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Sustainable Journeyは、
2024年3月にリニューアルしました。
連載:5分でわかる!サステナブルニュース
2025.8.27
高校球児たちの熱戦が繰り広げられる甲子園。その舞台裏で、一つの画期的な取り組みが静かに進行していました。それが全国初となる「スタジアムでの実質再エネ100%」です。実はこの阪神甲子園球場(以下、甲子園球場)で使用する電力のすべてが、太陽光発電による再生可能エネルギーと「再エネECOプラン※1」によって賄われています。
前者を可能にしたのが、2024年11月に関西電力、甲子園球場の運営会社である阪神電気鉄道、大和ハウス工業の3社間で取り交わされた「オフサイトPPA」というプロジェクトです。足掛け2年に及ぶ3社の地道な連携を経て、日本初の挑戦は実現しました。
この革新的な試みは、どのような社会的インパクトを持つのでしょうか。3社の担当者に話を伺い、オフサイトPPAの全貌と今後の展望について詳しく探りました。
※1:関西電力が提供する、再エネ由来の非化石証書の持つ環境価値を付加したCO2フリーの電気料金メニュー。
あまり耳慣れない「オフサイトPPA」という仕組みはどのようなものなのでしょうか。
関西電力の丸山絢加さんは「オフサイトPPAとは、発電事業者が設置した太陽光や風力といった再エネの発電設備から、再エネの電気を長期契約で調達・供給する仕組みのことです。ちなみに、PPAはPower Purchase Agreement(電力購入契約)の略で、需要者側のイニシャルコストが不要で、発電された電気に対して料金を支払うスキームを指します」と説明します。
関西電力 ソリューション本部 法人営業第一部 法人営業グループの丸山絢加さん。
ここで重要なのが「オフサイト」という部分です。オフサイトとは文字通り「敷地外」を意味します。
「実際に再エネの電気をご利用いただくお客様の敷地とは別の敷地に再エネの発電設備を設置し、そこから電気を送らせていただく仕組みです」(丸山さん)
今回の3社のプロジェクトでは、電気を使用するのは甲子園球場ですが、発電所自体は球場から離れた敷地に大和ハウス工業が設置し、そこから関西電力が電力を調達・供給する、といえばわかりやすいかもしれません。
画像:関西電力提供
オフサイトの対義語になるのが「オンサイト」つまり「敷地内」です。実は甲子園球場では、2010年からオンサイト型の太陽光パネルを導入していました。内野客席の上を覆う、通称「銀傘」と呼ばれる屋根部分に太陽光発電パネルを設置し、ナイター照明1年分の電力を賄えるほどの発電量を確保していました。
©阪神電気鉄道
阪神電気鉄道の小川知晃さんは、敷地内の発電に加えて、敷地外の発電を併用した理由について「オンサイトでは面積が限られてしまいます。球場内ではパネルを設置できる場所にも限りがありますが、オフサイトであれば面積を気にしなくていいのが利点です」と明かします。
阪神電気鉄道 阪神甲子園球場 副球場長の小川知晃さん。
また、このオフサイトPPAの取り組みと「再エネECOプラン」によって「年間3,000トンのCO2削減効果が見込まれている」と丸山さんは話します。「4人家族程度のご家庭約2,000世帯が、1年間に排出するCO2に相当する量です」(丸山さん)
今回、発電所を設置したのは、甲子園球場から約100km離れた兵庫県相生市若狭野町というのどかな街です。大和ハウス工業の坂崎雄一さんは、この発電所設置までの長い道のりを振り返ります。
若狭野町に設置した太陽光発電所。
「オフサイトPPAは、敷地外に太陽光パネルを設置できる敷地を探すところから始まります。都心部ではオフサイト発電所の設置は難しく、やはり山間部や都市部から離れたエリアで土地を探すことが多いです。今回の場合は、以前は養鶏場だった場所を活用させていただいていて、土地の所有者様との初回のお顔合わせから、約2年かけて形になりました」(坂崎さん)
大和ハウス工業 本店 環境エネルギー事業部 第一営業所所長の坂崎雄一さん。
その2年間は決して平坦な道のりではなく、地権者の方との合意形成や変化する法令・条例への対応など、乗り越えるべき課題が多々ありました。
