何も対策をしないことが一番大きなリスク!空き家にさせない!「実家信託」※1のススメ 第6回 任意売却のための実家信託
公開日:2017/02/28
年々、相続放棄の件数が増加しています。空き家対策として出回っている書籍には安易に相続放棄を勧めている書籍が見受けられますが、相続放棄は不動産の凍結に結びつき、空き家の被害をさらに拡大させてしまいます。実家信託で、相続放棄をしても不動産の任意売却をスムーズに進めることが可能となります。
相続放棄の事例
Aさんは親とは独立して暮らしています。Aさんの実家には両親が暮らしていましたが、父Bさんが急死しました。実家の名義はBさんの単独名義です。生前にBさんはCさんから多額の借金をしており、その借り入れの担保として、実家の土地と建物にCさんの抵当権が付いています。 Bさんの債務はかなり残っていて実家を売却しても借金が残る債務超過の状態でした。そこでAさんは借金を相続しないよう、相続放棄をしようと思いました。
相続放棄の数
相続放棄のドミノ倒し
Aさんと母が相続放棄をした場合、Bさんの両親(Aさんの祖父母)もしくはBさんの兄弟姉妹が次順位の相続人になります。そこで、それらの人々に対して、Cさんが返済を求めます。たぶん、請求された次順位の相続人たちも相続放棄をすることでしょう。関係者全員へ相続放棄をするかどうか、Cさんは請求をし続けることになります。そして、「ドミノ倒し」のごとくBさんの一族が全員相続放棄をすると、「相続人のあることが明らかではない状態」になります。つまり不動産の名義人が存在しない状態になるわけです。この段階に至るまで数ヶ月から数年かかることもあります。
相続財産管理人の選任申立?
「相続放棄のドミノ倒し」を経て、ようやく、「不動産の名義人が存在しない状態」になっても、さらに大変な手続きが生じます。
Cさんは不動産の売却をするために、家庭裁判所に予納金(通常50万円から財産の多寡によって異なる)を納めて、相続財産管理人の選任申し立てをしなくてはいけません。選任されるまでには数ヶ月かかる場合もあります。また、不動産は売れればいくらでもよいという訳にはいきません。公正な取引価格での売却が求められるので、不動産を売却するには査定書を添付して裁判所の売却の許可が必要になってきます。
実家の買主が見つかっていても売却ができるまでにとても時間がかかるので、買主は待ってくれないかもしれません。待ってくれたとしても売買金額はかなり低いものになるでしょう。
AさんもCさんも困った!
Cさんが借金を返してもらうために、相続人が相続放棄をしてしまった実家を売却するか競売しようとしても多くの費用と手続き、時間がかかり、売却価格も下がってしまいます。AさんはCさんを困らせたくはありませんでしたが、相続して家を売却してもそれ以上の借金が残ってしまうので、それも困ります。また、Aさんは実家の管理に無関係とはいきません。Aさんは相続放棄をしても次の人が管理できるまで、その財産の管理を継続しなければならないからです。(民法940条第1項)
何も対策をせずに所有者に相続が発生し、相続人全員が相続放棄をしてしまうと、実家は「凍結」し空き家になります。裁判所で財産管理人を選任してもらい売却するまでにはかなりの時間と費用がかかります。
任意売却のための実家信託
実家信託で空き家を予防するには、まず、第一の条件が実家の所有者である父Bさんが元気な間にAさんとの間で「実家信託」を締結しAさんは実家の管理、運用、処分までできるようにしておきます。そして、不動産の名義をBさんからAさんへ変更します。Aさんは相続放棄をしても不動産の名義はAさんのままですので、Aさんが売却することが可能で、Cさんは裁判所に相続財産管理人の選任申立てをしなくて済みます。Aさんは買主との売買で合意が成立すれば、すぐに売却に進むことができ、Cさんは売買代金から借金を回収することができます。
登記事項はどのようになるでしょう?
Bさん名義の実家をAさんが受託者となって、Xさんへ売却した場合には下記の登記になります。Xさんへの売却と同時に信託が抹消されて、普通の不動産としてXさんへ所有権が移転します。その時にCさんの抵当権も抹消されることになるでしょう。
権利部(甲区)(所有権に関する事項) | |||
---|---|---|---|
順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
1 | 所有権移転 | 平成*年*月*日 第****号 |
原因 平成*年*月*日売買 所有者 **市** B |
2 | 所有権移転 | 平成*年*月*日 第****号 |
原因 平成*年*月*日信託 受託者 **市** A |
信託 | 余白抹消 | 信託目録第*号 | |
3 | 所有権移転 | 平成*年*月*日 第****号 |
原因 平成*年*月*日売買 所有者 **市** X |
2番信託登記抹消 | 余白 | 原因 信託財産の処分 |
注意事項は?
BさんからAさんへ信託による名義変更をするときには、固定資産評価額の0.4%(土地は軽減措置により0.3%)かかるのみです。なお、売却が済むまでは固定資産税の納税通知書は受託者のAさんへ送られてきます。
売買の時に買主が負担する登録免許税や不動産取得税は通常の売買と同じで、1.5%~6%の範囲でかかってきます。なお、信託登記の抹消に1筆あたり1,000円かかりますが、信託をしたからといって、不動産の買主の負担が増える訳ではありません。
実家信託で空き家を防ぎましょう
第1回から第6回まで、実家信託の必要性をお伝えしてきました。
内閣府の平成28年版高齢社会白書によると、日常生活に制限のない期間(健康寿命)と平均寿命には10年の差があり、65歳以上の高齢者の認知症患者数2025年には約700万人、5人に1人になると見込まれています。
認知症の増加や相続による紛争等のトラブルによる増加など、実家が空き家になってしまう要因は多いことがお分りいただけたのではないでしょうか?
空き家をこれ以上増やさないために、不動産が凍結して日本社会の活力が低下しないよう、実家信託を活用して各自でできる予防を施していただきたいと切に願っております。
※1 「実家信託」は、司法書士法人ソレイユが商標登録出願中です。