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連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目 世界で初めてゼロカーボンを達成した、台湾発のヘアケアブランド「オーライト O'right」

連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目

世界で初めてゼロカーボンを達成した、台湾発のヘアケアブランド「オーライト O'right」

2025.2.28

    台湾在住のノンフィクションライター、近藤弥生子です。前回は台湾のサステナブルな現状について寄稿しましたが、日本に向けてSDGs関連の発信をしていると、「SDGsは大企業が取り組むべきことで、中小企業にはハードルが高い」といったフィードバックをいただくことが少なくありません。

    確かに、大企業から取り組むことで、中小企業や個人事業への打撃を少なくするような政策は台湾にも存在します。ただ、台湾を取材する中で、中小企業の代表や役員たちから「大企業だからこそできることがあるように、中小企業の強みはフレキシブルなことですよ」という言葉を耳にします。

    パワフルな中小企業の事例の一つとして、温室効果ガス(カーボン)の排出量を実質的にゼロにした「ゼロカーボン」のシャンプーを世界で初めて開発した台湾発のヘアケアブランド「オーライト O'right」をご紹介したいと思います。

    世界で初めてシャンプーのゼロカーボンを達成

    2002年、スティーブン・コー氏によって創業されたオーライトは、2006年頃からグリーン・サステナビリティを掲げるブランドに転換しました。その後約20年かけてプロダクトの研究開発、生産、輸送、使用、回収から企業文化、カスタマーサービスや環境教育に至るまで、すべてのプロセスで「グリーン」「サステナブル」「イノベーティブ」というブランドのコアバリューを実現するユニークな企業へと大きく成長しました。

    台湾各地の路面店やデパートなど、オーライトの直営店は現在25店舗(提供:オーライト)。

    世界初のゼロカーボンシャンプーとして注目を集めたのが、オーライトが2011年に発表した「グリーンティ シャンプー」です。

    世界で初めてゼロカーボンを達成したグリーンティ シャンプーのボトルは、底に種がセットされており、使用後に土に埋めるとそこから木が育つ設計。※現在、Tree in Bottleボトルの生産・販売は終了しています(提供:オーライト)。

    2007年に当時はまだ珍しかった「8free」(環境ホルモンなど、健康に有害とされる高リスクな8種類の化学物質を含まない)シャンプーとしてグリーンティ シャンプーを開発したオーライトは、使用後に自然分解されるシャンプーボトルや、100%再生プラスチック(PCR)によるボトル、再生原料で作るポンプヘッドを生み出し、さらなるグリーンの高みを目指していきました。

    2009年には、サプライヤーたちとともに台湾で初めて「カーボンフットプリント(企業活動やプロダクトのライフサイクルにおいて、直接または間接的に発生する温室効果ガスの総量を二酸化炭素の排出相当量に換算したもの)」の導入に踏み切り、2010年に台湾初のカーボンフットプリントラベルを獲得しました。

    カーボンの排出量を把握したオーライトは、次のステップに進むことができるようになりました。事前にカーボンの管理計画を立ててカーボンを削減しながら、排出せざるを得なかった分は外部のカーボンを吸収・除去することで相殺し、実質的に大気中の温室効果ガスを増加させないという流れを作り出したのです。翌2011年、グリーンティ シャンプーは、二酸化炭素の排出量と吸収量を相殺する「カーボンニュートラル(ゼロカーボン)」を達成しました。

    創業者のスティーブン氏によれば、シャンプーが最もカーボンを発生させるのは製造工程ではなく、消費者によって使用されるタイミングなのだそうです。シャンプーを洗い流すためには大量の清潔なお湯を必要とし、洗い終えたらドライヤーで乾かさなければなりません。オーライトはこの点まで考慮してプロダクトの改良を進めたのでした。

    廃棄されるコーヒーかすから栄養成分を抽出して作られた、頭皮ケアもできる「Recoffeeシリーズ」。使用後は自然分解されるボトルにもコーヒーかすを配合し、ボトルの底にはコーヒーの種が入れられている(提供:オーライト)。

    また、コーヒーブームの裏で大量に廃棄されるコーヒーのかすから栄養成分を抽出し、シャンプーや育毛液といったプロダクトに活用することで生まれた「Recoffeeシリーズ」もまた、オーライトの代表作になりました。

