大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目 花王が台湾で90%以上が天然成分のシャンプーを開発。その背景にある消費者ニーズとは

連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目

花王が台湾で90%以上が天然成分のシャンプーを開発。その背景にある消費者ニーズとは

2025.12.25

    台湾在住のノンフィクションライター、近藤弥生子です。

    連載の第二回では台湾発のヘアケアブランド「オーライト」をご紹介しましたが、日本を代表するグローバル企業「花王」もまた、台湾でサステナブルなヘアケアシリーズを開発・販売し、人気を得ています。

    わが家のお気に入り、花王(台湾)の「低刺激・無添加シリーズ」

    以前ご紹介した「オーライト」とともに、わが家の浴室に常備されているのが、「花王(台湾)」が台湾限定で販売している「低刺激・無添加シリーズ」。1年以上使い続けていますが、使い心地が良いと家族にも評判です。

    私はシャンプーを選ぶ際に、香りや価格帯だけでなく、最近では自分の頭皮や環境に対して与える影響を重視して購入するようになりました。

    その背景にあったのは、入浴時、排水溝に溜まっていくシャンプーの泡を横目に、いつも「科学的に泡立ちが強化された生活排水が、日々こうして各家庭から下水に流れ込み続けているんだな……」という罪悪感でした。「本当は人体や環境に優しい製品を使いたいけれど、そうした商品は高価格帯のものが多く、家族全員で日常的に使い続けるのはなかなか難しい」と、どこかで諦めていた気持ちがありました。

    潜在的な課題を抱えていた私でしたが、台湾のドラッグストアやスーパーで「花王(台湾)」の「低刺激・無添加シリーズ」を見つけた時、本格的にサステナブルに取り組みつつも、普段使いできるリーズナブルな価格帯で、とても嬉しかったのを覚えています。

    消費者の気持ちに寄り添い完成。使用者満足度は97%

    今回、「花王(台湾)」に取材を行い、製品責任者の方から「低刺激・無添加シリーズ」の開発秘話を伺うことができました。すると、台湾の消費者、特にZ世代など若者たちの間でサステナブルなプロダクトに対する消費意欲が高まっており、企業側もそうした変化に応えようと、天然成分で低刺激、環境にも配慮した製品を、より手に取りやすい価格で提供したことが分かりました。

    花王にとって初の海外拠点として「花王(台湾)」が設立されたのは1964年のこと。
    日本で花王が創業したのは1887年、まず売り出したのは高級石けんでしたが、台湾で一番初めに売りに出されたのは刺激の少ない中性の「シャンプーパウダー」でした。

    当時の台湾では髪も石けんで洗うのが一般的でしたが、アルカリ性の洗浄力が強すぎるため、頭皮の天然の皮脂が奪われることで髪が乾燥して絡まり、パサつきやまとまりにくさを招いていました。そこに登場した中性のシャンプーパウダーは、泡立ちが良くてすすぎやすく、フケを防ぐ効果もあったため、人々の洗髪習慣を根本的に変えるほど大きな反響があったと同社は説明します。

    以来、長年にわたりさまざまな消費者のニーズに応えてきた「花王(台湾)」は、コロナ禍を経てますます人々の「天然で、低刺激で、添加物の少ないシャンプーを使いたい」という意識が強まってきたことを受け、このシリーズの研究開発に着手しました。

    およそ3年もの時間を費やし、2023年3月に発売されたのが、現在7アイテムを展開する「低刺激・無添加シリーズ」です。

    最大の特長は、頭皮の健康のために、シリコンや環境ホルモン、香りの持続性を高めるのに使われるプラスチック可塑剤、洗浄力や泡立ちを強化するものの肌への刺激がある合成界面活性剤(SLS、SLES)、パラベン及び防腐剤(CMIT)など、12項目の成分を添加せず、シリーズの約90%以上が天然由来の成分でつくられていること。米国の政府機関FDA(食品医薬品局)で皮膚臨床試験を行う「AS実験室」による"低刺激性試験"にシリーズの全プロダクトが合格しており、子どもから大人まで安心して使える、優しいシャンプーです。

    商品ラインナップには、台湾で薬草として使われてきたツボクサのエキスを配合した「浄化バランスシャンプー&コンディショナー」(写真)や、抜け毛に悩む消費者の「マッサージで毛根の状態を改善したい」といった台湾らしいニーズを受けて開発した「シャンプーマッサージジェル」など、髪や頭皮に栄養を与える特別な植物エキスを配合した製品も。
    写真提供:花王(台湾)

    この「低刺激・無添加シリーズ」は現在台湾限定で販売されていて、全連、カルフール、寶雅、康是美、屈臣氏といった大型チェーンで流通しています(「水感平衡洗潤髮」のみ、「康是美」限定販売)。

    台湾市場ではシリーズ販売開始直後から大きな反響が寄せられました。「花王(台湾)」の製品責任者は、「使用者満足度は97%以上と高い評価をいただいており、インターネット上でもポジティブなフィードバックが得られています。なかには『頭皮アレルギーに悩まされていたが、このシリーズを使ってからは頭皮が敏感に反応することが減り、快適に過ごせるようになった』と電話をくださったお客様もいらっしゃいます」と手応えを感じています。

