ゲストが最初に目にする玄関は、「素敵だね」と感じてもらいたい場所。
その反面、家族が毎日、靴や上着などを脱ぎ着する場所でもあるため、
日常的に散らかってしまうと悩む方も少なくないでしょう。
玄関をどう作るかは、見映えだけでなく毎日の暮らしやすさに大きく影響します。
そこで今回は、お客さまとの会話から住まいの形を導き出し、
暮らしやすさとデザイン性を兼ね備えた設計を追求する大和ハウス工業の設計士・手島 秀典が、
住まいづくりにおける玄関の考え方やアイデアを、実例とともにご紹介します。
Profile

大和ハウス工業株式会社 中国支社
住宅設計部山口設計課 課長
一級建築士、ハウジングマイスター(社内認定)
1級エクステリアプランナー、
インテリアコーディネーター
味のあるスケッチとユーモアたっぷりの打ち合わせでお客さまのハートをつかむ達人。豊かな発想力で、オリジナリティある設計デザインを次々と考案する。
玄関は暮らしとより密接になり、
使い勝手が重要視されるように
従来、玄関は来客に備えて日ごろから生活感を出さないように気をつけ、絵を飾るなど見映えを気にする意識が根付いていました。LDKなど生活スペースとは一線を引き、「玄関は靴を脱ぎ履きする機能があれば十分だ」という方も少なくなかったでしょう。しかし昨今、特にコロナ禍以降は人を招くことに消極的な方が増えた印象があります。これは家に対する考え方にも影響しており、玄関は「ゲストにどう見せるか」に意識は置きながらも、「家族にとって使いやすいか」という側面がより重要視されていると感じています。
人気の玄関デザインをきっかけに、
暮らす人に合った「使いやすさ」「広さ」を考える
近年では、お子さまのベビーカーやスーツケースなどを収納できる「土間クローゼット」や、広い土間に間仕切りを設け、メイン玄関と家族用玄関を分ける「2WAY動線」は人気があり、SNS等で紹介されているのをご覧になって、同じようにしたいと考える方も多いのではないでしょうか。
しかし、人気のデザインだからと言って「玄関はこうあるべき」「みんなが取り入れている2WAY玄関なら便利なはず」といった固定的な考えにとらわれてほしくはありません。本当に使いやすい玄関とは、流行に左右されるものではなく、その家に住む人の暮らし方や個性が自然と反映されたものであるはずだからです。

同時に、快適な玄関づくりには収納の充実や動線計画、そして他の空間との面積バランスも大切です。具体的には、次のような点を踏まえ計画していくことをおすすめしています。
帰宅後の行動パターンに目を向ける
玄関をはじめとした動線計画を考えるうえで、家族それぞれの帰宅後の行動パターンを理解することは欠かせません。例えば、帰宅後すぐにリラックスできる格好になりたい方であれば、玄関からリビングへ向かう途中に着替え用の収納スペースがあると便利。また、買い物から帰ったあとにすぐ手を洗ったり、荷物を片付けたりしたい場合は、玄関からキッチンへ直接アクセスできる動線設計が向いているでしょう。
ダイワハウスの「家事シェアハウス」なら…
ご家族の帰宅後の行動パターンに合わせた動線設計で、玄関からリビングへ入るまでに片付けや身支度が自然に完結。毎日の“帰ってから”がぐっとラクになる住まいです。
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靴はすぐにしまって玄関すっきり
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上着はハンガーに仮置き
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うがい・手洗いを習慣化
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部屋着に着替えてリラックスモード
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きれいなリビングでくつろごう
家族の性格や習慣も無視できないポイント

