低金利時代に入り、銀行に預けていてもお金は増えないということが広く認識されただけでなく、少子高齢化問題によって公的年金だけでは、資金面で老後生活に不安を及ぼすということが浸透し、多くの方は将来のお金に不安を持っているのではないでしょうか。
国は政策によって公的年金にプラスする形の確定拠出年金法を2001年に成立させ、ご自身で老後資金を運用する「自助努力」を進める制度を整え、運用が開始されました。
その導入から20年がたった今では、自助努力による資産運用によって老後のお金の不安を少しでも補いたいという方が個人型確定拠出年金(以下iDeCo)に加入し、その数は年々増えています。
iDeCo(個人型)の加入者数の推移
※出典元:厚生労働省ホームページ 規約数等の推移
iDeCoをきっかけに資産運用を始めた方もいらっしゃると思いますが、今回は初めて資産運用を始める方向けに、大切な情報をまとめてみました。
まず資産運用のなかでも税制優遇制度のあるiDeCoとNISAという商品について確認してみましょう。
iDeCo
確定拠出年金には掛金を事業主が拠出する企業型確定拠出年金と、加入者自身が拠出する個人型確定拠出年金(iDeCo)があります。国を挙げての政策であり、強力な税制面での後押しもあったことで、2021年3月末で企業型確定拠出年金は746.9万人、iDeCoは193.9万人が加入し運用しています。ここでは個人のお金をご自身で運用し、もうひとつの年金にするための資金を作るiDeCoについて確認してみましょう。
掛金は60歳まで拠出・運用することができ、基本60歳以降に老齢給付金として受け取ることができます。ただし60歳時点で加入から10年を経過していない場合は、通算加入者等期間に応じて、受取開始可能年齢が定められていますので確認が必要です。
iDeCoの最大のメリットは税制優遇にあります。掛金が全額所得控除されるだけでなく、通常金融商品の運用益には課税(源泉分離課税20.315%)がかかりますが、iDeCoの運用商品の運用益については、非課税となります。また、受給時には所得控除の対象になるなど、いくつものメリットがあります。
iDeCoの拠出限度額は以下になります。
iDeCoの拠出限度額
加入資格 | 加入対象となる方 | 掛金 | |
---|---|---|---|
自営業者(第1号被保険者) | 日本国内に居住している20歳以上60歳未満の自営業者、フリーランス、学生など | 月額6.8万円 (国民年金基金または国民年金付加保険料との合算枠) |
|
会社員公務員等(第2号被保険者) | 会社に企業年金がない会社員 | 60歳未満の厚生年金の被保険者(会社員、公務員)の方 | 月額2.3万円 |
企業型確定拠出年金に加入している会社員 | 月額2.0万円 | ||
確定給付企業年金、厚生年金基金と企業型確定拠出年金に加入している会社員 | 月額1.2万円 | ||
確定給付企業年金、厚生年金基金のみに加入している会社員 | |||
公務員等 | |||
専業主婦(夫)(第3号被保険者) | 20歳以上60歳未満の厚生年金に加入している方の被扶養配偶者の方 | 月額2.3万円 |
また、2020年の制度改正により、今後さらに内容が充実することとなりそうです。特に注目なのが、現在60歳未満の加入対象者が原則65歳未満まで加入年齢が拡大される予定ということです。(2022年5月1日施行予定)
税制優遇を受けながら、資産運用期間が5年延びるといういうことは、さらに老後のお金を増やすチャンスが広がるということになるでしょう。
それ以外にも企業型確定拠出年金とiDeCoの同時加入要件の緩和(2022年10月1日施行予定)やiDeCoの受け取り開始可能年齢が75歳まで拡大(2022年4月1日施行予定)するといった内容も盛り込まれいます。
NISA
次に株式や投資信託にチャレンジしようとお考えの場合は、NISA口座の枠を利用しましょう。
iDeCoのところで述べたように通常金融商品の運用益には課税(源泉分離課税20.315%)がかかりますが、NISA口座(非課税口座)内で毎年一定金額の範囲で購入した金融商品の利益が非課税となります。
NISAには以下の3種類があります。
内容 | 非課税対象 | 利用 できる方※1 |
非課税 投資枠※2 |
非課税 期間※3 |
投資 可能期間 |
|
---|---|---|---|---|---|---|
NISA | 個人投資家のための税制優遇制度 | 株式・投資信託等への投資から得られる配当金・分配金や譲渡益 | 日本にお住まいの20歳以上の方 | 新規投資額で120万円/年まで (2015年以前分は100万円まで) |
最長 5年間 |
2014年~2023年 |
つみたてNISA | 特に少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度 | 一定の投資信託への投資から得られる分配金や譲渡益 | 日本にお住まいの20歳以上の方 ただし、つみたてNISAと一般NISAはどちらか一方を選択して利用可能 |
新規投資額で40万円/年まで | 期間 20年間 |
2018年~2037年 |
ジュニアNISA※4 | 未成年者を対象とした少額投資非課税制度 | 株式・投資信託等への投資から得られる配当金・分配金や譲渡益 | 日本にお住まいの0歳~19歳の方 | 新規投資額で80万円/年まで | 最長 5年間 |
2016年~2023年 |
- ※1口座を開設する年の1月1日現在
- ※2未使用分があっても翌年以降への繰り越しはできません。
