減っている」など気持ちを読み取ることになります。人間と犬とで互いに相手の気持ちや要求を理解し合うことで共感力が高まり、豊かな情緒が育まれます。また、犬と散歩すると、犬連れの人と出会うことがあり、知らない人同士でも犬の話題で会話することがよくあります。近い年齢の子どもだけでなく、普段は話す機会がない大人ともコミュニケーションが取れるようになり、人間関係が広がるかもしれません。
体力向上や運動の習慣化が期待できる
犬と一緒に毎日散歩をすることで子どもに運動習慣が身につきます。塾や習い事で忙しく、体を動かして遊ぶことが少なくなりがちな場合でも、ドッグランで遊んで活発に体を動かすことで、健康や体力の向上につながるでしょう。犬と外出することは運動不足の解消になるだけでなく、日光を浴びることで子どもの成長にとって大切なビタミンDの生成も促されます。子ども時代に体を動かすことは、大人になってから健康な体を維持するためにも、とても大切なことです。
Part2犬を迎える年齢 犬との安全な触れ合い方

「何歳からなら犬を飼っても大丈夫」とは一概に言えませんが、もとから犬を飼っていて、後から赤ちゃんが生まれた場合を除き、乳幼児の子育て期に犬を迎え、育児と犬の世話を両立させるのは大変かもしれません。子どもがいる家庭で犬を迎えるには、子どもにある程度物事の善しあしの判断がつき、犬の接し方や世話について教えると、理解して実行できる年齢になってからが良いでしょう。
5~9歳
子どもが犬に食事をあげるなど、責任感を持って接することができる年齢です。食事をあげるだけでなく、犬がこぼした飲み水や食べ物を片付ける役割も与えてあげると良いでしょう。
飼う犬のサイズや性格、しつけ度、状況などによっては、散歩中に子どもが犬のリードを引くこともできるかもしれません。リードを一人で持ちたがる場合は、危ないからと禁止せず、状況が許す場所で大人が補助して安全を確かめながら徐々に任せるようにしましょう。ちゃんとできたら褒めてあげることで、子どもは大人から認められたと自信を持てるようになります。また、排せつ物の片付けや散歩後の手洗いなどの、衛生習慣を覚えることも必要なので、ご家族がフォローしながら教えるようにしましょう。
10歳以上
子どもが10歳以上になると、食事や遊び、運動、トイレ、グルーミング(ブラッシングやシャンプーなど)といった、犬の日常的な世話を自分でできるようになります。そのため、犬との接し方や散歩の時間など家庭である程度ルールを決めたら、世話を部分的に任せてあげると良いでしょう。
一つの目安として、10歳未満の子どもについては、犬との関係が十分に築けるまで、「決して子どもと犬だけにしないこと」が重要です。子どもは行動が予測できない上に、行動をコントロールしづらいため、たとえ穏やかな性格の犬であっても子どもの行動に脅威を感じたり不快を抱いたりし、それが限界を超えれば自分の身を守るために攻撃に転ずることもあります。悲しいことですが咬傷事故(こうしょうじこ)はゼロとはいえません。
環境省の資料によれば、2022年度の犬による咬傷事故件数は4,923件。そのうち飼い主・家族がかまれた例は204件で、中にはかまれた人が死亡に至ったケースも1件あります。そういったリスクも踏まえ、不要な事故を防止するためにも親の監督は何よりも大事です。
※出典:環境省HP「犬による咬傷事故状況(全国計:昭和49年度~令和4年度)」より
Part3子どもがいる家庭におすすめの犬種

犬種により外見や気質、運動動力など特徴が違うのはもちろん、一頭ずつ性格が異なります。ぜひ子どもと相性が良い“ワンちゃん”を見つけたいものです。犬を探すときは、「穏やかでおおらか」「好奇心がある」「遊び好きで活発」「従順でトレーニングがしやすい」「忍耐強い」などの条件が目安になるでしょう。ゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーもおすすめですが、少しやんちゃな面があり、成犬になって落ち着くのに数年かかることもあるので、犬の飼育経験がある人向きです。
トイ・プードル、
ミニチュア・プードル
プードルには4つのサイズがありますが、手頃なサイズなのが、体高28~35cmのミニチュア・プードルと、体高24~28cmのトイ・プードルです。活発で運動能力が高く、社交的、知能や理解力に優れ、飼い主に従順なのでしつけやすい犬種です。子どもの格好の遊び相手になってくれるでしょう。抜け毛が少なく掃除の手間は少ないでしょうが、定期的なトリミングが必要です。

