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連載:みんなの未来マップ 時間での評価、そろそろやめない? 株式会社With Midwife代表 岸畑聖月さん

連載:みんなの未来マップ

誰もが働かなきゃいけない時代、「妊娠・出産・育児」をめぐる状況はどうなっていく?

2025.2.28

    岸畑さんのロングインタビューはこちら

    働きながら、安心して妊娠・出産・育児ができる社会に向けて。企業専属「助産師」たちの挑戦は

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    企業に「ウェルネスコーディネーター」という助産師、保健師、看護師の3つの資格とキャリア支援や労務などの企業視点を兼ね備える医療専門家を派遣し、社員を支えるサービス「THE CARE」を手がける株式会社With Midwife代表の岸畑聖月さん。これまで仕事や家事育児との両立に疲弊し、心身に不調を抱える事例を多く見てきました。

    私たちは、自分自身が多様な働き方を実践すると同時に、多様な働き方を受け入れる上で、どうすればいいのでしょうか。岸畑さんに、妊娠・出産・育児と働き方の少し先の未来を聞きました。

    「命をつなぐ」ことの優先順位が下がっている

    出生率の低下やネグレクト、産前産後女性の自殺数の増加など、昨今、妊娠・出産を取り巻く環境が、"サステナブルではない"んじゃないかと感じています。

    まず前提として、社会構造ががらっと変わってしまったことを認識しておく必要があると思います。戦後すぐから高度経済成長期にかけては「人口ボーナス期」といわれ、どんどん人口数が増えていく時代でした。ビジネスでも、どんな活動をしても、ポジティブな結果が出る確率が高かったんです。

    そこから人口減少に転じて、働く世代が減って社会保障が必要な世代が増えてくる「人口オーナス期」に入り35年、2065年には生産年齢人口はピークの約半分になるという試算もあります。人口オーナス期では、どんなチャレンジをしたとしても、それがたとえ良いチャレンジだったとしても、うまくいかない確率が高いんです。

    出生数が減ってきているのに、出産や育児を取り巻く環境が悪化しているというのは、そもそも私たちがそうした時代の中を生きている、ひとつの表れでもあります。これは政策の中心をGDP(国内総生産)にし、経済活動を追い求めすぎた反動だと思っていて、実際にGDPが上がると出生率が下がるというデータもあります。

    サステナブル(持続可能)な観点で見た時に、本来最も重要な"生命をつなぐこと"の優先順位が下がってしまっているのが、今だと思います。だからといって、それを「しょうがないよね」と受け入れるのは違うと思っていて。できることはあるし、改めて一人ひとりに問いたいですね。

    1日8時間労働が、サステナブルに生きる限界値

    一方、私たちは多くの場合、「働かないといけない」時代に突入してしまいました。もちろんキャリア形成の観点で「働きたい」人もたくさんいますが、経済的な理由から休めない、働かざるを得ないという人が増えたんです。ですが、制度は旧来的かつ画一的で、そうした変化に対応しきれていません。

    経済活動を追求した結果、日本が貧しくなっているのは何だかやりきれないです……。岸畑さんは、日本の労働環境は、長時間労働を前提につくられていると指摘していました。そこに歪みがある、と。ではどうすればいいと考えていますか?

    時間あたりの生産性を評価するようにシフトするべきではないでしょうか。例えば、フルタイムで働いた上に大量に残業した人の成果と、1日6時間しか働けない人の成果を比べて、前者を評価するのが今までの日本のシステムでした。それよりも、時間あたりの生産性にもっと目を向けるべきだと思います。時短労働者にとっては、経験曲線※1という観点でも不利な構造です。なおのこと、長時間労働を制限することで不平等は大幅に改善されると思います。

    ※1:人や組織が特定の課題について経験を蓄積するにつれて、より効率的にその課題をこなせるようになること。

    さらに踏み込んで言えば、長時間労働そのものを法律で制限してもいいかもしれません。2023年にフィンランドに視察に行きましたが、1日8時間(実働7時間)で週5日労働が基本なんです。そしてほとんどの人が16時には仕事を終えて帰宅して、家族と過ごしていました。私自身、子育てや介護、病気と両立しながら働くメンバーを見て、正直1日8時間、週5時間が「より良く働き、生活する」上での限界値だと思っているんです。

    フィンランドを視察した時の様子(写真提供:株式会社With Midwife)

    日本でも8時間労働が基本といいつつ、当たり前に残業をしていますよね。

    もちろん、長い人生の中で常に一定の労働時間ではないと思います。ですが、一定の職場(評価される環境)で大きな労働時間差をつけないのが大切です。昨今、副業を解禁する企業が増えていますが、キャリア形成に重点を置きたい時は、違う組織・評価形態の中で挑戦することが当たり前になるといいですね。長時間労働が常態化している企業は、社員を支える家族やその家族が属する企業に"フリーライド"している事実を、意識するべきだと思います。

    AIを含めたデジタルの進化に伴い、場所を選ばずに効率的に仕事ができるようになるなど、どんどん便利になっています。でもその行き着く果ては、無限に労働できるように合理化される未来です。人間の体は昔のままですから、どこかで限界が来ます。自分の24時間をどのように優先順位をつけて調整するか、どれくらいの人が熟考できているでしょうか。

    多様性とは、理解し合うことではない

    ただ、こうした妊娠や育児と働き方の問題は、どうしても一部の人に限られるテーマになっているようにも思います。

    確かに、当事者にならないとなかなかわからないことも多いですよね。未婚の人と子育てをしている人とでは、例えば「労働時間」というトピックで、理解し合うことは難しい。朝7時から子どもの世話をして、夕方4時に帰宅して、また家事をやらないといけない。寝かしつけたら9時10時で、そこから仕事が残っていたら家で少しやらなければいけない……。それを理解するのは当事者にならない限り難しいと思います。

    当事者の周囲は、どうしたら良いでしょうか。

    「多様性」ってすべてを認めることと思われがちですが、そうではないと思っていて。誤解を恐れずに言うと、多様性が当たり前にそこにある環境って、極限まで「無関心」に近いのかもしれません。関心にも満たない、当たり前。肯定も否定も干渉もせず、でもSOSが出たらちゃんと助ける。相手のすべてを理解するって難しいですから、そのくらいのスタンスでいいんじゃないかな、と思うんです。

    それができるようにするためにも、ウェルビーイング指数(健康・人間関係・自己実現のスコア)を価値観の中心に据え、経済的成長を追求しすぎるあり方や、仕事ファーストになっている現状、そして自分自身の時間の使い方を、一人ひとり問い直せたらいいですね。

    PROFILE

    岸畑 聖月

    岸畑 聖月Mizuki Kishihata

    14歳での闘病経験と、ネグレクトを目にしたことから助産師を志す。香川大学医学部看護学科卒業後、助産学と経営学を学ぶため京都大学大学院へ進学。卒業後は助産師として年間2000件以上のお産を支える、関西最大の産科で臨床を経験。2019年に株式会社With Midwifeを設立。2020年に妊娠、出産、育児の支援や社員のウェルネスサポートを行う、健康と子育ての従業員支援サービス「THE CARE」を立ち上げる。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    大和ハウス工業と考えよう。「男性育休」がもたらす個人と組織の変化について、有識者×社員の対談はこちらよりご覧いただけます。

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