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コラム vol.245
  • 不動産市況を読み解く

2018年6月レポート 賃貸住宅の建築数は今後どうなる? 消費税10%の影響と増え過ぎ議論について

公開日:2018/06/29

今回のレポートでは、賃貸住宅が増えているという議論が沸き立つ中、実際にいま賃貸住宅がどれくらい建てられているのか?そして今年の下期(7月~12月)どれくらい建てられそうか?また消費税増税を控えてどれくらい駆け込み需要が起こりそうか?といった、今後の賃貸住宅市況全般について、5つの図表を使って説明します。一部だけでなく、最後までお読みいただきたいと思います。

貸家着工数の実情:11か月連続の前年同月比マイナス!

毎月公表される住宅着工件数ですが、「賃貸住宅」つまり「建築主が賃貸する目的で建築するもの」(国土交通省の定義)は貸家カテゴリーになります。
賃貸用の住宅の着工件数は、2017年6月以来、2018年4月(執筆時最新データ)まで、前年同月比マイナスが続いています。特に2018年に入ってからは、前年同月比マイナス10%を超える月も出てきました。

図1:貸家着工戸数の月次推移(2018年)

  2018年
1月 2月 3月 4月
貸家着工戸数 28,251 29,420 29,750 35,447
前年同月比 89.2% 95.4% 87.7% 97.9%

※上段:実数値(戸) 下段:前年対比

国土交通省「建設着工統計調査報告」より作成

図1のように、2018年1月、3月はマイナス10%を超えています。2017年1月3月に大きなイベントがあったわけではありませんので、純粋な落ち込みだと思われます。2017年上期までは、右肩上がりだった賃貸住宅の着工件数ですが、ここに来て急ブレーキ感があります。

2018年年間の賃貸住宅着工件数の見込み:昨年対比でどこまで落ちる?

このままのペースで行きますと、年間の貸家(賃貸住宅)の着工件数はマイナスになる事が確実です。
今のところ4月までのデータしか出ていませんので、この先を見通して2018年年間を予測するのは早いと思いますが、概ね8%前後の落ち込みになるものと思います。

図2:貸家着工戸数の月次推移(2017~2018年比較)

  2017年
5月 6月 7月 8月 9月 10月
貸家着工戸数 32,956

35,967

36,365 34,968 37,521 38,017
前年同月比 101.6% 97.4% 96.3% 95.1% 97.7% 95.2%
2017年 2018年 合計
11月 12月 1月 2月 3月 4月
37,508 33,438 28,251 29,420 29,750 35,447 409,608※1
97.1% 97.0% 89.2% 95.4% 87.7% 97.9% 97.7%※2

※1…2007年5月~2018年4月合計
※2…2007年5月~2018年4月合計÷2017年総数

※上段:実数値(戸) 下段:前年対比

国土交通省「建設着工統計調査報告」より作成

図2は、2017年5月~2018年4月(執筆時最新データ)の月次貸家着工件数の推移を示したものです。この間を1年間と見立てると、約40万9000戸。2017年1~12月の1年間が約41万9000戸でしたので、マイナス2.3%となります。
しかし、先に述べたように2018年に入っての落ち込みが大きく、これを下回るマイナスの可能性が高くなっています。一方、次に述べるようなプラスに働く要因もあります。

消費税増税の影響は?

要因とは・・。
今年の秋から消費税増税による住宅などの高額商品において「駆け込み需要」が起こり始めると予想されています。
消費税が8%から10%になるのは、来年2019年10月からです。いまのところ、「予定」となっていますが、現在の政治的な流れからすれば、今回の再々延期はなさそうですので、あと1年と少しで消費税10%の時代が来ます。
長く、消費税5%で慣れてきた日本国民からすると、消費税10%はかなり負担増の感じがあります。特に、最近は外税表記が一般的ですので、値札やメニューなどでのイメージとレジで精算する時の価格イメージが、「あれっ意外と高いな」と思う方が増えているようです。これが、10%になると、さらにこの感覚が大きくなるものと思います。

消費税増税に際して、今回も経過措置がとられることが決まっています。
賃貸住宅の建築には、請負契約を行ってから着工、そして完成、引き渡しまでに、概ね半年以上かかります(建物規模や工法によってはこれよりも早く完成することもできます)。そのため、増税施行日(10月1日)の6ヶ月前の前日(2019年3月31日)までに請負契約が完了した建物については、仮に引き渡しが増税後であっても、増税前の税率が適用されます。これが、「経過措置」です。
こうした流れから、2018年の11月、12月という最終盤あたりから駆け込み需要が起こると思われます。駆け込み需要が少しずつ起こり始めたころに年末を迎えるという感じですので、着工数に多少プラスがある程度という感じになると思われます。