トイ・プードル
シー・ズー
もともと中国の宮廷で飼われ、犬種名は中国語の「獅子」に由来します。かわいい顔と全身を覆う長毛が特徴で、イギリスへ渡った後、世界各国へ広まりました。人懐っこく穏やかなので、小さな子どもとも仲良く遊べるでしょう。一方で、頑固な一面を見せることもあり、しつけには多少根気が必要とされる場合があるかもしれません。長毛で毛玉ができやすいのでこまめなブラッシングが必須ですが、被毛を短くしたペットカットを楽しむこともできます。

シー・ズー
ビーグル
群れで狩りをする猟犬だったため、争いを好まず協調性や社会性があり、好奇心や探求心も旺盛です。陽気で活発な性格で、長時間駆け回るスタミナもあるため、元気に遊ぶ子どもにぴったりでしょう。やや頑固な一面があることに加え、猟犬だった名残で大きな声でほえることがあります。賢い犬ですが子犬の頃からのしつけが重要であり、十分な運動量の散歩が欠かせません。

ビーグル
柴犬
日本古来の犬種で、猟犬としてのルーツを持ち、忠実で警戒心が強く、忍耐力があるのが特徴です。飼い主以外に懐きにくいといわれていますが、子犬の頃から家族以外の人とも触れ合うことで、フレンドリーな性格になる犬もいるようです。独立心があり、記憶力も良いため、しつけのルールを家族で統一して教えることが大切です。毎日2回、各30分以上は散歩させるようにしましょう。

