毎日使うキッチン。デザインや収納力に目が行きがちですが、
実は「キッチンの高さ」も使い勝手を大きく左右する重要なポイントです。
ワークトップ(天板)の高さが自分に合っていないと、作業の効率が落ちるだけでなく、
無理な体勢が続いて腰痛や肩こりの原因になってしまうこともあります。
この記事では、最適なキッチンの高さを割り出す計算式から、家族間の身長差への対処法、
そして家事負担を減らすレイアウトのコツまで、後悔しないキッチン選びのポイントを解説します。
Part1キッチンの高さが大切な理由
食事の準備や後片付けなどで1日に何度も利用するキッチン。高さが違えば使い勝手や体の疲れ具合も違ってくるといわれます。キッチンの高さが合っていないときに起こり得ることをご紹介します。
腰痛や肩こりの原因になる
一般的に「キッチンの高さ」とは床からワークトップまでを指しますが、ワークトップの高さが使う人に合っていないと調理や洗い物の際に無理な体勢になって、負担がかかり使いづらく感じてしまいます。

ワークトップが低すぎると背中を丸めて作業することになり、背中や腰の筋肉の緊張が続いて痛みが出る原因に。逆に高すぎると腕の位置を高めにして作業しないといけないため、肩をすくめるような姿勢となり肩こりにつながることもあります。
たとえお気に入りのキッチンが完成しても、こんなふうに使いにくさや体の不調を毎回感じるようなら、キッチンに立つことがストレスになってしまうかもしれません。
作業効率が落ちる
ワークトップの高さが適切でないと、手・肘の位置が高すぎたり低すぎたりして、包丁や調理器具が扱いにくくなり、調理や洗い物の効率が悪くなることも。
例えば調理でカボチャなどの硬い食材を扱うときは、肩から力を入れて、包丁に体重を載せる感じで切ることも多いはず。しかしワークトップが高いと体重を載せにくく、腕の力で押し切ろうとして包丁が滑ってしまうなど、危険な事態を招きかねません。
服が濡れやすくなる
キッチンの高さが低すぎるとシンクでの洗い物の際に前かがみの体勢になりやすくなります。体がシンクに近づく体勢では衣服がシンクのふちに触れやすくなり、濡れてしまうこともあります。
Part2一般的なキッチンの高さは
それでは使いやすいキッチンの高さはどう決めるといいのでしょうか。ここでは身長、肘の高さをもとに適した高さの決め方を解説します。
一般的な高さ
キッチンの高さとなるワークトップの高さは、JIS(日本産業規格)では80cm、85cm、90cm、95cmと5cm刻みで規定されています。市販のシステムキッチンもこの4つの高さで展開しているのが一般的です。
近年の傾向として高さ85cmが標準仕様となっていることが多いのは、下記でご紹介している身長をもとにした計算方法で、日本人の女性の平均的な身長155〜160cmを目安に決めたといわれています。
身長から計算する方法
キッチンの高さは、身長をもとに計算する方法が一般的です。もともとワークトップの理想的な高さは、体勢をラクに保つことができて作業性がよいこと、肘の高さが作業をするのにちょうどよい位置にくることなどをもとに考えられましたが、これを簡易的に計算する方法として、現在は下記の計算式がよく使われています。
身長(cm)÷2+5cm
この式を使って日本人の女性の平均身長155〜160cmで計算すると、キッチンの高さは82.5〜85cmとなります。
肘高から考える
身長から割り出すほかに肘を90度曲げた状態で、床からの高さを測った「肘高」からワークトップの高さを考える方法もあります。ただし、肘高がそのままワークトップの高さではないので注意しましょう。ワークトップ上で包丁や鍋などを使うには、肘高より少し低めに設定する必要があるため、下記の計算式が使われます。
肘高(cm)-10cm
上記の式は、まな板の上で包丁を使って野菜を切る、といった普通の調理時に適した高さといわれています。何かをこねるなど力がいる作業ではさらに数センチ低い方が適しているとされています。このように、実際にどのような調理作業を行うのかによって、理想のワークトップの高さは変わってきます。
また、身長は同じでも、腕の長さや肩の位置といった体格、体勢などにより、使いやすいキッチンの高さは少しずつ違ってきます。85cmの標準仕様や身長から決めたキッチンの高さが使いにくいと感じるときは、肘高をもとにキッチンの高さを検討してみましょう。