さらに重要なのは、「片付けるのが得意か」「つい置きっぱなしにしてしまうか」といった家族の性格や生活習慣。これらは新しい住まいに合わせて簡単に変えられるものではありません。そのため、家づくりの段階で家族それぞれの癖を踏まえた、無理のない暮らし方に合わせた設計を検討することが大切です。
私がご担当する際にも玄関を考えるきっかけとして、「土間クローゼット」や「2WAY動線」をご紹介することはありますが、暮らしやすさや機能性に配慮することは前提として、ご家族の性格や生活習慣をじっくりヒアリングしたうえでデザインをご提案しています。
お話をよく聞くと、「土間クローゼットにスペースを割くよりも、屋外に物置を設置する方が良いのではないか」や、「2WAY動線にして遠回りするよりも、壁面いっぱいに収納を設けてはどうか」など、他の可能性が見えることが多々あります。その検討を欠いてしまうと、「せっかく玄関に広いスペースを割いたのに、うまく活用できていない」という後悔を招きかねません。
家全体とのバランスも忘れずに
玄関にどれだけの広さがあれば適切かを考える際は、家全体のバランスを意識することも大事な視点です。特に、収納量を重視したい、広々としたLDKに憧れるという方は今も多く、その分、玄関や子ども部屋などの個室の重要度は相対的に下がりつつある傾向にあります。もちろん、来客が多く玄関の広さや見せ方にこだわる方も一定数おり、考え方はそれぞれです。だからこそ、限られたスペースの中で、自分たちの住まいでは何を優先すべきかを見極めながら、本当に必要な要素を選び取っていくことが重要になります。
暮らしの起点となる玄関デザイン
ここからは実際のオーナー様の事例を通して、さまざまな玄関のかたちをご紹介します。どれも「こうあるべき」という形ではなく、住まう人の暮らし方に自然と馴染む工夫が、それぞれの玄関に表れています。見える景色や他のスペースとのつながり方に着目しながら、その家ならではの「使いやすさ」や「心地よさ」を感じてみてください。
【実例1:Mさま邸】
① 住まいの中心にある玄関土間
1件目は、室内に扉をほとんど設けず、家全体がオープンにつながるMさま邸です。吹き抜け下の広々とした玄関土間が家の中心にあり、その脇に1階天井より背が高いシンボルツリーが立っています。この土間空間は、LDKや階段スペースと一体感をもつ室内空間でありながら、靴のままお子さまが三輪車で遊ぶなど、屋外の要素もあります。フレキシブルに使える内外の中間領域です。
また、テレビボードやシンボルツリーがリビングと玄関をゆるやかに分け、アイカットになる(視線を遮る)ことで開放感の中にも落ち着きが感じられる空間となっています。

② スタディコーナーに続く家族用動線
玄関を入ってすぐに動線が二手に分かれ、家族が靴を履き替えるこちら側(玄関を正面から見て左側)は、奥の土間収納からスタディコーナーへと続きます。お子さまがここから本を取り、土間の階段を椅子にして読書をすることもあるそうです。
こちらの事例のように広さを求められるLDKは、全体が見渡せるオープンスタイルが主流になってきています。それに加えて、外に視線が広がる大開口や、縦のつながりを生む吹き抜け、リビング階段を採用される方も増えています。これは視線の抜けや高さの広がりがあることで、床面積以上の開放感が得られるためです。

【実例2:Eさま邸】
スペースパフォーマンスに優れた平屋の玄関
次に、家の中心に中庭があるEさまの平屋のお住まいです。玄関はコンパクトなスペースながら、入ってすぐ正面の中庭に視界が広がり、プライベート感のある外空間が楽しめます。天井にはあえて照明器具を設けず、中庭のスポットライトで明かりをとります。植栽の影が室内に入ることで、外がより身近に感じられます。
また、奥のLDKとの間は、床から背丈ほどの高さの壁で空間を仕切りました。視線はカットしながら空間のつながりが感じられることで、玄関に一歩入ると、家族の温かい気配が迎えてくれます。