柴犬
Part4子どもがいる家庭で犬を飼うときの注意点・ポイント

せっかく犬を飼ったのに、子どもと犬が仲良くなれないとがっかりするかもしれません。子どもにアレルギーの症状が出たり、予想しなかった出費や世話の負担があったりして、一緒に暮らすのが難しくなることも避けたいものです。そうならないよう、犬と家族が幸せに暮らすためには、どんな準備をしたら良いのでしょうか。
犬アレルギーの確認と対策が必要になる
犬アレルギーは、犬のフケ、唾液、毛などに含まれるアレルゲン(原因物質)に触れたり、吸い込んだりして、人の体内に入ることで起こります。犬を迎えてから、家族に犬アレルギーがあるのが分かると一緒に暮らすのが難しくなる場合があります。家族全員で犬を飼っている知人宅を訪ねたり、ドッグカフェに行ったりして、犬と触れ合う、または犬と同じ空間にいる機会をつくり、犬アレルギーらしい症状が出るかどうか確かめてみるといいでしょう。もしも症状が疑わしい場合は、医療機関の血液検査などで調べるようにします。
犬と暮らし始めてから、突然アレルギーの症状が出ることもあります。その場合は症状に合わせた治療を受けつつ、状況が許す限り、犬と一緒に暮らせるよう生活環境を工夫する必要が出てきますが、犬の体を清潔に保てるようブラッシングやシャンプーをしたり、室内を清潔にできるよう掃除や換気をこまめにしたり、空気清浄機を導入したりするなどの対策を取るといいでしょう。
経済的な負担を想定しておく
犬を飼うとかかる生涯費用は平均約271万円というデータもあります(平均寿命14.9歳/令和6年(2024年) 全国犬猫飼育実態調査 一般社団法人ペットフード協会)。最初に、犬の購入費用がかかるのはもちろん、食器、ベッド、ケージなどのほか、混合ワクチン、狂犬病予防注射および注射済票交付、市区町村での登録などの費用が必要になります。
フードやおやつ、トイレシートなどの日用品、おもちゃ、シャンプー・トリミング費用などについては、飼っている期間中ずっと発生します。犬種にもよりますが、1年間で平均するとかかる費用は約41万円という調査結果もあります(2024年 ペットにかける年間支出調査 アニコム損害保険株式会社)。
必要に応じて、メスの避妊手術やオスの去勢手術、病気やケガの治療費、旅行中のペットホテル代など臨時でかかる費用もあります。人間と違ってペットには公的な健康保険がないため、医療費が高額になるケースもあり、ペット保険への加入も検討した方が良いかもしれません。子育てで必要な出費も考慮し、経済的に無理なく犬を飼育できるか確認しましょう。
時間と家族の協力体制を確保する
子犬を迎えてから最初の数カ月は、トイレトレーニングや、環境、人、物、音などに慣れさせる「社会化」の期間で、丁寧に見守ってあげる必要があります。その後も、食事の準備、散歩、トイレの掃除、しつけなど、毎日多くの時間を割かねばなりません。特に犬にとって散歩は、運動不足やストレス解消、社会化のために重要で、天候にかかわらず出掛けなくてはならないことがあります。家族が協力して助け合うことが大切になります。
しつけについては、家族の中で大人と子どもで態度や指示が異なると混乱してしまうので、一貫性を持って接することが大切だといわれています。犬を飼うことは犬の一生に責任を持つということです。家族の一員としてしっかり愛情を注ぐようにしましょう。
犬の年齢や子どもの年齢を考慮する
犬は生後3~16週齢頃の体験に順応しやすく、この期間を「社会化期」と呼んでいます※1。生後8~10週齢くらいまでは母犬や兄弟姉妹犬と触れ合いながら、犬社会のルールやコミュニケーション方法などを学び、その後は徐々に人間の社会にも慣れさせていきます。ぴったりな子犬が見つかっても、その時の家族の状況や子どもの年齢も考慮して飼うかどうか判断しましょう。なお、法律によりペットショップやブリーダーは、生後8週齢(生後56日齢)※2を経過しない犬は、販売や展示ができないことになっています。
- ※出典1:環境省HP「子犬と猫の適正譲渡ガイド」より
- ※出典2:環境省HP「STOP!生後56日までの犬猫販売!」より
子どもに犬との接し方を教える、そのための知識を蓄える
犬の性格にもよりますが、子どもが苦手な犬は少なくありません。大人と違って子どもは、突然大きな声を出したり、走ってきたり、しつこく乱暴に接したりすることもあるため、犬にとっては予測不能な脅威を感じる存在になってしまうことがあります。
我慢強い犬であっても、限界を超えると子どもに攻撃的になる可能性もあるので、咬傷事故を防ぐために、「互いに慣れるまで犬の周りでは静かに遊ぶ、大声を出さない」「(特に顔を近づけて)犬の目を見つめない」「犬が嫌がったらやめる」「なでるときは顎の下あたりから」など犬との接し方を教えます。また、犬が不快や脅威を感じたとき、静かに過ごせる居場所を設ける必要もあります。
これらのほか、親は飼い主として、子どもと犬をリードできるよう、犬の生態や習性、社会化、ストレスサイン、食事、人畜共通感染症を含む病気、しつけ、手入れなど犬に関する知識を蓄えておくことが大切です。
外出時の対応を知っておく
元来群れで生活していた犬にとって、独りで過ごすことは得意ではないようです。家族の外出時にほえたり、家具などを壊したりすることがありますが、これは家族がいないことで強い不安を感じる「分離不安症」が原因のようです。予防や対策としては、「犬が少しでも落ち着いていられる場所をつくる(クレートトレーニングをする)」「犬が独りでも不安を感じないようトレーニングを重ねる」などの方法があります。 また犬を置いていかねばならない際に、ペットカメラで外出先から見守るという家族も増えているようです。長期の不在に備えて、世話を任せられるペットホテルなども見つけておくと安心です。

