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2024年3月にリニューアルしました。
連載:みんなの未来マップ
2025.12.25
井原さんのロングインタビューはこちら
水道管という、地中に埋まる"時限爆弾"。老朽化する日本の水インフラ、難題に挑むAI企業の答え
詳細を見る創業者・加藤崇さんが水道管の老朽化問題に関心を持ち、2015年にアメリカ・シリコンバレーで創業。2019年に日本法人となるFracta Japan(フラクタジャパン)株式会社を設立し、地下埋設インフラの劣化をAIを使って予測・診断するサービス「AI管路劣化診断 AIEyes(アイズ)」の提供を開始しました。
水道事業の課題が浮き彫りになりつつある昨今、持続可能な水インフラはどうしたら実現できるのでしょうか。フラクタジャパン株式会社COO・井原正晶さんに伺いました。
先日、新たなサービス「将来給水人口予測 ±Move(ムーヴ)」をリリースしましたね。このサービスの狙いはなんでしょうか。
アイズの診断でわかるのは、さまざまな要因を踏まえてどの水道管が漏水しやすいかということ。そこで、水道局からお預かりした管路データと将来推計人口マップを組み合わせ、将来の給水人口を地図上に可視化するのがムーヴです。
「±Move(ムーヴ)」の画面。管路データと将来推計人口マップを掛け合わせ、人口動態を可視化しています。
画像提供:Fracta Japan
将来の給水人口の予測がなぜ大事なのでしょう。
交換した管は向こう50年は使い続けることになりますよね。でも50年後は人が住んでいないであろう地域もあるわけです。だとしたら、たとえ漏水する可能性が高いとしても交換しない、もしくは後回しにするといった選択肢も考えられます。その分、人口が増える、あるいは減りにくい地域のメンテナンスを集中的にやれば合理的ですよね。
もちろん、お金があるなら全部やったほうがいいに決まっています。でもお金がない自治体が多い今、現実的なメンテナンス計画を考えていかなければいけない。これはそのためのサービスなんです。
なるほど。漏水しやすい管が判明するだけでなく、さらに効率的、効果的にメンテナンス計画が立てられるようになると。
実は、過去10年間で、水道管の交換に毎年、約1兆3000億円が使われていました。今後は耐用年数を超える水道管がさらに増えるため、毎年、約1兆8000億円が必要になります。足りない5000億円を補うには、水道料金を現在の3~4倍に上げなければ賄えないという試算もあるほどで、効率化は至上命題だったんです。
総務省「水道事業及び下水道事業の現状と課題」(2024年9月)を参考に編集部作成。
ムーヴは、とある自治体の水道局に要望されたことから生まれたサービスです。弊社が新しいサービスを始めたり、サービスをアップデートする時は、お客さまからの要望を形にしているだけなんですよ。独りよがりの開発は一切しません。我々は、あくまでも水道局のパートナーという立ち位置だと思っています。
井原さんは、どうすれば持続可能なインフラが実現できると思いますか?
やるべきなのは「群マネ(地域インフラ群再生戦略マネジメント)」ですね。
群マネ?
例えば、ガスは経済産業省の管轄で、上下水道は国土交通省の管轄です。道路も国土交通省です。道路の中でも国道は国で、県道は県で、市道は市が管理しています。そうすると国道のアスファルトの補修はするけど、市道に入った瞬間、ガタガタなままだったりする。それを国と市が費用を折半して一緒にやっちゃおうというのが群マネです。
これは地中インフラにも置き換えることができます。去年、近くで水道工事をしていて、今年、同じ場所を掘り起こして都市ガスが工事をしていました。それってめちゃくちゃ無駄ですよね。同じところに埋まってるんだから、一緒にやればいいじゃないですか。将来的には、電線を地中化するタイミングで水道管やガス管を一緒に交換するという可能性もあります。
確かに。むしろ、なぜやらないんでしょう……。
デジタル庁ができたくらいなんだから、インフラ庁もつくったらいいんじゃないか、と。電力、ガス、上下水道、農業用水、全部横串に刺してやればいいですよね。
農業用水もですか。
10〜20年以内に大問題になるのは、実は田んぼに水を引く農業用のパイプだと思っています。水道管は水を流し続けていることが大事なのですが、農業用の場合は水を流さない時期もあるため、劣化が比較的早いんです。これまでノンメンテできているので、いつか使えなくなって農業ができなくなる日が来ます。ちなみに、農業用水の管轄は農林水産省です。
多分野連携の必要性をひしひし感じますね。すでに群マネを実践している自治体はあるんですか。
実は愛知県名古屋市の東邦ガスとアイズを利用した自治体の水道局で維持管理の協定を結んでもらい、一緒に工事計画を立てて一緒に工事をするという取り組みを始めています。すると、1回の工事当たり2、3千万円も浮くんですよ。
そんなに!
だからみんな、もっと手と手を取り合えばいいんです。
本当にそうですね。インフラの未来は暗いと思っていましたが、やり方次第でいくらでもピンチを切り抜けられるとわかって、希望が持てました。
省庁の管轄が違うと一緒にできないという話もそうですが、公共インフラの業界全体に根付いている常識や既成概念みたいなものがあって、我々がそれを壊していけたらと思っています。
インフラは定期的なメンテナンスが必要で、一度つくったからといって未来永劫使えるものではありません。本来は新設した時点で維持管理の長期的な計画も織り込んでおくべきなんですが、水道に関してはそれがないまま新設だけがどんどん進められていってしまいました。
これからは、つくる人の発想じゃなくて、"保たせる人"の発想で事業をやっていく。そうでないと、いつかシステムそのものが壊れてしまいますから。昔みたいにスクラップアンドビルドでやっていくお金はもうないということを自覚して、サステナブルな仕組みを一緒につくっていきたいです。

兵庫県伊丹市出身。2010年よりITベンチャーの法人営業、小売チェーン本部のエリアマネージャーをメインにキャリアを積む。株式会社ローソンで最優秀直営店賞を受賞。ソニー生命保険株式会社にて社長賞新人部門を受賞するなどキャリアの中で数多くの賞を受賞。2023年4月、Fracta Japanに入社。西日本エリアマネージャーおよびメディアPR責任者を担当し、10月より現職。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

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