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特集:気候変動の最前線。今、地球はどうなってる? 雪が変わったー プロスキーヤー・小野塚彩那が語る「雪と暮らし」のつながり、そして危機

特集:気候変動の最前線。今、地球はどうなってる?

雪が変わった——。プロスキーヤー・小野塚彩那が語る「雪と暮らし」のつながり、そして危機

2025.11.28

    「雪の質も、降り方も、明らかに変わってきています」。

    そう話すのは、ソチ五輪の銅メダリストであり、世界を舞台に滑り続けるプロスキーヤー・小野塚彩那さんです。

    けれど——多くの人は思うかもしれません。
    「雪が減っても、自分には関係ない」と。
    でも、実は大いに関係があります。

    雪は"自然のダム"。冬に山に積もった雪が、春になるとゆっくりと溶けて、川を流れ、田畑を潤し、水道の蛇口へとたどり着きます。雪が変われば、水のかたち——ひいては私たちの生活も変わる。雪山をフィールドにするアスリートだからこそ感じる雪の現状、そして、未来に向けて私たちが考えるべきことを伺いました。

    温暖化で"ジャパンブランド"にも変化が

    「最近、地元の新潟では"重い雪"が降りますね」。

    プロスキーヤーとして第一線で活躍する小野塚彩那さんは、2014年ソチ五輪のフリースタイルスキー女子ハーフパイプで銅メダルを獲得、2018年にフリーライドへ転向しました。

    フリーライドとは自然のままの地形を滑り、テクニックやスタイルを競う競技のこと。日本人女性スキーヤーとして初めて、フリーライドの世界一を決める「Freeride World Tour」のワイルドカード※を獲得。一児の母となった現在も、世界中を転戦しています。

    しかし、温暖化で雪が減っていると感じるようになったのは、意外にもフリーライドへ転向してからだそうです。

    ※ 予選大会のポイント獲得状況にかかわらず、主催者が高いレベルの滑りを見せたライダーを特別に選出して、世界大会への出場権を与える制度。

    ©Freeride World Tour

    「当時は雪のある場所に海外遠征をして練習していたので、雪がなくなっていることに気づいていませんでした。それにハーフパイプの場合、人工降雪機で雪をつくれば会場を用意できて、競技ができてしまう。ですが自分の足で山に登り、スキー場ではない自然の雪山で滑るようになったら雪が全然別モノになっていて驚きました。以前はもっとドライな雪が降っていたけれど、今は湿度の高い雪になっています」。

    日本海の海水が上昇気流に乗って上空へと運ばれ、寒気に触れることで水蒸気が冷えて、山にぶつかって雪となります。海水温が高いほど、上昇する水蒸気の量も増えます。

    「寒い日にお風呂に入ると湯気がたくさん立ちのぼりますよね。そんなイメージです」。

    つまり、海水温が高いと水分を多く含んだ雪が降り、豪雪になることもあります。雪質の変化にも温暖化が影響していると、小野塚さんは続けます。

    「雪が減ったり一気に降ったり、極端になっています。雪が減ると仕事にならないし、反対に降りすぎても雪崩の危険が増えます。積雪の上に雨が降って凍り、その上に雪がさらに積もった場合も、雪崩が起きやすい。そういうリスクがだんだん増えていて、自分たちでちゃんと見極めて山に入る必要があるんです」。

    晴れていても、「危ない」と判断して山に入るのをやめる日もあるそうです。

    「気温が高いと、雪崩の危険性が高まります。気温、雨、風、雪の降り方、雪崩予報など、いろんな情報をもとに考えますね。すごく質のいい雪が降って天気がよくて、『今日は滑りたい!』と思うような最高の日にあきらめたこともあります」。

    そもそも、日本の雪は極上のパウダースノー。「JAPOW(ジャパウ)」と呼ばれる“ジャパンブランド”として、世界中の観光客を惹きつけています。

    「世界各地を回りましたが、海と山が近く、良質な雪がこんなにたくさん降るのは日本だけなんです。海外から多くの人がこの雪を求めてやってきます。しかも、新幹線やバスなどの交通機関が充実していて、飛行機から降りて2時間以内にスキー靴を履ける。みんな『日本すごい!』とびっくりするわけです」。

    ©CHUNYIP WONG

    しかし、気候変動がスキーシーズンに影響を及ぼしています。

    「雪が降り始めるのは遅くなり、3月頃には降らなくなっているので、シーズンが短くなっています。昔はゴールデンウィークでもスキー場で滑ることができましたが、最近ではその時期まで雪を保つのが難しくなっています。人工降雪機の雪もあまり気温が高いとつくれませんし、人工雪に頼ると経費も高くなる。西のほうのスキー場はすでに大打撃を受けていると思います」。