現在使っているキッチンを活用して、高さをシミュレーションしてみるのもおすすめです。足元に厚めのキッチンマットを敷けば「今より低いキッチン」の、まな板の下に雑誌などを敷いて高さを出せば「今より高いキッチン」の使い勝手を疑似体験できます。自宅で大まかなイメージをつかんだら、システムキッチンメーカーのショールームへ足を運び、実際に異なる高さのキッチンに立って感覚を確かめてみると良いでしょう。
Part3家族間で身長差がある場合の対処法
使う人の身長や肘高から適したキッチンの高さを決めるといっても、家族間で身長差がある場合はキッチンの高さが合わない人も出てくるでしょう。そんなときの対処についてご紹介します。
身長差のある家族が使うワークトップの高さを考える場合は、「メインで利用する人が使いやすい高さに合わせる」のが原則です。ではそれ以外の人は、高めまたは低めのキッチンをどう使えばいいのでしょうか。
やや高いと感じる場合(身長の低い人が利用する場合)
キッチンが高いと感じる人は、底が厚めのスリッパ・ルームシューズを履いたり、使うときに厚手のキッチンマットを敷いたりするなどで調整する方法があります。子どもがお手伝いをする場合などは、踏み台に上るとワークトップ上の作業がしやすくなるでしょう。
やや低いと感じる場合(身長の高い人が利用する場合)
キッチンの下に膝を入れるスペース(ニースペース)が確保されている場合、キッチンが低いと感じる人は、キッチンスツールに座って作業すると、背中を丸めたり腰を曲げたりする必要がなく、ラクに作業が進められます。座って作業できるキッチンは、長時間の調理や将来的な身体の変化にも対応しやすい点がメリットです。
スツールの高さは使う人が使いやすい高さを検討してみましょう。このほか、一時的な調整方法として厚めのまな板を使うのも良いでしょう。
迷ったら、やや高めを選ぶという考え方も
上記の対処法を比べてみると、キッチンが低いときよりも、高いときの方が手軽に調整できる場合があります。「85cmか90cmかで迷っている」というときや、家族で共有する場合は、一番背の高い人に合わせてやや高めを選ぶという考え方もありますが、実際にはメインに使う人や、包丁作業・こねる作業など、どのような作業が多いかによっても使いやすい高さは変わります。ショールームなどで高さを体感しながら検討してみましょう。
Part4高さ以外にもある 使いやすいキッチンを作るコツ
キッチンの高さは使いやすさを決める大事な要素ですが、それ以外にもさまざまな工夫で使いやすいキッチンにすることができます。
間取りを工夫する
調理や洗い物をしながら洗濯や部屋の掃除をするなど、生活の中でキッチンと他の部屋を行き来することは多いもの。またキッチンではシンク、コンロ、冷蔵庫の間を頻繁に移動するため、それぞれの配置も重要になります。
家事や仕事の効率を上げる

キッチンも含めて水回りを1カ所に集約した間取りにすると、調理・後片付けと並行して洗濯するなどの「ながら家事」の移動がスムーズになるメリットがあります。また、キッチンとダイニングも料理を運んだり後片付けをしたりと頻繁に行き来する場所。キッチン、ダイニング、リビングなどを移動しやすい、回遊動線を意識した間取りも家事の効率化に役立ちます。
さらに「買ってきた食材などをすぐに収納する」「料理の準備や調理中に食材を取りに行く」といった家事の流れを考えると、キッチンを玄関の近くやパントリーと隣接して配置すると家事の効率を高めてくれます。
このほか在宅勤務が中心な場合、ワークスペースをキッチンの近くに配置すれば、仕事の空き時間に調理の準備をするなど、仕事と家事の両立もスムーズになるでしょう。
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調理の効率を上げる
キッチンで調理中に使う頻度が高いシンク、コンロ、冷蔵庫を使いやすい位置に配置することで、移動がスムーズになり、調理を効率的に進められます。一般的にシンク、コンロ、冷蔵庫を三角形の頂点にバランスよく配置した「ワークトライアングル」の配置が良いとされ、3つの頂点を結んだ動線の合計が360cm~600cmの範囲になるのが適切といわれています。
ワークトライアングルで示される距離は、それぞれの設備まわりの作業スペースを確保しつつ、無駄な移動を減らすための動線バランスの目安です。キッチンのレイアウトによっては、シンクとコンロの距離がやや離れて見える場合もありますが、2列型キッチンやコの字型キッチンなどでは間に通路が入ることで自然と距離が生まれます。一般的な住宅では、シンク・コンロ・冷蔵庫の間を「2〜3歩ほど(約120cm)で移動できる距離感」を一つの目安として考えると、イメージしやすいでしょう。
