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連載:未来の旅人 遊び=子どもが「生きる」を取り戻す時間。遊びが減る時代に考える、子どもの幸せ

連載:未来の旅人

遊び=子どもが「生きる」を取り戻す時間。遊びが減る時代に考える、子どもの幸せ

2025.9.29

    現代の子どもたちは「幸せ」に生きられているのでしょうか。

    2024年の1年間に自殺した児童・生徒は529人にのぼり、これまでの最多人数だった2022年の514人を上回りました(厚生労働省調査)。それとともに、不登校の生徒数も過去最高に達しています(2023年度)。多くの子どもたちが生きづらさを抱えて生きている——。そうした現状に対して、親や大人たちは何ができるのでしょう。

    一般社団法人「TOKYO PLAY(トウキョウプレイ)」は、「Play Friendly Tokyo ~子どもの遊びにやさしい東京を~」をメッセージに掲げ、遊びの本質を考え、子どもたちが幸せに生きるためにできることを提案しています。

    同社代表理事の嶋村仁志さんに、遊ぶことから、子どもが幸せに生きるためのヒントを聞きました。

    「遊ぶ」とは、自分の人生を自分で決める時間

    ユニセフの調査「レポートカード19:予測できない世界における子どものウェルビーイング」(2025年)によると、日本の子どもの幸福度は36カ国中14位。2020年は38カ国中20位だったことから、相対的には向上しているといえます。一方、昨年1年間で自殺した児童・生徒は過去最多です。

    嶋村さんは、イギリスのリーズ・メトロポリタン大学(現リーズ・ベケット大学)で子どもの遊び環境に関する専門分野「プレイワーク」を学んだ後、国内外で多彩な「遊びの場」を手がけてきました。2010年にTOKYO PLAYを立ち上げ、代表理事を務めています。嶋村さんは、昨今の日本の子どもの状況をどう見ているのでしょう。

    「自殺する児童・生徒が増えている理由は複合的で断定はできません。ただ、原因としてよくいわれるのは、同調圧力やいじめ、学業のプレッシャー、親との関係などです。TOKYO PLAYでは、『自分は自分でいても大丈夫なんだ』とか『自分のことを好きだ』という実感を持って育つチャンスが少なくなっているのではないか、と話しています」。

    そのチャンスをつくり出す一つが「遊ぶ」ことだと嶋村さんは考えています。

    「遊ぶとは、自分の本能から発せられる興味に沿って、やりたいことを主体的にやってみることです。例えば、ドッジボールは“遊び”と捉えられるかもしれませんが、ボールを扱うのが苦手な子にとってのドッジボールは“遊ぶ”になっているとは言えないでしょう。かたや大人から見たら馬鹿げているような行為でも、やりたいことに没頭していれば、その子の“遊ぶ”になります。アリの行進をじっと見ているとか、アルミ玉を作ってずっと磨いているとか、なんでもいいんです。子どもにとって遊びは『自分はこれでいいんだ』と肯定する原点になります」。

    遊ぶことは子どもたちの権利です。国連「子どもの権利条約」で「遊ぶ権利」は認められ、6月6日に決定された「こどもまんなか実行計画2025」(こども版骨太)でも、「遊びや体験活動は、こども・若者の健やかな成長の原点」と明記されています。

    「大事なのは、子どもたちが自分の裁量で自分の時間を使うことです。一日の中で、遊びは自分で自分のすることを決めていい、つまり人生の“今”を自分で決められる貴重な時間なんです」。

    大人の都合があるように、子どもにも都合がある

    しかし、嶋村さんは「子どもたちが思う存分遊べない社会になりつつある」と話します。

    「現代の子どもたちは忙しい。一日のうちに決められたことをたくさんしなくてはいけません。朝起きて学校に行って、帰宅したら場合によっては夜まで習い事、それから宿題をして、お風呂に入って何時までに寝る……。遊ぶ時間がありません」。

    さらには、「危ないからダメだよ」「宿題はやったの?」「今から習い事だからやめて」と、大人が良かれと思って遊びを止めてしまうことも。「そうして決められたことだけをする生活を続けて育って、大人になったら突然『創造的な人生を生きてほしい』と言われても、急には難しいですよ」と、嶋村さんは言います。

    「大人は、立場によってさまざまな『レンズ』を持っています。学校の先生であれば、『教育のレンズ』で子どもを見るでしょう。親であれば『生活のレンズ』で子どもを見ています。一方で、子どもは『遊びのレンズ』で行動しています。それは、『おもしろそう!』という気持ちに動かされた、子ども自身の発達欲求の表れでもあります。難しいかもしれませんが、大人も『遊びのレンズ』で子どもの姿を見てみると、大人にとって困ることでも、子どもの気持ちの味方になれることもあると思います」。