消費税10%に向けての駆け込み需要はどれくらい起こるのか

2014年に消費税が5%→8%になった時、2013年9月末日が経過措置の締め切り日でしたが、2013年の夏ごろ~9月末には賃貸住宅請負契約においてかなりの駆け込み需要がありました。低金利や税制度の変更予定など、消費税増税以外の追い風もあって、2013年は前年対比+11.8%となり、1996年に前年比+12%がありましたが、それ以降昨年(2017年まで)で最も高い伸びを示しました。(後述図3参照)

2018年の終わりから2019年の1~3月に起こるであろう、賃貸住宅建築の駆け込み需要は、これよりもだいぶ少ないと思われます。おそらく、プラス1万戸あるかどうかだと思います。
その理由として、5%→8%に増税になる際に、8%は10%に段階的に上げるための通過点であり、10%になることが決まっていたため、かなり多くの方が慌てて契約したということがありました。つまり10%への増税時における駆け込み需要を先取りした格好になったということです。

1991年からの賃貸住宅着工数の推移:2013年以降は賃貸住宅バブルなのか?

ここで、1991年以降の貸家(賃貸用住宅)の着工数の推移を見てみましょう。

図3:貸家の住宅着工戸数の推移(全国)

国土交通省「建設着工統計調査報告」より作成

図3は、1991年~2017年の賃貸住宅の着工数の推移(棒グラフ)と前年対比(折れ線グラフ)を示したものです。この26年間の賃貸住宅の着工数の平均は約46万戸でした。最も少ない年は、2011年の約28.5万戸、逆に最も多い年は1992年の約67.2万戸です。約40万戸の差があります。リーマンショックでの景気悪化から未だ回復できていない最中に東日本大震災が起こり、大きなマイナスとなりました。しかし、翌年2012年からは2017年まで6年連続のプラスとなっています。

図4:住宅着工戸数の推移(全国)

  2012 2013 2014 2015 2016 2017
総計 882,797 980,025 892,261 909,299 967,237 964,641
105.8% 111.0% 91.0% 101.9% 106.4% 99.7%
持家 311,589 354,772 285,270 283,366 292,287 284,283
102.0% 113.9% 80.4% 99.3% 103.1% 97.3%
貸家 318,521 356,263 362,191 378,718 418,543 419,397
111.4% 111.8% 101.7% 104.6% 110.5% 100.2%
分譲住宅 246,810 263,931 237,428 241,201 250,532 255,191
105.2% 106.9% 90.0% 101.6% 103.9% 101.9%

※上段:実数値(戸) 下段:前年対比

国土交通省「建設着工統計調査報告」より作成

図4は最も少なかった2011年の翌年2012年以降の着工数の推移です。太字の貸家カテゴリーに注目してください。
12年、13年はプラス11%を超えた大幅増となりました。14年は消費税増税の反動減が各カテゴリーで起き、総数はマイナス10%近くになりましたが、貸家はプラス1.7%とプラスをキープしました。
2014~15年は相続税制度の変更での追い風、その後マイナス金利政策が行われ、史上最低水準の金利となった2016年に再び二桁プラスになりました。
結果6年連続のプラスとなり、大都市だけでなく、地方都市でも賃貸住宅の着工数が増えました。
こうした状況を受けて、一部メディアは「賃貸住宅バブル」と報じました。しかし、図3を見れば明らかなように、平均からするとまだまだ少ないのが実情で、「バブル」には程遠い状況だと言えます。

賃貸住宅は建て替え期を迎える

冒頭に書いたように、現在の賃貸住宅建築市況は、ここ6年間のプラスの勢いはなくなっています。
地方都市においては、相続税制度変更により、賃貸住宅経営を始める方(あるいは、建て増しをした方)が増えましたが、それらの需要が一服したこと、また大都市部では、賃貸住宅適地の減少により、購入希望者は減っていませんが、供給が追い付かないこと、などがマイナスの要因のようです。

一方、今後伸びるであろう要因は、賃貸住宅の建て替えです。

図5:建築年別(平成25年時点)貸家の総数

総務省統計局「平成25年住宅・土地統計調査」より作成

図5は、平成25年(2013年)の少し古いデータですが、賃貸住宅の築年別の総数を示したものです。これを見ると、築25年超の賃貸住宅は全体の4割を占めています。これらがほとんど建て替えられていないとすると、このデータから5年経っていますので、40%よりもだいぶん増えていると思います。
こうした物件が徐々に建て替えを迎えてきます。建て替えするかどうかは、オーナー様の状況次第ですが、適切なアドバイスを受けて、新しい物件を建てると再び賃貸住宅経営による収益を得ることができます。
こうした需要にどこまで応えられるかが、ハウスメーカーには求められていると思います。

土地活用ラボ for Owner アナリスト

吉崎 誠二(よしざき せいじ)

不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。
立教大学大学院 博士前期課程修了。

(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者等を経て現職。
不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。

著書:「データで読み解く 賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「2020年 大激震の住宅不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを買える人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

公式サイト:URL http://yoshizakiseiji.com/
社団法人 住宅・不動産総合研究所:URL http://www.hr-i.jp/

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