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連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目
2025.8.27
オランダ・アムステルダム在住のサステナビリティ・スペシャリスト、西崎こずえです。私が住んでいるアムステルダムをはじめ、ヨーロッパでは近年、猛暑や熱波が深刻化しています。
そこで今回は、フランス・パリ、スペイン・バルセロナ、オランダ・アムステルダム、ギリシャ・アテネ、ドイツ・ベルリンといった主要都市の取り組みをご紹介。欧州各国の事例をひも解きながら、気候変動時代に求められる都市づくりを見ていきます。
連日、日本では猛暑日が記録されています。しかしヨーロッパも同じような状況で、今年はフランスやスペイン、ポルトガルなどの一部では40度を超える日も多く、インペリアル・カレッジ・ロンドンなどの研究グループが、「6月23日から7月2日までの10日間で、ヨーロッパの12都市では約2,300人が熱波により死亡した」と発表しました。また、このうち約1,500人(全体の約65%)の死因は、人為的な気候変動によるものと分析されています。
Photo by Horacio Villalobos#Corbis/Getty Images
猛暑はここ数年の問題ではありません。2003年の「ヨーロッパ熱波」は、フランス南部で気温が46度に達して、当時の最高記録を更新しました。1540年以来の記録的な暑さとされ、熱波が2週間近く続き、フランスでは約1万5,000人、ヨーロッパ全土では約7万人が死亡したと推定されています。
こうした状況を受け、欧州では暑さ対策は喫緊の課題であるとし、各地で「暑さに強いサステナブルシティ」への移行を進めてきました。
まず注目したい取り組みが「グリーンインフラ※1」の拡充です。近年のヨーロッパの熱波は記録的な猛暑をもたらし、都市部ではヒートアイランド現象※2が深刻化、緑地や水辺を活用した都市の冷却策に力を入れています。実際、国際的な研究チームによると、欧州各都市の樹木割合を14.9%(2023年時点)から30%にした場合、都市の植樹は夏の気温を0.4度抑え、暑さ要因の死亡を39.5%減らすという結果が出ています。
パリでは2026年までに17万本の植樹を目標とする「都市の森」計画が進行しています。さらに、校庭を緑地化して市民に開放する「オアシス計画」によって、子どもから高齢者まで誰もが涼める空間を整備しています。また校庭だけではなく、保育園や小学校の周辺道路を歩行者天国とし、なおかつ緑化を推進する「Rues aux écoles(スクール・ストリート)」を、2026年までに100本をつくることを目標としています。
夏のパリでは、自然の中で涼を取るのがひとつの過ごし方として定着しており、夏季限定で夜間開放される公園もあります。
パリにおける緑地と他の土地表面の冷却効果を比較したもの。緑地化している箇所の気温が他と比べて低いことが分かります(Marando et al., 2022/出典:European Commission © EU)
アテネでは、欧州で初めて「Chief Heat Officer:CHO(最高熱波対策責任者)」を任命しました※3。アテネは、高齢者など弱い立場にある都市生活者が、熱波や猛暑によってさらされるリスクを低減しようとする、欧州中心の都市間連携「EHRA(Extreme Heat Resilience Alliance)」の創設メンバーでもあり、現在緑地化や公園整備、舗装の白色化などを進めています。
アテネのように、高齢者や低所得者など熱波に脆弱とされる層に対して、欧州各都市は社会的支援を強化しています。パリでは800カ所以上の「冷却スポット」を公開して、誰でも避難できるようにしていますし、バルセロナでは、公園や学校、博物館を「気候シェルター」として指定しました。冷房や緑陰を備えた避難先を市内各所に配置し、市民の安全を守っています。ベルリンでは広場やバス停にミストシャワーを設置し、猛暑時の一時避難スペースを提供しています。
他にも、フランスでは独居高齢者に電話や訪問で安否確認を行う制度を整備しています。ドイツでは低所得世帯への扇風機貸与、フランスでは介護施設へのエアコン補助金、スペインでは夏季の電力料金補助など、経済的な支援にも力を入れています。