- ※3期間終了後、新たな非課税投資枠への移管(ロールオーバー)による継続保有が可能です。
- ※4ジュニアNISAの運用管理者は口座開設者本人(未成年者)の二親等以内の親族。18歳までは払出し制限あり。
NISA口座を開設する金融機関は1年単位で変更することも可能であり、開設済みのNISA口座において、すでに株式・投資信託等を購入している場合、その年は他の金融機関に変更することはできません。また、NISA口座内で、つみたてNISAと一般NISAを1年単位で変更することは可能です。
iDeCoやNISAという商品は税制優遇という最大のメリットがありますが、投資金額の上限額が決められていますので、まずはiDeCoやNISAで運用し、余剰金がある場合に別途資産運用を考えてもいいでしょう。
投資信託・株式・不動産運用を利用する
iDeCoやNISAのように税制優遇はありませんが、投資信託や株式の資産運用には決まった枠や期間がないために、余剰資産をさまざまな選択肢から運用することができます。少しずつチャレンジしながら勉強する方にも始めやすいと思います。
投資信託はファンドとも呼ばれ、資産運用をしようとしている投資家からお金を集め、まとめた資金で専門家が投資家の代わりに過去のデータや経済状況をもとに綿密な分析を行い運用してくれます。
株式には配当金や株主優待を受けることもできるため、毎年安定して配当金を出している会社の株を長期保有株として持ち続けたり、株主優待を利用し割引料金を上手に利用する株主もいます。
不動産運用
賃貸住宅やワンルームのオーナーになったり、お持ちの土地にコインパーキングを設置するなど、不動産運用をして賃料収入を得ることもできます。
これから住宅建築を検討している方には賃貸併用住宅という方法もあります。これは、住宅の一部に賃貸物件をプラスした建物である賃貸併用住宅にすることで、その賃料収入を住宅ローンの返済に充当したり、また住宅ローンの完済後は年金代わりに賃料収入を得ることができます。自宅部分については住宅ローン控除も受けられ、経済の状況によって値動きが激しい株などに比べて、立地によっては安定した収入が期待できます。
最近では太陽光発電、蓄電池、燃料電池の全天候型3電池連携システムを備えたZEH住宅など「お金をかけるだけの家づくりではなく、お金を生み出す家づくり」も注目されています。
※ZEH:家庭における電力、ガス等からのCO² 排出を削減するため、高い省エネ性能と太陽光発電システムや燃料電池を用いて、正味のエネルギー消費量をゼロにする「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」の略
リスク
資産運用にはそれぞれリスクが伴います。投資でよく使われる格言に「卵は一つのカゴに盛るな」というものがあり、これは一つのカゴに盛った卵は、カゴを落とした瞬間にすべてが割れ、いくつかのカゴに分けて入れておくことで、被害が最小限に抑えられるという例えです。
そこで、資産運用ではリスクを最小限に抑える方法として、分散投資という考え方があります。
分散投資
まずお金を今使うものと当面は使わないものに分けます。今使うお金はすぐに現金化できる預貯金とし、当面使わないお金を投資資金とします。これで、資産運用のバランスを取っていきましょう。次に投資資金をリスクに分けて分散投資します。
①商品分散・・・表のようにまずは商品を分散させていきます。またそれぞれの商品のリスクをしっかりと知り、リスクを分散させることで万が一のときに対応することができます。
主なリスク | |
投資信託 株 |
・価格が日々変動するため、値下がりするリスクがある ・企業が倒産することもある ・外国株の場合、為替の変動リスクがある |
---|---|
不動産 | ・空室になってしまうリスクがある ・家賃回収が滞るリスクがある ・管理、修繕、維持に費用がかかる |
②通貨分散・・・円だけでなく、米ドルや豪ドル、ユーロなど手軽な世界各国の通貨の外貨建て商品があります。国内と外国、先進国と発展途上国など地域分散して投資することができます。
③期間・時間・・・資産運用には大きく分けて長期と短期の運用があります。長期運用では、価格が変動する特定商品に対し、毎月同じ金額を長期で運用した時に、高い価格では少ししか購入できない一方、安い価格の時には多く購入できるドルコスト平均法という運用方法が、結果的に平均買付単価を低く抑えられるとして、多く取り入れられています。短期運用では、安い時に購入し高くなったら売るという見極めが非常に重要な運用になります。
まとめ
お金の価値はいつでも同じというものではありません。物価の動きを表す言葉にインフレ・デフレという言葉があります。インフレとは物価が上がって、例えば今まで100円で買えていたリンゴが120円になり、実質的なお金の価値が下がってしまうことをいい、デフレはその逆で、100円のリンゴが80円で買えることを言います。
このようにお金の価値というのは、経済全体で見た需要と供給のバランスなどの影響を受けて変化するものなのです。お金を銀行で眠らせるだけでなく、動かしてみる=運用することで、お金をさらに生かすことができるかもしれません。
執筆者
山田健介
FPplants株式会社 代表取締役社長
住宅メーカーから金融機関を経て「お客さまにお金の正しい知識や情報をお伝えしたい」という思いからFPによるサービスを行う会社を設立。現在は全国のFPを教育する傍ら、執筆、セミナーを行う。特にライフプラン作成、住宅、保険に関する相談を得意とする。
※掲載の情報は2021年7月現在のものです。内容は変わる場合がございますので、ご了承ください。