ただし、キッチンのレイアウトによって動線の取り方は大きく変わるため、ワークトライアングルはあくまで一つの考え方として捉えることが大切です。
こうした動線バランスを実現しやすいのは2列型キッチンやコの字型キッチンなどですが、日本の住宅ではシンク、コンロ、冷蔵庫が横一列に並ぶI型のレイアウトも少なくありません。Ⅰ型キッチンの場合はワークトライアングルがそのまま当てはまらないこともあるため、シンクとコンロの間の作業スペースを必要以上に広げすぎないなど、移動距離が長くなりすぎないように検討しましょう。
なお電子レンジなどの配置も動線に影響するため、キッチンのレイアウトはどのような調理方法が多いかも踏まえて考える必要があります。
収納を整える
キッチンは、食器、調理器具、調味料、食材など、置いてあるものやその種類が多く、気を抜くと乱雑になりがちです。しかも「使うときに出して、使い終わったらしまう」という出し入れも頻繁で、適当にしまっていると取り出すのに時間がかかることも。そうしたキッチンは、収納を整理して使いやすいように工夫すると家事の効率化につながります。
まずは収納するものを使う目的や頻度によって分類し、決まった場所に置くことが大切です。食器類、箸・フォーク・スプーンといったカトラリー、調理器具、調味料などを種類別に収納することに加え、毎日使う食器やカトラリー、調理器具などは取り出しやすい場所に収納。夏や冬、季節のイベントなどで使う時期が決まっているもの、使う頻度が低いものなどは、普段使うものとは別の場所に収納すると良いでしょう。
また、よく使う調理器具はキッチンの壁に吊るしたり、フライパンとそのふた、お皿などはスタンドやファイルボックスを使って立てたまま収納したりすると、取り出しやすく収納スペースも節約できます。
Part5自分たちにとって最適な高さを決め、
よりよいキッチンの間取りを見つけよう
キッチンの高さや設備の配置は、自分たちがどう使うかのイメージがつかめると考えやすくなります。そのためには生活動線などを意識してショールームを見学する、他の間取りを参考にするなどが効果的です。
快適なキッチンを作るためには、作業の土台となるワークトップの高さ選びが重要です。身長や肘高をもとに計算したワークトップの高さを目安に、システムキッチンのショールーム見学などで快適に使えるかなどを確認してみましょう。ただしキッチンにマットを敷くか、スリッパ・ルームシューズを履くかなどにより高さの感覚は違ってきます。自分たちが実際に使うときの条件も考慮してショールームで体験してみることが大切です。
またキッチンの高さだけでなく、キッチンを含めた家の間取りも使い勝手に大きく影響します。毎日の暮らしでは、調理の合間に洗濯をするなど、他の家事と並行して動くことも多いため、キッチン単体ではなく家事全体の動線を考慮して間取りを決めると良いでしょう。
どんな間取りが自分たちに適しているのか、大和ハウスの「間取り検索」で探せる多数の事例をもとに、「ワークトライアングルが実現できる間取りは?」「冷蔵庫の扉の前はどれくらいの空間が必要?」「キッチンからの生活動線は?」などを意識して、理想のキッチンスタイルを考えてみませんか。
大和ハウスの「間取り検索」は、これまで大和ハウスが建ててきた多数の間取りの中から、規格住宅・セミオーダー住宅の間取りが2,000種類以上見られるサービス。登録すれば無料で利用でき、こだわりの条件をもとに検索できるので、理想のプランが見つかるはずです。
気になる間取りのアイデアが見つかったら、ぜひお近くの住宅展示場へも足を運んでみてください。実際のキッチンに立って高さや周囲とのつながりを体感することで、より具体的な暮らしのイメージが膨らむでしょう。
お話を伺った方
井上 恵子さん
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 所長。日本女子大学家政学部住居学科卒業。京都芸術大学大学院芸術研究科修了(MFA/芸術修士)。総合建設会社勤務を経て独立。集合住宅や保育施設などの設計・工事監理に携わる。現在は実務に加え、住まいや暮らしに関するセミナー講師、建築・防災関連の記事執筆・監修など、「伝える建築士」としての活動にも力を入れている。














