相続・遺産分割の基本(2)「誰」が「何」を相続するかが相続対策のポイント
公開日:2024/06/28
資産を保有する人に相続が発生し、相続人が複数いる場合、税務対策のポイントのひとつは、誰が何を相続するかです。たとえば、配偶者は評価の下がるものや収益を生まないものを相続したほうが良い場合もあれば、売却予定地の相続や小規模宅地等の特例の適用選択をしない方が良いこともあります。また、土地は分割の仕方で評価が変わります。
このように、相続財産の何を誰が相続するかで、相続税額が変わることがありますので、注意が必要です。
配偶者は何を相続するか
資産家の子どもなど次世代への財産承継を考えた時、配偶者を経由することが税務対策になることがあります。配偶者は法定相続分までの遺産を取得しても相続税がかからない上、基礎控除額はもとより、低い累進税率を被相続人(資産家)の相続時とその配偶者の相続時に2回使えるためです。
しかし、被相続人より配偶者のほうが多くの財産を所有している場合には、配偶者が法定相続分を取得すると、2次相続時の相続税率が最初の相続時の税率と比較するとかえって高くなり、子どもの相続税総額を考えた場合、配偶者は遺産を取得しない方が有利となることもあります。
配偶者相続の有利不利
2次相続時の相続税を考えると、配偶者は評価の下がるものや収益を生まないものを取得するとよいでしょう。配偶者が何を取得するかによって、2次相続時の相続税額が大きく変わります。
例えば、居住用の家屋や現預金が該当します。建物の相続税評価額は固定資産税評価額とされており、時の経過とともに減価していくため、収益を生まない建物は確実に評価の下がる財産といえるからです。現預金は豊かな老後生活のために使ったり、子どもや孫に贈与したりする等によって減少する可能性が高いからです。
逆に、売却予定の土地は、相続税を払わない配偶者は相続しないほうが良いでしょう。相続した土地を相続税の申告期限から3年以内に売却した場合、譲渡者が支払った相続税のうち、売却した土地に係る割合の部分を土地の取得費に加算できる特例があるからです。
小規模宅地等の特例を2回分活用
配偶者は「小規模宅地等の特例」の適用も受けないほうが良いでしょう。同居している子どもがいる場合であれば、自宅の敷地のうち330m2は子どもが取得する方が良いでしょう。特定居住用宅地等の80%評価減の適用は相続税のかからない配偶者でなく、相続税のかかる子どもが適用を受けるのが望ましいからです。そうすれば、父の1次相続時と母の2次相続時の2回とも小規模宅地等の特例の適用を受けることができ、最高660m2までが80%評価減の対象となるのです。
分筆して相続した方が有利な場合
円満な関係の複数の相続人がいる場合、所有地が複数の道路に面している場合、分筆を工夫することで相続税評価が下がることがあります。
たとえば、評価の高い表通り(路線価:20万円)と評価の低い裏通り(路線価:15万円)の路線価が異なる二方に面している土地を母と子が共有で取得すると、表通りを基準に裏面影響加算をして評価することになります。
ところが、建物の敷地として一体利用していない限り、二つに分筆して母と子が別々に土地を取得すると、裏通りに面した土地は裏面のみで評価することになり、相続税評価額が30%近くも下がります。取得後、母と子の2人が一体活用すれば、土地の財産価値は同じであるにもかかわらず、親子であっても取得者ごとに評価しますので税務対策として有効な方法となります。
図1:分筆して相続したケース
共有で相続したほうが有利な場合
面積の大きな宅地(500m2以上)の場合、利用単位を変えずに活用して、地積規模の大きな宅地評価を適用できるようしておくことも税務対策のポイントです。
たとえば、遺産の中に、三大都市圏の普通商業地区で容積率が200%の地域に450m2のA宅地と450m2のB宅地があるとします。AとBの宅地を別々に評価すると500m2未満で、地積規模の大きな宅地としては評価できませんが、1人がどちらも相続すると500m2以上になります。AとBを一体化して評価した場合、この宅地は地積規模の大きな宅地として大きく評価減されます。どちらか1人が相続するのではなく、両方をも2人で相続して共有するのも、税務対策のひとつの方法です。
図2:500m2以上の土地を共有で取得
遺産分割は相続税を考慮する
相続が発生した場合、重要なことは、相続人に過大な負担がかからず、相続して良かったと思えるような相続を実現することではないでしょうか。
その観点からも、相続税の問題は無視できません。前述したように、遺産の分け方により相続税額が異なるのですから、可能な限り相続税が高額にならないような配慮と工夫をすることは遺産分割には必要不可欠です。そのためにも、次の点を踏まえておきましょう。
- (1)複数の道路に面している宅地は分筆して異なる取得者が相続すると、評価が低くなることがある
- (2)一体評価できる土地の面積が広い場合、地積規模の大きな宅地の評価減を検討する
- (3)誰が相続すれば小規模宅地等の特例の適用を受けられ、有利になるのか考慮して遺産分割する
- (4)農地の納税猶予の適用を受けるには農業従事者が相続しなければならない
- (5)配偶者の税額軽減を最大限活用して、その後、2次相続の対策をするのも有効な遺産分割である
誰が何を取得するかで相続税額が異なりますので、生前に十分な配慮と工夫をしておくことが、安心できる税務対策の重要なポイントです。