    ただ、子どもたちが遊びだすと、大人の都合に合わないことや、してもらっては困ることも、時としてたくさんあります。

    「大人にも都合があるように、『子どもには子どもの都合がある』と理解するだけでも変わることが結構あると思います。親から見たら不可解な行動でも、その子はやりたかったわけです。だから、子どもの都合があったことを理解しつつ、例えば、夕食を忘れるくらい何かに没頭していた子どもには、『一生懸命つくったから、できあがってすぐに食べてほしいんだよね』と大人の都合を話せばいいんだと思います」。

    遊びにも「多様性」が重要

    さらに親としては、「子どもをどんな風に遊ばせたらいいのだろう」と考えることもあるでしょう。ゲームに没頭する子どもに、このまま続けさせていいのかと悩む人も少なくありません。

    「子どもが集中していることには、何かしら必ず意味があります。もちろんゲームも遊びの選択肢の一つですし、私たちも否定していません。過去をさかのぼれば、狩猟採集時代は石を投げることや弓矢づくりが最先端の遊びだったかもしれません。産業革命以降はゼンマイ仕掛けのおもちゃや自転車などの工業製品を使った遊びが人気だったでしょう。そして情報社会の最先端がゲームですから、面白くないはずがない。ただ、ゲームは"優秀すぎる"んです。自分でがんばらなくても、面白いことがあちらから提供されてしまう。その世界の中で広がりはあると思いますが、結局、誰かがつくった世界を楽しませてもらっている。どうしても、映画や本と同じく受身的なエンターテイメントの面が強くなります」。

    何かの遊び方を否定するのではなく、嶋村さんが大切だと考えているのは環境の多様性です。遊びの選択肢があることだと続けます。

    「リアルな環境の中にはさまざまな体験の選択肢があります。木に登ったり、坂道を駆け下りたり、段ボールで何かつくったり。親がお膳立てしなくても、子どもたちは“やりたい”という気持ちから思うままに遊びをつくり出していきます。さらに、誰かにいたずらをして追いかけっこになったり、時にはトラブルになったり、そこからさらに仲直りできる方法を探したりと、さまざまな人間関係の深みも経験します。問題はゲームをすることではなく、ゲームしか知らないことです」。

    遊びがウェルビーイングにつながる

    昨今、子どもたちの「体験」の重要性が叫ばれ、「体験」が中学受験に有利に働くという情報もあれば、「体験格差」という言葉もしばしば話題にのぼります。「海外に行ったから、自然の中でキャンプをしたから『豊かな体験』といえるのかというと、違うと思います」と嶋村さん。

    嶋村さんが繰り返し大事だと話すのは、子どもたちが自分で自分の時間を過ごすこと。それによって、自分の人生を“手づくり”していけるようになるのだと語ります。

    「体験学習の多くは、手順が最初に決まっています。工作などのキットもそうですね。説明書があって完成品が見えている。最短の時間で一つのものが大きな失敗なく完成するようにパッケージされています。以前に私が働いていた遊び場では、子どもたちが廃材でいろんなものを作ることができました。そこで、男子数人がベンチ作りに挑んでいたのですが、まったくうまくいかない。でも、その 『うまくいかなさ』そのものが、彼らにとって大きな体験になっていたんだと思うんです」。

    遊ぶことのすごいところは、子どもが自ら身体を動かし、自らいろんな感情を体験し、自ら人間関係のレパートリーを増やしていくこと。遊ぶ過程そのものが、冒頭の身体的、精神的、社会的ウェルビーイングを子ども自ら整えていくのだと指摘します。
    「遊ぶとは、生き物としての自然な行為なんです。誰かに指示されなくても、自然と遊んでしまうもの。そういう本能的な営みができているから、子どもたちは楽しく生きられる。そしてその体験が積み重なって、うまくいかないことがあっても、きっと大丈夫だと思えたり、つながれる他者に出会えたりするものだと思います」。

    「これからの時代、答えがわからなくても、失敗するかもしれなくてもやってみよう」というマインドを持つ大人がたくさんいてほしいと嶋村さんは続けます。

    「不便や暇もとても大切だと思います。『あ、これだ!』と面白いことを見つけた時の瞬発力は、退屈していた子のほうがきっと大きい。『つまんないな』と思っていた時に、一筋の光が見えてきたときのうれしさは、子どもも大人も変わらないのではないでしょうか」。

    PROFILE

    嶋村仁志

    嶋村仁志Hitoshi Shimamura

    一般社団法人TOKYO PLAY代表理事。一般社団法人日本プレイワーク協会代表理事。上智大学外国語学部英語学科卒業、英国リーズ・メトロポリタン大学(現リーズ・ベケット大学)ヘルス&ソーシャルケア学部プレイワーク学科高等教育課程修了。2010年の任意団体TOKYO PLAY設立時より代表に就任。2005~2011年には、IPA(International Play Association・子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア副代表も務めた。共著書に『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実践』(学文社)がある。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    大和ハウス工業は、子どもから大人までが楽しく学ぶ「共育活動」や「共創活動」ができる場として、創業地奈良にある、みらい価値共創センター「コトクリエ」で、さまざまな取り組みを行っています。

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