何も対策をしないことが一番大きなリスク!空き家にさせない!「実家信託」※1のススメ 第5回 実家の共有防止信託
公開日:2017/02/28
あなたの実家の名義は共有不動産ではありませんか?例えば、父と母の共有だったり、父と親戚の共有だったり。もしくは、今は実家が共有でなくても、親が遺言をせずに亡くなった場合には相続人での共有になってしまう可能性があります。世の中でよくある相続のケースをご紹介します。
遺言書を書かずに父に相続が発生したAさんのケース
Aさんは実家の敷地内に自宅を建てて居住しています。Aさんの実家の敷地と建物は父名義です。Aさんには弟のBさん(独身)がいますが、Bさんは実家に寄り付かず、親の面倒もみません。
父は遺言をいつかは書かなくてはと言っていましたが、費用がかかりそうだし「遺言」なんて縁起が悪いと踏ん切りがつきませんでした。また、Aさんも父に遺言書を書くように勧めることは気がひけるので、そのままになっていました。そして父が亡くなった時に年老いた母はすでに認知症で施設に入っていたのです。
Aさんの母の状態は?
遺言を書かなかった父が亡くなると、相続人で遺産分割協議をすることが多いのですが、話がまとまらないと相続人が各自の法定相続分で決められた持分を持つことになり、不動産が共有になります。
Aさんの場合、とても困ったことに、母はすでに寝たきりで判断能力を失ってお話しができない状況でした。遺産分割協議をするため裁判所に母の成年後見人の選任を申立しなくてはなりません。最近は司法書士や弁護士などの専門職が成年後見人に選ばれることが多くなりました。成年後見人は少なくても母の法定相続分2分の1を共有不動産とするか、相当分の財産を金銭などでキッチリと請求してきます。さらに遺産分割協議が終わったからと言っても成年後見人を外すことはできず、母の能力が回復するか、母が死亡するまで継続しなくてはなりません。専門家への報酬も年間数十万円かかってきます。
Aさんの弟Bさんは何と言ってくる?
遺産の話になると、今まで姿を見せなかった弟Bさんが突然現れました。親不孝者のBさんは実家を売って金にしたいと言っています。しかし、父は生前に先祖代々の実家の不動産は売らずに活用してほしいとAさんに言い残していたので、実家を売るには忍びなく、話はまとまりません。家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをしましたが、遺産が相続税の控除の範囲内なので、相続税の支払い期限10ヶ月を考慮する必要もありません。遺産分割調停に持ち込まれる多くのケースは、このように実は相続税のかからない遺産で揉めて長期化しているケースが多いそうです。
遺産分割事件(調停+審判)
遺産分割事件審理期間(27年度)
実家はどうなる?
このように相続人の一人が判断能力を失って不動産が共有になると、その持分がたとえ100分の1であっても、不動産全体が凍結し売却や賃貸が困難になってしまいます。また、相続人間で争いが生じ不動産が共有になると根深い確執によって、実家が空き家の状態で長期化してしまうことが懸念されます。
実家信託を使うと遺言の代わりになります
信託は遺言ではありません。しかし遺言の代わりを果たすことができます。「遺言代用信託」と呼ばれる所以です。信託契約の条項には、財産の管理の方法などが示されており、その多くの条項の中でごくわずかな条項に「受益者死亡後には・・・」と、文言がさりげなく入っています。信託は契約で遺言書の代わりができる画期的な方法なのです。「遺言」という言葉にアレルギーを示す親でも「信託契約書」で契約内容に納得すれば署名して印鑑を押すことでしょう。
実家信託を使うと不動産の共有が防げます
信託は「名義と財産権(受益権)」を分ける仕組みですので、父が元気な間に名義だけをAさんへ変更しておきます。財産権の移動はないので贈与税もかかりませんし、登録免許税のみ(原則、固定資産評価額の0.4%)で不動産取得税もかかりません。父の生前に名義変更を済ませますので、相続になっても不動産の共有が防げることになります。ただし、信託しても不動産の価値が下がることはないので、信託だけでは相続税対策にはならないことは注意が必要です。
受益権が順次指定できます
財産権である受益権の指定は最初が父、父が亡くなったら母、母が亡くなったらAさん、と順々に指定できます。このように順々に財産を指定することは遺言ではできません。上記ように受益権の指定をしておくと、父の死亡により、一旦、母へ受益権が移動しますので配偶者控除を使うことができます。また、母は遺言を書かなくても母の死亡によりAさんへ受益権が移動します。AさんはBさんには最低限の金銭を与えることにし、実家は当面の間、定期建物賃貸借を活用して賃貸することにしました。
実家を貸す!
実家を空き家にするよりは貸した方がいいけれど、従来型の賃貸借契約は、「正当事由」がなければ(原則的に立退料を払わなければ)、賃貸人(貸主)から契約の更新拒絶や解約の申し入れができないことになっています。
これに対し、「定期建物賃貸借契約」ですと、契約期間が満了すれば、更新されることなく、確定的に賃貸借が終了します。もちろん、貸主、借主の双方が合意すれば再契約は可能です。空き家を防いで実家の有効活用のためにも、定期建物賃貸借の普及が望まれるところです。
※1 「実家信託」は、司法書士法人ソレイユが商標登録出願中です。