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生活を考える

異常気象で住まいの2大リスクが顕在化改めて考えたい、
快適な住まいのあり方

本来住まいとは、誰にとっても安全で心安らげる場所であるはず。

しかし、近年は異常気象の影響で極端な暑さや寒さが目立ち、
室内にいるのに快適に過ごすことができず、
「夏は暑く、冬は寒い家」となっているご家庭も多いのではないでしょうか?

夏に冷房をつけてもなかなか部屋が涼しくならず、冬は暖房をつけていても足元が寒い。
加えて部屋ごとの温度差も激しく体にこたえる…といったお悩みも日本の住まいではよく聞くものです。

一方、世界では法的に室温を規定している国もあるなど、
「暖かい家に住むことは人権である」という考えがスタンダードになりつつあります。
日本の住まいにおいても、
室温を含めて快適な住まいのあり方を見直すときが来ているのではないでしょうか。

今回は、異常気象で顕在化した住まいのリスクや世界の現状を解説しながら、
日本における快適な住まいの展望を考えていきます。

頻発する熱中症の発生場所1位は「住まい」

2024年8月、気象庁によると東京は月間の平均気温が29℃に達し、観測史上7番目に暑い夏となりました。さらに毎年7月~9月には熱中症で救急搬送される人が全国で続出し、酷暑はもはや深刻な社会課題に発展しています。

実は、この熱中症の救急搬送者がもっとも多く発生している場所は「住まい(住居)」という事実をご存じでしょうか?

毎年夏になると、ニュースなどを通して「熱中症警戒アラート」の注意喚起が行われるため、屋外では多くの人が日傘や水分補給などの熱中症対策をしていると思われます。しかし、ひとたび自宅に帰ると、住まいにいる安心感もあり、熱中症対策への意識が薄くなるという人は少なくないでしょう。こうした、酷暑による健康被害を「ヒートダメージ」と捉えて対策を講じる必要性が高まっています。

たとえ住まいの中でも、猛暑によって室温が上昇すれば、気付かないうちに室内で熱中症になってしまう可能性は大いにあります。近年は広範囲で熱帯夜が観測されていて、夜間でも気温が下がり切らない日もあるため、就寝中に室内で熱中症になる人もいるほどです。さらに熱中症は重篤になると後遺症が残る可能性があるなど、健康を脅かしかねません。

そのため暑い時期には「昼夜を問わずエアコンで室温を適正に管理する」「窓からの直射日光を遮れるよう工夫する」など、ご自身や家族の健康を考えた住まいの環境を整えていく必要性がより一層高まっているのです。

真冬に急増するヒートショックは「住まいの温度差」が要因

一方で、寒波が訪れる冬の住まいには別の社会課題が潜んでいます。

毎年11月~4月になると、主に住まいの浴槽で「不慮の溺死・溺水による事故死」が急増することをご存じでしょうか? 入浴関連の事故死には飲酒や転倒も含まれますが、主な原因として考えられているのは急激な温度差で生じる「ヒートショック」です。または、ヒートショックは温度差による健康被害であることからも「コールドダメージ」と捉え直す方がイメージしやすいかもしれません。

ヒートショック(=コールドダメージ)とは?


  • 暖かいリビングから寒い脱衣所・浴室に移動し、熱い湯船につかる
  • 暖かい湯船から急に立ち上がる

上記のような「急激な温度変化を伴う行動」によって、血圧が上下に変動して起こる健康被害。ヒートショック(=コールドダメージ)は一過性の意識障害を起こすことがあるため、入浴中に意識を失ったまま浴槽で溺れてしまう可能性がある

日本の住まいは部屋ごとに暖める「個別空調」が基本のため、部屋ごとの温度差が生じやすくなります。その上、日本人は元来お風呂好きで、国内の住宅のほとんどに浴槽が設置されているほど。「毎日の入浴タイムは1日の疲れを癒やすために欠かせない」という人は多いでしょう。

しかし入浴関連の事故死は交通事故死の2倍以上も発生しており、さらに入浴関連の事故は冬季を中心に起きています。もはやヒートショックは熱中症と同じく、重要な社会課題といえます。

※出典:消費者庁「無理せず対策 高齢者の不慮の事故」(令和4年12月作成)

一方、地球温暖化により「冬の気温は今後暖かくなるのでは?」という予測もあります。しかし、近年増え続ける異常気象で、局地的な大雪や季節外れの寒波が発生する可能性も指摘されています。入浴タイムを安全に楽しむためにも、やはり寒い時期も同様に、室温には気を付けなければならないのです。

世界では室温規制が存在する国もあるが…日本では?