「中でも、地権者様や地域住民との対話はとても重要です。景観や反射光など懸念される点はいろいろありますが、昨今特に心配される方が多いのは排水についてです。近年では気候変動の影響から、線状降水帯やゲリラ豪雨の発生数も増加しています。また太陽光発電の設置にかかる条例なども全国で増えてきており、本件でも行政協議を重ね、条例に沿った対応を行いました」(坂崎さん)
近年では気候変動の影響から、線状降水帯やゲリラ豪雨の発生数も増加しています。急な大雨が降った際に影響がないかなど、時には行政の指導も並行で対応しながら排水計画を作成し、地域住民との丁寧な対話を重視し、安全な設計を進めました。
そもそもなぜ今、各社こうした取り組みを進めているのでしょうか。関西電力や大和ハウス工業の場合は、主幹事業の特性とそれによる"責任"があると語ります。
「日本が排出する温室効果ガスのうち約9割がCO2であり、CO2の排出量の約4割が電力由来の排出です※2。電力を扱う企業として、この課題は避けて通れない道でした」(丸山さん)
実際、関西電力では「ゼロカーボンビジョン2050」を掲げ、大規模な投資を通じて再生可能エネルギーの普及に取り組んでいます。大和ハウス工業の坂崎さんも、建設業界が抱える環境負荷の現状を踏まえて説明します。
「建設業界のエネルギー起源CO2排出量は、2021年度データで800万トンに達し、産業部門全体の3億7,300万トンのうち2%を占めます。建設後の建築物利用も含めると、建設業界は日本のエネルギー消費量の約3割を占めるんです※3」(坂崎さん)
甲子園球場でも7つの柱で構成された「KOSHIEN "eco" Challenge」を続けてきました。その背景にあるのは、「持続可能な甲子園球場への思い」だと、小川さんは話します。
「たくさんの方が足を運びたくなるような、長く愛される球場を目指したいと、太陽光発電、リサイクル素材の活用、井戸水・雨水の利用、ツタによる壁面緑化、ナイター照明のLED化などさまざまな取り組みを行ってきました。中でも、再生可能エネルギーはその重要な柱の一つです」(小川さん)
甲子園球場の外壁に設置されている「KOSHIEN "eco" Challenge」のパネル。
最後に、この取り組みの本質的な意義について、各社の担当者に語っていただきました。
「一言で言うと『地球を守る取り組み』です。一般の方々にはまだ何のためにやっているのかわかりづらい部分がたくさんありますが、オフサイトPPAに限らず、新しい技術開発も進んでいます。建物をつくる立場からも、そうした技術を一般の方々に提案し、より身近に感じてもらえるようになればと思います」(坂崎さん)
関西電力の丸山さんは、甲子園球場で実現したことの波及効果に期待を込めます。
「知名度の高い甲子園球場だからこそインパクトは大きく、たくさんの企業様からお問い合わせをいただいています。この取り組みにご賛同いただいた企業様や地域の皆様と手を取り合って再エネ普及活動を広げ、クリーンなエネルギーをお届けしていく。それによって地球が守られ、未来につながっていく起点になるのではないでしょうか」(丸山さん)
「一言で言うと『未来へつながる』取り組みです。先ほど申し上げたとおり、甲子園球場を長く愛される存在にしていきたいとさまざまな取り組みをしていますが、それ以上に、この地球自体も長く次世代につなげていかないといけません。甲子園球場はお客様に近い存在だからこそ、老若男女、あらゆる方々に伝えていく良いきっかけになれると思っています」(小川さん)
年間3,000トンのCO2削減、2,000世帯分に相当する環境効果、そして全国初というインパクト。数字だけ見ても確かに大きな成果ですが、本当の価値はその先にあるのかもしれません。
甲子園球場という日本を代表するスタジアムで実現したこの取り組みは、ひとつの入り口にすぎません。「遊休地を活用したい」「うちのスタジアムでも再エネ100%で運営したい」。そんな願いが次々と波及して、やがて日本全体のエネルギー構造を変える大きなうねりとなる——。甲子園球場でのオフサイトPPAは、そんなドミノの"最初の一枚"となるのかもしれません。
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2024年3月にリニューアルしました。