家全体の間取りとしては、中庭の北側にLDKがあり、南側に寝室や水回りなどプライベートスペースが位置する形となっています。南北を結ぶ玄関とスタディコーナーは廊下も兼ねており、スペースパフォーマンスの高い間取りです。
近年では玄関とリビングを完全に分けてしまうよりも、視線は遮りつつ扉なくつながる間取りを提案することが多くなっています。それは余分な資材を減らすコストカットの目的もありますが、スペースどうしを完全に仕切らないことで、使い方を限定しないためでもあります。
例えばリビングの機能を玄関まで延長して、そこでお子さまが遊んでもいいですし、本を読んでもいいでしょう。境界を曖昧にすることで、玄関がもつ本来の用途を超える豊かな空間が生まれます。

【実例3:Oさま邸】
和室の「はなれ感」を演出する玄関土間
1階は主に和室と寝室、2階にLDKを配したOさま邸です。L字型で奥行きのある玄関土間の正面は土間クローゼット、右手は客間などに使用する和室、左手はその他のスペースへつながる廊下が続きます。

和室はあえて土間を跨いでアクセスするようにしたことで、他のスペースと切り離された「はなれ」のような趣が生まれ、非日常感を演出。和室と玄関は障子で仕切りつつも、吊り鴨居とすることで上部に抜けをつくり、ゆるやかにつながりをもたせています。鴨居の上部に設置した間接照明が天井を照らし連続感を強調、両スペースに空間の広がりをもたらします。

【実例4:Mさま邸】
中庭を挟んで、リビングの風景まで期待させる玄関
こちらは、入ってすぐ正面の大きな窓から中庭の景色が視界に飛び込むMさま邸の玄関です。中庭の奥にはリビングが見え、さらに奥の大開口から外の風景まで、内、外、内、外と景色がレイヤー状になっています。
また、玄関の壁に施したタイルや間接照明は、中庭、リビングまで連続し、一直線上にある連続感と奥行き感を印象付けます。

さらに、玄関からLDKまでの動線は、あえて広さや明るさを抑えています。玄関からLDKまで扉なくオープンにつながりながらも、広狭に変化をつけることで印象が切り替わります。LDKに歩を進めるにつれ窓外に視界が広がっていき、期待感が高まるシークエンスです。

【実例5:Yさま邸】
存在感ある木目素材が囲む、遊び心のある玄関
リブが入ったオーク材を天井と壁に施し、樹木のトンネルを潜るような体験ができるYさま邸の玄関。奥には壁一面にブロンズミラーを施し、空間の奥行きを錯覚させます。
また、木目壁の一部は扉になっており、奥に個室が隠れています。ゲストがびっくりするような仕掛けに、Yさまの遊び心が感じられます。

住宅性能の進化で叶える“自由な発想”の玄関づくり
このように、どの事例にも共通しているのは、住まう人それぞれの暮らし方に寄り添った“自由な発想”です。そしてこうした多様な玄関デザインが実現できるようになった背景には、住宅性能の進化があります。高耐震構造の採用により大きな空間を安心して設けられるようになり、さらに断熱性能の向上によって一年を通して快適な室温を保てるようになりました。これらの技術的な進歩が、玄関や居住スペースを細かく仕切らずに空間をつなぐ設計を可能にし、より自由度の高い間取りやデザインを生み出しています。
また、開放的な住まいで懸念されやすい「においや音」の問題も、設備の進化によって大きく改善されています。こうした性能面での安心感があるからこそ、空間づくりの自由度が高まり、機能とデザインの両面での可能性がぐんと広がっているのです。
自分たちらしさが息づく玄関を
玄関はある意味「家の顔」。それは良く見せるために作り込むという意味ではなく、訪れる人にどう見せたいか、LDKとのつながり方、生活動線、収納など、たくさんの要素が混在することで、家族の暮らし方や人柄があらわれる、いわば「素顔」だと思っています。
住んでから後悔するのを防ぐためには「玄関はこうあるべきだ」と最初から構えず、気負わずに過ごせる自然体の玄関をつくることが重要です。私がお客さまと交わすざっくばらんな会話の中には、たくさんのヒントが隠れています。そこから暮らしの本質を見いだし、形にするのが私たち設計士の役割です。ご家族にとって最適な玄関を、ぜひ一緒に探っていきましょう。










