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特集:気候変動の最前線。今、地球はどうなってる? 悲観したまま、未来を生きる。地球温暖化の先を描いた漫画『utopia』が問いかけること ©夕暮宇宙船/集英社

特集:気候変動の最前線。今、地球はどうなってる?

悲観したまま、未来を生きる。地球温暖化の先を描いた漫画『utopia』が問いかけること

2026.1.28

    舞台は、異常気象と社会のAI化が進んだ2045年。

    新進気鋭の漫画家・夕暮宇宙船さんが描く『utopia(ユートピア)』は、2025年10月24日に少年ジャンプ+に掲載後、SNSを中心に広がりを見せています。同年末には、「読者が選ぶ!少年ジャンプ+読切総選挙2025」で1位を獲得しました。

    作品内で描かれる、"あの日の夏"を渇望する、地球温暖化が進んだ世界に生きる子どもたち——。しかしご本人は「最初から地球温暖化や気候変動について描こうと思っていたわけではなかった」と話します。

    いったいなぜ、このテーマに辿り着いたのでしょうか。夕暮宇宙船さんが作品を通して伝えたかったこと、地球温暖化が進む今について感じていること。そして自身の"ネガティブさ"と向き合い、生み出されたものを紐解きます。

    当たり前の「夏」が失われていく

    『utopia』公開後、SNSや公開ページのコメント欄には「すごいマンガを読んでしまった…」「いつか国語の教科書にのりそう」「まるで未来日記を見せてもらったような気持ち」「ネガティブな自分が嫌だったけどちょっと救われた」など、多くのコメントが寄せられています。

    作品の舞台である2045年の世界では、1年の半分は地下道での通勤・通学を余儀なくされ、屋外に出られるのは5分まで。古き良き夏の文化は失われつつあるものの、教育はAIも活用して劇的に向上しています。感性豊かに育った子どもたちは、かつての夏の暑さを知りたくなって束の間の冒険を試みます。

    『utopia』の世界では、屋外に出られるのは5分間だけと決められています。
    ©夕暮宇宙船/集英社

    「ネームを考えている時、ちょうど『進撃の巨人』のアニメ映画を観たんです。世界にとって存在意義のある物語だと感動して、私もそういう漫画を描きたいと思いました。本来、私はとても悲観的な性格で。じゃあ、悲観的な自分が見て、今選び得る最高にいい状態ってどんな感じだろう。どうなっていたら、歳をとった時に『まあ悪くなかったな』と思えるのだろうと考えていって、その要素を一つひとつ書き出していきました」。

    メモしていくうちに思い出したのが、2024年に発表し、第86回ちばてつや賞(一般部門)で入選も果たした『水の定規』という自身の作品でした。

    「『水の定規』の設定は2003年頃で、自分が子どもの頃に感じた"夏の匂い"とか、"夏の良さ"を描いたものです。でも、今を生きている子どもたちが同じような体験をしたいと思っても『もうできなくない?』と気がついて」。

    夕暮宇宙船さんご本人。

    すでに現在、熱中症警戒アラートが発令されると外遊びや体育の授業ができなくなるなど、地球温暖化は、子どもたちの夏の過ごし方を変えつつあります。

    「夏といえば、外で遊んだりプールに行ったり。私は、それがギリギリ楽しくできた世代でした。でも今の子どもたちは昔みたいに外で遊べません。だから楽しい夏だけじゃなく、"悪くなった夏"も描かなきゃ自分の中で整合性が取れないと思いました。それに、誰がどう見ても絶望的だと思える気候変動の話なら、どんな思想や立場の人にも読んでもらえるんじゃないかな、と」。

    "あの日のような夏"は、いつか来なくなってしまうのでしょうか。

    悲観したまま、未来を一緒に生きたい

    気候変動による異常気象の頻発や生態系の変化に対し、不安、恐れ、怒り、無力感、罪悪感などの心理的ストレスを慢性的に抱える状態を「気候不安症(エコ不安症)」といいます。現在、若者を中心に世界中で広がっているとされていますが、夕暮宇宙船さんもその気持ちが痛いほどわかると続けます。

    「すぐに世界が暗い方向に向かっていると考えてしまうんです。地球温暖化もそうだし、虐殺や戦争もそう。なぜ世界はどんどん悪いほうにいってしまうんだろう、もうおしまいだっていう気持ちにすぐになる。なので、以前は環境問題に興味がない人やプラスチックを使うことに抵抗がない人を目の前にすると、腹が立ったり、がっくりくることもよくありました」。