こうした背景には、そもそも欧州ではエアコンの普及率が低いことが大きく関与しています。国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、2022年のエアコン普及率は米国では90%でしたが、欧州ではわずか19%にとどまりました。
ちなみにエアコンの普及率が低い理由としては、古い建物が多いため構造的に設置が難しいことに加えて、建物そのものが改築しにくいという歴史的建造物保護の規制などが挙げられます。
建物の断熱や設計も重要な暑さ対策の柱です。南欧では厚い石造りや鎧戸など伝統的な設計が見直され、現代建築に再導入されています。アテネでは「クールルーフ」と呼ばれる白色塗装が普及し、室温上昇を防いでいます。
2010年に科学誌『Geophysical Research Letters』に掲載された研究結果では、「猛暑から都市の住民を守るには、都市全域規模で建物の屋根を白く塗るか、高反射率塗装を施すのが最も効果的」だとされ、この方法により、英国のグレーター・ロンドン※4を対象としたモデル化研究では、都市全体の外気温が1.2度下がったといいます。
フランスやドイツでは「緑のカーテン」や屋上庭園によって断熱効果と蒸散作用を両立させています。オランダや北欧の都市では、風を通す窓設計や日射遮蔽ブラインドが導入されるなど、エアコンなどに頼らず自然換気による「パッシブクーリング」が注目されています。
こうした工夫は、単なる暑さ対策にとどまらず、省エネルギーや快適性向上といった都市のサステナビリティ戦略とも結びついています。猛暑で冷房需要が増す中、エネルギー効率の改善は欠かせません。EUの行政執行機関である欧州委員会が2020年に発表した「A Renovation Wave for Europe(欧州リノベーション・ウェーブ)」では、既存建築の断熱改修を進め、冷暖房需要を減らす取り組みが掲げられています。スペインやイタリアでは、省エネ性能の高いヒートポンプ導入を補助していますし、フランスでは駐車場に太陽光パネルの設置を義務化し、車の日よけと発電を同時に実現しています。
また、パリやフィンランドのヘルシンキでは「地域冷房ネットワーク」が整備され、川の水や再エネを活用して都市全体を効率的に冷却しています。これは停電リスクを減らすだけでなく、CO₂排出削減にも貢献しているのです。
※4:イギリス、イングランドの首都ロンドンを包含する広大な行政区域です。単なる都市ではなく、32のロンドン特別区とシティ・オブ・ロンドンからなる、33の地方行政区画で構成される複雑な組織体。
他にもさまざまな暑さ対策がありますが、そもそもなぜヨーロッパは、こうした取り組みを積極的に導入、実施できるのでしょうか。それは、単なる暑さ対策にとどまらず、EUの「欧州グリーンディール※5」や「気候適応戦略」と密接に連動しているからです。
都市緑化や断熱強化は、ヒートアイランド緩和であると同時に温室効果ガス削減に寄与し、公共交通やエネルギー施策と組み合わせて持続可能な都市を形づくります。欧州委員会は、2030年までに150以上の「気候レジリエント都市」を育成する目標を掲げており、パリやバルセロナ、アムステルダム、アテネ、ベルリンはその代表的な事例といえるでしょう。
さらに、ヨーロッパ各都市の暑さ対策は、単に気温を下げるだけでなく、ウェルビーイングを高める都市づくりにも直結しています。市民の健康を守り、自然と共生しながら、持続可能な未来を描く。こうした取り組みは、猛暑が日常となるこれからの世界で、私たちが目指すべき都市の姿を示すヒントとなるはずです。
※5:EUが掲げる包括的な気候変動対策。2050年までにEUを温室効果ガスの排出実質ゼロ(クライメイトニュートラル)にすることを目指し、経済成長と環境保全の両立を図ることを目的としています。
2020年1月よりオランダ・アムステルダムに拠点を移し、サーキュラーエコノミーに特化した取材・情報発信・ビジネスマッチメイキング・企業向け研修プログラムなどを手がける。日本国内でサーキュラーエコノミーに特化した唯一のビジネスメディア「Circular Economy Hub」編集部員。2024年4月からはオランダのサステナビリティに特化した経営コンサルティングファーム「Except Integrated Sustainability」に参画。サステナビリティコンサルタントとして活躍する。
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