2024年の日本銀行によるマイナス金利解除は、
住宅ローンなど日本の金融市場に大きな影響を与え、金利上昇時代が始まりました。
物価上昇も続く中、「賃貸」か「購入」かという住まいの選択は、
人生を左右する重要な決断となっています。
今回は、この金利上昇の局面における賃貸と持ち家購入、
それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説します。
そして、具体的な例を通して、どのような方がどちらの選択に向いているのかを掘り下げていきます。
絶対的な正解がないからこそ、ご自身のライフプランと価値観に合った選択をするための
手がかりとしてご覧ください。
金利上昇の局面における「賃貸」の価値
金利上昇時代において賃貸暮らしにはどのような意味があるのでしょうか。これまで「家賃がもったいない」と言われがちだった賃貸の価値が、今見直されています。
メリットと強み
賃貸の最大のメリットは、金利変動リスクからの解放とライフスタイルの柔軟性です。
1. 家計管理のしやすさ
住宅ローンの金利変動に一喜一憂する必要がなく、毎月の家賃は(契約更新時を除き)基本的に一定※です。将来の支出が読みやすいため、安定した家計管理が可能です。
※賃料が値上げとなることもあります。
2. 住み替えの自由度
転勤、転職、子どもの成長、親との同居など、ライフステージの変化に合わせた立地、間取りの住居へ気軽に引っ越すことができます。この身軽さは、変化の激しい現代において大きな強みとなります。
3. 維持・管理コストの心配不要
固定資産税や都市計画税といった税金、経年劣化に伴う外壁塗装や設備交換などの修繕費は、すべて大家(物件所有者)の負担です。これらの突発的な大きな出費を心配する必要がありません。
4. 少ない初期費用
持ち家購入には、物件価格の数%にのぼる諸費用(仲介手数料、登記費用など)や頭金が必要ですが、賃貸なら敷金・礼金・仲介手数料などで済み、初期投資を大幅に抑えられます。
デメリットと将来の懸念
もちろん、賃貸にもデメリットは存在します。
1. 資産にならない支払い
よく指摘される点ですが、家賃はあくまで「住む権利」への対価であり、いくら払い続けても自分の資産にはなりません。手元に残るものがない、という点ではデメリットになり得ます。
2. 家賃上昇のリスク
金利上昇やインフレは、巡り巡って賃貸市場にも影響を及ぼします。大家のローン返済額や維持管理費が増加すれば、それが将来的に家賃に転嫁される可能性があります。特に需要の高い都市部では、家賃が上昇し続けることも考えられます。
3. 高齢期の契約問題
収入が年金中心となる高齢期には、家賃の支払い能力や孤独死のリスクなどを懸念され、賃貸の入居審査が厳しくなる傾向があります。
4. 自由度の制約
壁にくぎ一本打つのにも大家の許可が必要な場合が多く、内装の変更やペットの飼育などにも制約があります。
金利上昇が「持ち家購入」に与える影響
住宅購入を検討する際、多くの方が利用する住宅ローン。金利上昇は、この住宅ローンに直接的な影響を及ぼすため、しっかりと購入計画を立てることをおすすめします。長期的な資金計画には、住宅購入に伴うリスクの正しい理解が欠かせません。ここでは、まずデメリットを整理した上でメリットをご説明します。リスクとリターンのポイントを押さえることで、持ち家購入をより現実的に捉えやすくなり、住まい選びの判断材料として役立つでしょう。
デメリットとリスク
金利上昇の最大のデメリットは、住宅ローンの総返済額が増加することです。例えば、4,000万円を35年ローンで借り入れる場合、借入金利が0.5%か1.0%かというだけで総返済額は約380万円の差が生まれます。
表1:4,000万円を35年で借り入れる場合の
借入金利における総返済額の差
| 借入金利 | 総返済額(概算) |
|---|---|
| 0.5% | 約4,200万円 |
| 1.0% | 約4,580万円 |
| 差額 | 約380万円 |
特に注意が必要なのが、現在主流となっている変動金利です。変動金利は、一般的に半年に一度金利が見直されますが、多くの金融機関では「5年ルール(5年間は毎月の返済額が変わらない)」「125%ルール(返済額が増える場合でも、元の返済額の1.25倍まで)」といった急激な返済額の増加を緩和する措置が取られています。しかし、これはあくまで一時的な措置です。金利が上昇し続けると、毎月の返済額に占める利息の割合が増え、元金がなかなか減らない「未払い利息(返済額では利息を賄いきれず、支払えなかった利息が繰り越される状態)」が発生するリスクも潜んでいます。
一方、金利が固定される固定金利も、市場金利の上昇を受けてすでに数年前より高い水準にあります。かつてのような超低金利の恩恵は受けにくくなっており、住宅購入のハードルは上がっているといえるでしょう。
表2:長期プライムレートの推移
| 時期 | 長期プライムレート |
|---|---|
| 2020年8月 | 1.00% |
| 2022年9月 | 1.25% |
| 2023年9月 | 1.45% |
| 2024年9月 | 1.70% |
| 2025年9月 | 2.30% |
それでも購入を考えるメリット
金利上昇という逆風の中でも、持ち家購入には根強いメリットが存在します。
1. 資産形成とインフレヘッジ
住宅ローンを完済すれば、土地と建物が自分の資産として残ります。現在のインフレ局面では、現金の価値は目減りしていきますが、不動産という「現物資産」はインフレに強く、資産価値を維持・向上させる可能性があります。もちろん建物はそれ相応の丈夫で長持ちする仕様である必要があります。なお、スムストック※を利用すると、一定の条件を満たす不動産は、売却時に従来の査定額よりも高額の査定額となる可能性もあります。
※参照:大和ハウス工業株式会社「スムストック」
2. 団体信用生命保険(団信)による保障
住宅ローンを組む際には、通常、団信への加入が義務付けられます。これにより、契約者に万が一のことがあってもローン残債が保険で完済され、家族に住まいを残すことができます。これは、生命保険としての大きな役割を果たします。
3. 税制優遇制度
2025年9月現在、住宅ローン控除により、年末のローン残高の0.7%が最大13年間にわたって所得税などから控除されます※。例えば、年末時点の住宅ローン残高が3,000万円の場合、その0.7%にあたる21万円、もしくはその年の所得税のどちらか少ないほうが控除されます(所得税から引ききれない部分は、翌年の住民税から最高9.75万円(2025年9月時点上限)控除)。ただし、この制度は省エネ性能など住宅の条件によって控除額が異なり、制度内容も変更される可能性があるため、最新の情報を確認することが不可欠です。
※参照:国土交通省「住宅ローン減税」
4. 住まいの自由度と安定
持ち家であれば、リフォームやリノベーションを自由に行えますし、契約更新や退去の心配がなく、ライフステージが変わっても同じ場所に住み続けられるという確かな安心が得られます。また、高齢になった際に賃貸契約が難しくなるという「高齢期の契約問題」も回避できます。
あなたは賃貸派?購入派?