住環境を整える
犬との暮らしを始める前に、家の中のモノを整理したり、家具を移動したりして、環境を整えましょう。子犬の場合は、電源コードや家具の脚をかじるなどのいたずらを前提にした準備が必要です。インテリア小物やアクセサリーなども、誤飲事故が起こる可能性があります。フローリングで滑って転んだり、勝手に階段を上り下りしたりして、ケガをしないようにしなければなりません。
なお、マンションなど集合住宅では、賃貸と分譲のいずれでも、入居条件で「ペット可」となっている物件は限られます。特に大型犬と一緒に暮らそうと思うと、かなり選択肢が少なくなってしまいます。飼うことができる犬種や、建物内でのルールなどを守って、快適に暮らせるようにしましょう。
犬を迎えるのと同じタイミングで家づくりを考えているなら、犬が快適に暮らせる工夫を取り入れられると良いでしょう。
犬と暮らすにはいろいろ準備も必要ですが、犬は一つの命ある動物です。犬の平均寿命は年々延びる傾向にあり、公益社団法人日本獣医師会のHPにある「家庭動物(犬猫)の高齢化対策」には、以下のような記述もあります。
『1980年は、犬猫の平均死亡年齢は3~4歳、1989年は10歳前後、1998年には14歳に達し、その後10年間は13~14歳で推移している』
出典:公益社団法人日本獣医師会の「家庭動物(犬猫)の高齢化対策」より(発表者:須田沖夫、須田動物病院における犬猫の死亡カルテを30年分集計)
一方、アニコムの調査によれば、2008年度の調査では13.2歳だったのが、2022年度には14.2歳になっています(家庭どうぶつ白書2024 アニコム ホールディングス株式会社)。中には20年前後生きる犬もいますしが、データが示すように犬の平均寿命は年々延びる傾向にあります。
長い年月、共に暮らす以上、子育てや、引っ越しなどのライフイベントで生活環境が変わっても、最後までその命を預かり続けるのだという自覚と責任を持つ必要があります。
例えば、ご自身やご家族の加齢による体力的な変化も想定しておかなくてはなりません。特に大型犬や運動量の多い犬種の場合、若い頃は問題なくできていた散歩やケアが、加齢によって大変になる可能性も考えられます。また、子どもが成長し独立した後も、犬との暮らしは続きます。その世話の責任を最終的に誰が担うのかまで見据える必要があります。
こういった点も踏まえて、ご自身の家庭で本当に最後まで飼い続けられるのかを熟考した上で、飼育を決めましょう。
Part5犬と暮らす家づくりをしよう

近年、ペットは単なる愛玩動物ではなく、人生のパートナー・家族と捉える人が増えているようです。犬の習性や行動パターンを踏まえた家づくりにより、犬が安全にのびのび遊べて、リラックスできる居場所があり、人間も掃除などの世話がしやすい。そんな理想的な住まいを建てたいものです。
分譲マンションでも足洗い場などペット用の共用設備があり、小型犬なら飼育可というところもあります。しかし、外構を含めた設計が可能な戸建ての方が、犬種によって異なる習性などに対応しやすく、犬にとってより快適な環境を実現できそうです。大和ハウスでは、さまざまな生活シーンに即したきめ細やかなアイテムやプランで、犬と快適に暮らせる家を提案しています。
散歩や運動が大好きな犬のために、庭で遊べるドッグランや室内で自由に動ける回遊動線、家族の気配を感じながら過ごせる居場所、専用のトイレスペースも設けるなど、犬目線の快適設備を用意。犬用の足洗い場や散歩グッズをしまえる玄関土間収納、犬のシャンプーができるよう設計されたマルチシンク、ニオイを除去する天井埋込型の空気清浄機などで、犬の世話がしやすくなるよう工夫しています。
犬が滑りにくいフローリング、暑さが苦手な犬も快適な床タイル、火を使うなど危険なキッチンへの立ち入りを制限するペットゲートのほか、災害時用のドッグフードや水を備蓄できる収納など、犬の健康や安全にも配慮しています。詳しくは大和ハウスのWebサイトのほか、住宅展示場を訪ねて、確認してみてはいかがでしょうか。
お話を伺った方
大塚 良重さん
犬専門の文筆家・ライター歴30年。1頭の犬との出会いが人生を変える。愛犬への感謝を胸に、ライターへと転身した後、犬専門月刊誌、新聞での連載や取材記事、書籍、一般雑誌、WEB等で執筆。特に犬の介護、シニア犬、ペットロスはライフワークテーマで、「犬と人との関係」に最もアンテナが動く。信条は、“犬こそソウルメイト”。自著に難病を抱えた少女と愛犬たちとのつながりを描いた『りーたんといつも一緒に』(光文社)がある。