
事業承継のための不動産戦略とは
公開日:2025/09/30
事業承継については、現在多くの経営者が大きな課題として抱えています。経営者の高齢化も顕著であり、日本社会全体の課題といっても過言ではありません。
事業承継を控える企業には多くの有形無形の財産がありますが、その中でも不動産は多くの企業にとって大きな価値のある資産の一つです。企業が保有する不動産は、その企業の信頼性を高めると同時に、うまく活用することができれば、収益源にもなりえます。
事業承継において不動産は単なる資産ではなく、戦略的な経営資源として考えるべきです。後継者と企業の将来まで見据えた事業承継のためには、不動産をどのように活用するか、適切な戦略を練る必要があります。
不動産がもたらす経営上のメリット
不動産の適切な分析と利用は、事業の発展、経営の効率化に欠かすことのできないことであり、事業承継に大きな影響を与えます。
不動産による資金調達
事業承継の際には、税金や専門家への依頼費用など、さまざまな費用がかかります。また、後継者にとって、十分なキャッシュフローがあれば、安心して事業に取り組むことができます。
不動産は、事業承継に必要な資金を調達するための重要な資産になりえます。例えば、不動産を担保にして資金を調達することもできますし、不動産を売却し、リースバックすることで、キャッシュを得ることも可能でしょう。
不動産を活用した税務対策
事業相続の際には、相続税の負担を軽減するために、自社株の評価を下げる工夫も必要となります。
ひとつには、土地の評価額は路線価を基に算定されるため、市場価値よりも低く評価されることがあります。不動産を購入してから3年以上経過すれば、土地の評価額によっては、自社株の評価額も低く抑えられることで、相続税や贈与税の低減につながります。
具体的な不動産活用
不動産の現状を把握する
不動産を保有する経営者が事業承継を計画する際は、まず、自社の不動産の内容を把握する必要があります。自社が保有する不動産には、どのようなものがあり、どのような使われ方をしているのか、そして、どのように評価されているのかを理解しなければ、効果的な計画を立てることはできません。
そして、その情報を後継者と共有し、お互いに将来に向けての活用方法を検討する必要がありますが、安易な選択にならないように、実際に不動産を本業にいかに活用できるかについての能力を身につける必要もあります。
利用していない土地を有効活用する
利用されていない土地がある場合は、周辺環境の状況や賃貸ニーズを考慮しながら、収益を生み出す不動産として運営することも可能でしょう。
これまでコストがかかるばかりだった不動産が収益を継続的に得ることができれば、後継者が今後経営を行っていくにあたって、好材料となるでしょう。
新たに不動産を購入する
事業承継を行うにあたって、不動産を新たに購入する方法もあります。効果的な使用用途である必要がありますが、事業用の拠点として事業拡大に結び付く場合もあれば、賃貸事業として長期的な収益源として活用することも可能でしょう。事業用の不動産を購入することで、長期的な資産価値となることに加え、相続税や固定資産税の軽減にもつながる可能性があります。
ただし、不動産を購入するためには、資金も必要ですので、今後の財務的な戦略を考慮する必要があります。
事業承継における不動産活用の注意点
不動産を活用することで、事業承継を効率的に行うことができる可能性がありますが、不動産価格の変動、金利変動、自社事業の資金の問題(流動性)など、考慮すべきこともあります。
まず、不動産価格は経済情勢や市場動向によって常に変動していますので、資産価値として下がってしまう可能性もあります。資産の組み換えとして不動産を購入し、後継者に引き継いだとしても、資産価値が減少してしまっては、税制などのメリットがあったとしても、あまり喜ばしいことではなく、財務上にマイナスの影響を与えてしまうことになりかねません。
また、不動産価値は、市場動向に加えて、周辺環境の変化、社会情勢の変化によっても変化します。近隣地の開発状況や企業の拠点移動などによって不動産価値が上昇したり下落したりします。さらに、人口動態や地域の経済によっても変化しますので、注意が必要です。
企業の経営状況も刻一刻と変化しますので、大きなキャッシュが必要にならないとも限りません。不動産は金融商品などに比べて流動性が低く、すぐに現金化しにくい側面があります。
そのため、キャッシュフローに不安がある企業においては、財務面の状況を見ながら不動産戦略を進める必要があります。
不動産を伴う事業承継は慎重に
不動産を活用した事業承継は、さまざまな可能性を持った戦略ですが、事業承継は単なる経営の移行ではなく、企業の持続可能性に大きな影響を与えるものです。
スムーズで効果的な事業承継を行うためには、保有する(あるいは保有したい)不動産の価値を正確に評価し、戦略的な活用法を採用する必要があります。不動産の持つリスクにも対応し、事前の準備と迅速な対応が求められます。
また、さまざまな法的な要件がかかわってきますので、専門家に相談しながら、早い段階から検討を進めることが何よりも重要であることはいうまでもありません。