    2020年にオーライトは全プロダクトでゼロカーボンを達成。100%再生プラスチック(PCR)ボトルを採用し、健康に有害とされる16種類の成分を使わない「16free」を実践しています。

    大企業であることより、グッドカンパニーであることの方が重要

    オーライトのプロダクトは、ごく最近までヘアサロン専売品でした。台湾における提携サロンは2020年に7,000店を超え、全台湾のサロンの約30%を占めるまでになっています。現在ではコンビニやスーパー、路面店での販売も行われているほか、40の国と地域への輸出も展開しています(2023年末時点)。

    従業員は300人規模の中小企業ですが、スタッフの給与を年間3〜5%引き上げながら会社の業績は安定して成長しており、2020年の売上高は55億元(約275億円)を突破。純利益は8,000万台湾元(約4億円)を超え、コロナ禍でも前年度比30%の成長を遂げることができました。

    世界の栄誉あるグリーンアワードでも、大企業と並んで高く評価されてきました。

    2020年にはAppleや半導体のTSMC(台湾積体電路製造)らと同時に2020年「RE100」グローバル・トップ15のグリーンリーダー賞に選ばれました。

    オーライトは早くから率先して再生可能エネルギーを使用しており、2025年には100%を達成できる見込みです。台湾を代表する半導体大手のTSMCは2050年に100%達成を宣言していますから、オーライトは彼らより4半世紀早いというわけです。

    さまざまな賞を受賞する中で、オーライトはよく「あなたたちは毎年中小企業カテゴリに入ったままですね。どうして大企業に成長しないのですか?」と質問されていますが、スティーブン氏は決まってこう答えています。

    「大企業であることより、良い企業(グッドカンパニー)であることの方が重要です」「売上額は少なくても、私たちの影響力はとても大きいのですよ」

    国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP2022)で講演する、オーライト創業者のスティーブン・コー氏(提供:オーライト)。

    オーライトが中小企業ながらこれだけ目覚ましい実績を残すことができているのは、誰もやっていない頃から「グリーン」「サステナブル」「イノベーティブ」へとブランドを転換させたことの結果であるように思えます。

    カーボンフットプリント、カーボンニュートラル、再生可能エネルギーなどというテーマに大企業よりずっと前から着手してきた結果、オーライト自身が強い競争力を高めたと同時に、再生プラスチック材料メーカー、分解可能なボトルの製造業者といったオーライトのサプライヤーたちも、海外の大手メーカーからの受注や投資を受けるようになっています。

    世界から視察が絶えないグリーンビル

    台湾の桃園市にある工場を附設した本社ビルは、スティーブン氏が独学で設計した生態系と共存する構造と、隅々までグリーンでサステナブルを実践していることから「グリーンビル」と呼ばれ、政府のグリーン建築認証をダブル取得しています。

    桃園市・龍潭にある1,500坪のオーライト本社は、「グリーンビル」と呼ばれている(提供:オーライト)。

    屋上には風力発電設備やソーラーパネルが設置されているほか、排水処理ではプロダクトの製造に使用した排水と雨水を回収して再利用するシステムが作られています。水は循環して使用されており、オフィスの入り口には大きな水のカーテンが作られ、オフィスに吹き込む山風を冷やし、一年のうち300日以上冷房をつけなくても快適に過ごすことができています。

    高校以上の学校、企業、地域や団体に向けて無料で開放され、専門のガイドが案内してくれるグリーンビルは、たちまち環境教育における人気の見学施設になりました。2020年末までに世界70カ国から3万人ほどが訪れたとのことです。

    中小企業であることを理由にサステナブルであること、SDGsの達成に消極的になる必要はないのだとオーライトは示してくれており、それが台湾をはじめ、海外の企業にも影響を与えていると思います。

    PROFILE

    近藤弥生子

    近藤弥生子Yaeko Kondo

    台湾在住ノンフィクションライター。1980年生まれ。東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年に台湾に移住。日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作会社を設立。オードリー・タンからカルチャー、SDGs界隈まで、生活者目線で取材し続ける。近著に『心を守りチーム力を高める EQリーダーシップ』(日経BP)、『台湾はおばちゃんで回ってる?!』(だいわ文庫)、『オードリー・タンの思考』(ブックマン社)

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    大和ハウスグループのカーボンニュートラル戦略については、こちらからご覧いただけます。

    脱炭素への挑戦 -カーボンニュートラル戦略-

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