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コラム vol.471-9
  • 土地活用税務コラム

CASE09それは名義預金です。贈与したことにはなりません

公開日:2024/04/26

両親と同居していた長女は、学校を出て働きはじめてから、家に毎月5万円を入れていました。
父はそのお金を長女が結婚するときに渡してあげようと思い、生活費には使わず、長女名義の口座をつくり、長女から受け取るたびにその口座に積み立てていきました。そして、父が亡くなった時点で、その口座には1800万円が貯まっていました。
そして、相続手続きのために財産を洗い出す際、この長女名義の口座は、父名義ではなかったために、銀行の残高証明では表れませんでした。
そのため、父の相続財産に含めず申告をしたのですが、税務署から「このお嬢さん名義の口座にある1800万円は、お父さんの財産ですね。申告が漏れています」と指摘を受けてしまったのです。

父は、長女が家に入れたお金には手をつけることなく、毎月5万円を金融機関に積み立てていましたが、長女は結婚することなく、30年ほど経った頃に父が亡くなってしまいました。
「子どもが家に入れたお金を、親が内緒で貯蓄してくれていた」というケースは、よくあることだと思います。このケースも、長女が毎月家に入れていた5万円を、父が長女の名義で本人が知らないところに預けていました。今は本人でなければ口座をつくることはできませんが、昔は本人の知らないところで父が口座をつくることができたのです。

長女の財産か、父の財産かをはっきりさせよう

名義預金は、相続税対策のなかでも確実に注意したいことです。子ども本人が把握しておらず、通帳や印鑑を親が管理している状態であれば、「名義預金」とみなされて、税務署から相続税の申告漏れを指摘されてしまうでしょう。
長女が家に入れていたお金は父が自由に使えるものであり、しかも長女がその口座の存在すら知らなかったために、名義は長女であっても父の相続財産となります。
ただし、長女から「預かっておいて」と言われたものであれば、長女の「預け金」であり、父の相続財産ではなくなります。
事業を行っていた人の中には、給料を妻や子どもたちに直接渡さず、それぞれの名義で預金することがありました。「自分が死んでしまったあとの、妻や娘の食い扶持だ」と考え、本来は自分の財産にもかかわらず、妻や子どもの名義にしていたというわけです。

また、現在は本人以外の名義で預金口座をつくることはできませんが、もっと単純に、「祖母が金融機関の付き合いで、定期積金をすることになり、自分の名前では相続財産になってしまうと思い、孫娘名義で毎月5万円を積立てしていた」といったケースもよくあることでしょう。
この場合も、孫がこの定期積金の存在を知らなければ、いわゆる「名義預金」になってしまいます。
定期積金の場合、満期によってお孫さまが受け取った満期金すべてが、贈与税の対象になることも注意が必要です。これは、定期預金ではなく「定期積金」の話です。定期積金は、毎月5万円といった金額を積み立てていくものです。毎月5万円であれば年60万円で、贈与税の基礎控除(年間110万円までは非課税)の範囲内なので非課税に見えるのですが、そうではありません。定期積金は、最初から毎月の積立額と積立総額が決まっているので、満期額に一括して贈与税が課税されます。
この事例の場合、5年契約なら60万円×5=300万円が贈与税の対象になってしまいます。

ペイオフ対策で複数の金融機関の口座を持っていた

ペイオフ対策として、利用する金融機関を複数に分けていたケースもあります。私のお客様の事例では、近隣の地銀から都銀、郵便局、さらにはネット銀行まで、なんと12もの金融機関に預けていました。
その後相続が発生し、長女はこれほどの金融機関と取引していたことに驚き、すべての残高証明書を自分で取得するのを諦めてしまいました。
昔は銀行に預けている預金が全額保護されていましたが、2000年以降のペイオフ解禁で、1000万円とその利息しか保護されなくなりました。このことをきっかけに、金融機関を複数に分ける人が増えたのです。
被相続人である父と相続人である子どもの意思疎通が少なかった場合、すべての金融機関から残高証明書を取得するには、かなりの労力を要します。
この事例の弊害は、相続税の申告の際に必要な残高証明書が漏れてしまうことです。取引があった銀行がわからなければ、残高証明書の発行依頼も出すことができません。結果として、税金の計算のもととなる相続財産から漏れてしまうのです。
これに対して税務署は亡くなった人の名義ですべての金融機関に残高照会をかけるため、「漏れていましたよ」という指摘を受けてしまいかねません。
生前のうちに、子どもへ取引のある金融機関を伝えておくことは大事なことです。これは、金融機関を分けていてもいなくても一緒です。遺言書には、取引のある金融機関を開示する必要があるため、遺言書を残す準備を行うことが安心につながります。

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