    写真左が「低刺激・無添加シリーズ」の『シャンプーマッサージジェル』。写真提供:花王(台湾)

    花王は台湾のファストムービング・コンシューマー・グッズ(比較的短期間で消費される変化の速い商品)業界において、台湾で研究所と工場を有する唯一の日系企業です。だからこそ、優れた商品開発と製造能力で台湾の消費者ニーズに応え、グリーンなプロダクトでカーボンを削減することができるのだそう。

    サステナブル思考の高まりは、大きなチャンス

    興味深かったのは、「花王(台湾)」がこのシリーズを開発した背景に、台湾の消費者ニーズが影響していたという点です。

    台湾最大の消費者市場調査会社「東方線上」と国立政治大学が行った共同調査では、「過去1年間に洗剤を購入した消費者」の8割以上が環境に配慮した詰め替えパックを選択したそうです。さらに、家電製品を購入した消費者の約9割がエコ認証マーク付きの製品を選択するなど、台湾の消費者のサステナビリティや環境保護に対する意識は特に若い世代において徐々に高まっており、企業やブランドの具体的な取り組みも注目されていることが分かっています。

    ©Drazen_

    消費者調査は、企業のESGパフォーマンスの高さが消費者の信頼や認知だけでなく、購買意欲までも高めると示しており、かなり早い段階からCSR(企業の社会的責任)やESG、SGDsに取り組んできた「花王(台湾)」は、こうした台湾のトレンドを大きなチャンスだと捉えていると語ります。

    「花王グループは2019年にESG戦略『Kirei Lifestyle Plan』を打ち出し、2021年には企業理念そのものにESGを組み込んだ『花王ウェイ(THE Kao Way)』を刷新しました。台湾では、それらに先駆けてCSR活動に取り組んできました。2011年には子どもたちに清潔・安全教育を行うプログラムを『靖娟兒童安全文教基金會』との協業で開始。また、感染症対策に独自技術を用いた蚊よけ商品が台湾で発売された際には教材を開発し、7万個のトライアルパックを寄贈する試みを展開。2024年には台湾各地の562の小学校から申し込みがあり、5万5,000人の児童が参加しました」

    小学校を訪れ、清掃のボランティア授業を行う花王(台湾)の董事長兼総経理の胡英錦氏(写真左)。この取り組みは14年目を迎えた現在でも継続している。
    写真提供:花王(台湾)

    2024年に「花王(台湾)」が実施した内部調査報告書によると、台湾のZ世代のサステナブルに対する価値観には、「再利用をしたい」「心身の健康を重視し、メンタルヘルスに付加価値のあるプロダクトを望む」といったものがあるそうです。

    「花王(台湾)」では、今回ご紹介した「低刺激・無添加シリーズ」を含む100項目以上の製品パッケージに再生プラスチックを使用することで、台湾の消費者ニーズに応えています。

    再生プラスチックを使用したボトルにはeco認証ラベルが貼られている。
    写真提供:花王(台湾)

    サステナブル意識は、ややもすると"ごく少数の意識の高い人々のもの"と誤解されたりするかもしれません。ですが、台湾では消費者の「自分たちの身体はもちろん、環境にも配慮された、サステナブルな生活用品を使いたい」というニーズをグローバル企業が受け取り、台湾を対象としてサステナブルなシャンプーを開発するほど、価値観が顕在化していることをうかがい知ることができました。

    現在は台湾を対象に販売されている「低刺激・無添加シリーズ」。もとは台湾の消費者ニーズに応える形で開発に着手したものの、アジアには同じように頭皮や髪質で同じようなお悩みを持つ消費者が多くいることに気づき、ターゲットを台湾からアジアに広げてプロダクトを設計したと担当者は話します。

    台湾では「ローカルであればあるほど、グローバルである」という表現がよく用いられますが、台湾市場にフォーカスした結果、アジアへと広く打ち出せる商品になったというのも興味深いと思いました。

    同シリーズは近い将来、日本でも花王の公式オンラインショップサイト上で販売することが検討されているのだそう。日本の消費者に、新しいサステナブルな選択肢が加わるのが楽しみですね。

    ※文中の製品名は、台湾華語の名称を以下のように日本語に直訳したもので、実際の商品名とは異なります。

    • ・低刺激・無添加シリーズ:花王低敏無添加系列
    • ・浄化バランスシャンプー&コンディショナー:淨化平衡洗髮精、潤髮乳
    • ・シャンプーマッサージジェル:豐盈強韌洗髮按摩凝露

    PROFILE

    近藤弥生子

    近藤 弥生子Yaeko Kondo

    台湾在住ノンフィクションライター。1980年生まれ。東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年に台湾に移住。日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作会社を設立。オードリー・タンからカルチャー、SDGs界隈まで、生活者目線で取材し続ける。近著に訳書『オードリー・タンの母が語る「自主学習のすすめ」』(集英社新書)、『台湾はおばちゃんで回ってる?!』(だいわ文庫)、『オードリー・タンの思考』(ブックマン社)

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    大和ハウスグループは、建築においてスクラップ&ビルド型ではなく、ストック型社会への展開を先導し、資源利用の大幅な抑制に貢献しています。

    資源循環・水環境保全[長寿命化・廃棄物削減]

    詳細を見る

    この記事をシェアする

    サステナビリティ(サイトマップ)