    スポーツ×気候変動。ウインタースポーツの存続危機

    2021年の東京五輪では、酷暑を懸念してマラソンなどの競技が会場を札幌に移して実施されました。しかし、気温、湿度ともに高く、男子マラソンでは106人の選手のうち、30人が途中棄権する事態に。最高気温が35度を超える猛暑日は各地で増え続け、2025年6月にはスポーツ基本法が改正。「スポーツ事故の防止等」に関わる条文に初めて「気候変動への対応」に関する文言が追加されました。これは夏に行う競技だけではなく、ウインタースポーツも他人事ではありません。

    「実際に、雪がなくて大会が中止になったりしています。また、2023年のアルペンスキー・ワールドカップでは、FIS(国際スキー・スノーボード連盟)が競技用のコースをつくるために氷河を掘り起こしていたことが大きな問題になりました。世界中のアスリートたちが抗議、署名活動をして3万8000人くらいの署名が集まったんです。結果として、FISが気候変動についてアクションを起こすという声明を出すに至りました」。

    ウインタースポーツの選手たちは、競技存続への危機意識を抱いていると小野塚さんは言います。

    「気温が2度上がると、フランス・アルプスのスキー場の60%が営業できなくなるといわれています。4度上がると、90%。雪がなくて、自分たちの五輪の予選はどこでやればいいのだろう、ということになる。2018年の冬季五輪は韓国、2022年は中国とアジア開催が続きましたが、地形などの要素を鑑みると、安全な競技環境を提供できる都市が、世界的に見ても日本の札幌だけになるのではないかという予測もあるんです」。

    2018年に冬季五輪が開催された、韓国江原道平昌市に位置するアルペンシアスキージャンプセンター。
    ©Im Yeongsik

    雪は、なんで白いか知っていますか?

    雪の未来に危機感を抱く小野塚さんは、2021年から故郷の新潟県南魚沼市にある小学校で特別授業を行い、生徒たちに雪の現状や気候変動について話し始めました。現在は全国各地の学校にも活動を広げています。

    「初めはオリンピアンのキャリアについてお話しする機会が多かったのですが、雪を観光産業にしている地域だからこそ、雪のことをよく知ってもらいたいと、雪や気候変動についても話すようにしていました。そうしたら、意外とそっちの感想が多かったんです」。

    小野塚さんは、「雪はなんで白いか知っていますか?」など問いかけながら、興味を持ってもらうと言います。雪に関心を抱くことによって、気候変動も自分事として捉えられるようになっていきます。

    「例えば、子どもたちに『雪好き?』と聞くと『寒くて嫌い!』とか、『雪遊びできなくなったら死んじゃう?』と聞くと『死ななーい』とか答えて、自分と気候変動は関係ないと思っている子が多いです。ですが、『雪が溶けると何になる?』『水』とやりとりして、『じゃあ水がなくなったら?』と問いかけると、『大変!死んじゃう!』と自分事になっていくんです」。

    一人の100歩より、100人の一歩

    今後、雪がなくなるかもしれない——。こうした自然環境の大きな変化に、一人ひとりができることはあるのでしょうか。

    「何ができるのか、まずは考えることが大事だと思っています。私も生活の中で車を使わなければいけないし、ペットボトルの飲料を買うこともある。例えば、プラスチック袋をエコバッグに変えたらどれくらい成果が出るのか、さまざまな側面を見るほどはっきりとはわかりませんよね。でも、正解がない中で考える時間を持つことで、いつか子どもたちが解決に近づくアイデアを思いつくかもしれません」。

    神奈川県内の女子高校生が始めた署名活動をきっかけに、神奈川県の全県立高校135校の電気がすべて再生可能エネルギー化した事例もあります。

    「一人の100歩より、100人の一歩のほうが大きい。だからその一歩をつくり出すためのアクションを起こしたい。スキープレイヤーとしてリアルにフィールドに出ているからこそ、説得力を持って伝えられることがあると思っています」。

    PROFILE

    小野塚彩那

    小野塚彩那Ayana Onozuka

    1988年新潟県生まれ。2歳からスキーを始める。2014年ソチ五輪のフリースタイルスキー女子ハーフパイプで銅メダルを獲得。W杯では2度年間総合優勝を果たした。2018年平昌五輪では同種目5位。2018年にフリーライドスキーに転向し、日本人女性スキーヤーとして初めて、フリーライドの世界一を決める「Freeride World Tour」に出場。2024年には、母であり、アスリートである自身の挑戦と葛藤を描いたドキュメンタリー映画『MOMENTAL』を制作、公開した。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

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    脱炭素への挑戦-カーボンニュートラル戦略-

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