酷暑や豪雨、豪雪など、予想もできない異常気象が発生する中、住まいにおける室温や湿度管理の重要性が増しています。

実際にWHO(世界保健機関)では、寒さによる健康影響から居住者を守るため室内温度を18℃以上に保つことを強く勧告しています。すでに一部の国では住まいの室温を一定に保つ法規制があり、室温管理を怠ると罰則を受けることもあるほどです。

ここでは、世界の国と日本における室温への意識の違いを見てみましょう。

セントラル空調が主流の欧米では厳格な室温管理が

欧米では、建物全体の空調を1カ所で管理する全館空調(セントラル空調)が基本です。そのため日本よりも空調管理の規制が厳しく、不動産オーナーには適正な室温管理が求められています。

例えばイギリスの一部地域には住宅品質ガイドライン(Housing Health and Safety Rating System, HHSRS)があり、健康的な室内温度として21℃が推奨されています。室温管理の義務を放棄したオーナーには、地方自治体から改善措置が要求されることもあります。

アメリカでも、いくつかの州・市において賃貸住宅の室温規定があります。ニューヨーク市では外気温が13℃以下になると、オーナーは日中(午前6時から午後10時)の室温を20℃以上に保たなければなりません。

また、夏は猛暑、冬は極寒が訪れるカナダのトロントでは、条例ですべての不動産に室温基準が設けられている徹底ぶりです。賃貸住宅のオーナーは9月15日~6月1日までの間、室温が21℃以下にならないように暖房を提供する義務があります。

このように、欧米の住まいは多くが全館空調ということもあり、「暖かい家に住むことは人権である」という思想が広く浸透しています。彼ら・彼女らにとって室温の快適さは単なる嗜好ではありません。室温は健康を大きく左右する要素であり、生きるために不可欠という認識なのです。

出典:WHO「住宅と健康に関するガイドライン」

個別空調の日本でも室温管理を見直す機会

日本では個別空調が基本という背景もあり、欧米のような室温規制はありません。

高温多湿の日本では、断熱性や気密性よりも風通しの良さを重視した住まいが普及してきました。外気が室内に入って室温が急上昇しても、部屋ごとの温度差が違っていても、「日本の住まいとはそういうもの」と受け入れてきた結果なのかもしれません。

とはいえ、近年の日本では、先述の通り室温上昇による熱中症や室内の温度差によるヒートショックのリスクが高まっています。また、他国と比べて日本はヒートショックと思われる入浴関連死が特に多いのです。

日本もドイツも世界有数の高齢社会ですが、75歳以上の高齢者溺死者数は日本のほうが圧倒的に多く、ドイツの約20倍。住まいの多くに浴槽がありお風呂好きという国民性に加えて、個別空調で室内の温度差が激しいことが主な要因と考えられます。

このような事故を減らすためにも、日本でも室温管理は健康管理という認識を持つ必要が出てきているのではないでしょうか。

実際に今、日本の住まいのあり方は大きく変わろうとしています。 例えば、2024年1月1月以降、新築住宅の住宅ローン減税を受けるためには、高断熱・高気密など一定の省エネ基準を満たす住宅でなければなりません。また、3,000m2以上の特定建築物においては、室温を18℃以上28℃以下に設定する空気環境基準ができました。

そうした流れの中で住宅領域では断熱強化の法制化も進んできていて、2025年にはすべての新築住宅の標準が省エネ住宅となり、2030年にはZEH(ゼッチ)水準の省エネ住宅が新築住宅の標準になる見込みとなっています。

これからの「ZEH」について考えてみませんか?

今、日本の住まいのあり方が変わろうとしています。ここからは2030年に新築住宅の標準となる「ZEH(ゼッチ)」とは何か、これからのZEHについて考えていきます。

2030年に新築住宅の標準になる「ZEH」とは?

参考:経済産業省 資源エネルギー庁「ZEH普及に向けて~これからの施策展開~」より作成

ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語で、「エネルギー収支をゼロ以下にする家」という意味です。つまり、家庭で使うエネルギーよりも、太陽光発電などで創るエネルギーが上回るようにし、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする家ということです。

とはいえ、暑さや寒さを我慢して使うエネルギーを抑える、というわけではありません。 ZEH住宅は、住まい全体の高断熱化高性能(省エネ)設備によって「夏は涼しく、冬は暖かい」という快適な室内環境を保ちながら省エネルギー化に努め、さらに太陽光発電などでエネルギーを創ることを目指す住まいなのです。

これまで、個別空調の日本で欧米のような室温管理を実現するには、エネルギーコストがかかるという懸念がありました。その点、ZEHは冷暖房効率が上がるうえ太陽光発電ができるため、エネルギーコストを抑えられます。

また、ZEH水準の住まいは住宅ローン減税の控除額が省エネ基準を満たさない住宅と比べて高くなります。住まいにかかるさまざまなランニングコストを抑えられる点も、暮らしを長期的に考えると魅力的なメリットとなるでしょう。

▼ZEH水準の住まいについての詳細については、こちらのコラムでもご紹介しています。

まとめ

異常気象の影響により、夏は室内での熱中症(=ヒートダメージ)、冬は室内の温度差によるヒートショック(=コールドダメージ)など、住まいにおけるリスクが年々顕在化しています。

※NPO法人 日本健康住宅協会にて定義された名称です

出典:日本健康住宅協会とは

そうした中、世界では室温規制を設け、住まいの室温を快適に保つことは重要な健康管理という認識を持つ国もあります。もちろん、日本と世界の国々とでは住まいや空調管理の違い、気候環境も大きく違うため、一概に比べられるものではありません。それでも、「快適な住まいは健康管理のために不可欠」という考えは、住まいをより安全にするために必要となってくるでしょう。

さらに今後、2025年には一定の要件を満たした省エネ住宅が、2030年にはZEH水準の省エネ住宅が新築住宅の標準となる予定です。今から20年後、30年後の未来を見据え、改めて快適で安全な住まいとは何か、住まいのあり方について考えてみてはいかがでしょうか。

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