さて、ここまでのメリット・デメリットを踏まえ、具体的にどのような方がどちらの選択に向いているのかを見ていきましょう。
【賃貸】が向いている方
ライフプランが流動的な若年層・単身者
転職や転勤、結婚など、将来のライフイベントがまだ不確定な方。国内外を問わず、さまざまな場所に住んでみたいというフットワークの軽さを重視する方。
金利上昇などの経済的リスクを避けたい慎重派
将来の返済額が不確定になることを避け、シンプルで安定した家計を維持したい方。まずは貯蓄を優先し、自己資金を十分に貯めてから購入を考えたいという方も含まれます。
初期費用を抑えたい、もしくは多様な投資をしたい方
持ち家購入にかかる数百万円の初期費用を、自己投資や株式・投資信託など、不動産以外の資産形成に回したいと考えている方。
住み替えによる利便性を追求したい方
「子どもが小さいうちは広い公園の近く」「通勤時間を短縮するために職場の近く」など、その時々の状況に応じた住環境を手に入れたい方。
【持ち家購入】が向いている方
ファミリー層
今後10年、20年と特定の地域に腰を据え、子育て環境を安定させたいと考えている方。将来、転勤や移住の可能性が発生した場合も、一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)が運営する「マイホーム借上げ制度※」を利用することで、持ち家を賃貸に出して、安定した家賃収入を得ることも可能です。
※参照:大和ハウス工業株式会社「いつか家を貸す日のために マイホーム借上げ制度 どんな制度?」
安定した収入があり、資金計画に余裕がある方
将来的な金利上昇や固定資産税、修繕費なども含めた長期的な資金計画を立てられ、返済額が増えても家計が揺らがないだけの収入や貯蓄がある方。特に、現在の金利水準で全期間固定金利で借り入れができる方は、将来のさらなる金利上昇リスクを回避できる可能性があるため有利です。
「家」に資産価値やこだわりを求める方
不動産をインフレに強い資産と捉え、資産形成の一環として考えたい方。また、自分の理想の空間を自由に作り上げたい、DIYやリノベーションを楽しみたいという価値観を持つ方にも持ち家は魅力的です。
まとめ
金利が上昇し始めた今、「賃貸」か「購入」かという問いに、正解はありません。重要なのは、金利動向という外部環境の変化に惑わされることなく、ご自身のライフプラン、価値観、そしてリスク許容度という「自分軸」で判断することです。
金利上昇は、購入派にとっては返済負担増という直接的なリスクですが、賃貸派にとっても将来の家賃上昇という間接的なリスクになり得ます。だからこそ、焦って結論を出すのは禁物です。この歴史的な転換点において、私たちに求められるのは、冷静な情報収集と客観的なシミュレーションです。ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、将来の金利上昇パターンをいくつか想定した上で、住宅ローンの返済計画や生涯の住居費を試算してみることを強くおすすめします。
「今は賃貸で柔軟性を確保しながら頭金を貯め、数年後の市場動向を見て判断する」という選択もあれば、「将来の金利上昇リスクを避けるため、今のうちに固定金利で借り入れて安心を買う」という選択もまた、賢明な判断です。金利上昇時代は、住まいとお金について真剣に向き合う好機でもあります。この変化の波を乗りこなし、ご自身とご家族にとって最も幸せな住まいの形を見つけ出しましょう。
執筆者
山田健介
FPplants株式会社 代表取締役社長
住宅メーカーから金融機関を経て「お客さまにお金の正しい知識や情報をお伝えしたい」という思いからFPによるサービスを行う会社を設立。現在は全国のFPを教育する傍ら、執筆、セミナーを行う。特にライフプラン作成、住宅、保険に関する相談を得意とする。
※掲載の情報は2025年9月現在のものです。内容は変わる場合がございますので、ご了承ください。