    しかし最近は、必要以上にストイックな暮らしをすることも、周りに腹を立てることもしなくなったと言います。

    「すごく疲れるし、何より、悲観してどんどん落ちていく私をつなぎとめてくれるのは、いつも楽観的で明るい友だちなんですよね。私はそれに救われてきましたし、ある問題では楽観的だったとしても、別のことを真剣に考えていたりする。だから、私自身はちゃんと"悲観したまま"、彼らと未来を生きたいと思うようになりました」。

    以前から自身の中では「反出生主義」にも似た考えを抱いていました。「反出生主義」とは未来を悲観的に捉え「自分を含めて人は生まれてこないほうが良かったのではないか」「子どもをつくるべきではない」と考える思想や哲学の立場です。

    夕暮宇宙船さんは人間は生まれてきてもいいのか、と自問自答しながらも一つの答えを導き出しました。

    「今も、自分は子どもを持つことはないだろうと思っているんです。かといって、子どもがいないから関係ないと、未来の責任を放棄していいのだろうか。それはなんだか嫌だな、と。だから創作という形で、今、子育てしている中で不安を感じている人たち、子どもを持つか悩んでいる人たちの背中を押しながら一緒に歩きたいと思いました」。

    作品に出てくる悠(はるか)が、大人に訴えかけるシーン。
    ©夕暮宇宙船/集英社

    隣人に訴えかけることから"開かれて"いく

    そんなふうに考えられるようになったのは、尊敬する漫画家の齋藤なずなさんに漫画を見てもらったことがきっかけでした。

    「元々、人との関わりを一切排した漫画を描こうと思っていました。でも、なずな先生に見てもらった時、『漫画は出来事で見せるもの。思考がぐるぐるしているだけじゃ、何も動かないのよ』と言われたんです。なずな先生は、読んだ人に対して常に『開きなさい』というメッセージを発しているんだって言っていて。その言葉が響いて、『私が描くとしたら開く』って何だろう』と考え続けました」。

    そして生まれたのが『水の定規』という作品でした。その後、商業誌での作品の掲載が少しずつ始まります。

    「私は長い間、周りを無視して、大きな世界のことばかりを考えていました。でも、隣人に訴えかけることや隣人を励ますことからでないと『開く』には行き着かないということが何となくわかってきた。今もずっとその『開きなさい』という言葉の上を走っています」。

    しこりとして残ってくれたら

    『utopia』の中では、気候変動の問題自体はまったく解決していません。しかし、未来を生きる子どもたちの意識はしっかり前を向いています。

    「エンタメ漫画って、戦術を駆使して相手を倒したり、工夫して問題を解決して、主人公が目に見える形で成長していくものが多いですよね。私はそういう漫画も好きなんです。だけど、自分では全然描けない(笑)。以前会社員をしていた時、会社のキャリア面談で『10年後にどうなっていたいですか』って聞かれることがあったんですけど、私はあれが本当に嫌でした。そういうポジティブな思考回路がないことがコンプレックスでもありました」。

    「私にできることは『現状の混沌を解きほぐしてわかりやすい形にして提示すること』だけ。それだったら何とかできるな、と。一人の力じゃ気候変動なんて解決しないし、私には現状の話しか描けない。『utopia』はそうして生まれました」。

    地球温暖化という、誰にも等しく降りかかる絶望的な状況の中で、どんな未来を描き、どう隣人を励ますのか——。『utopia』では、課題をどうこうする前に、物事をどう捉え、どう生きるかという、私たち一人ひとりのありようが問われていると感じました。そして悲観的な状況を突きつけながらも、夕暮宇宙船さんの世界は優しく温かく、希望をそっと目の前に置いていきます。

    「『utopia』を読んだからって、意識が180度変わらなくていいんです。ただ、何かが"しこり"として残ってくれたらいい。いつか何かの時、意識が変わるきっかけになる手前にある"しこり"。視界に、そういうものがいくつ映ったかで、人の行動や思考ってちょっとずつ変わっていくものだと思うから。私の漫画もその一つとしてあれたらいいです」。

    「漫画って"怖い"ですよね。労力がそれほどかからずに読めてしまうから」と、夕暮宇宙船さんは続けます。

    「でも、何げなく読み始めて、自分と同じことを考えてる人がいるんだって思えたら、きっと力になるはずです。現実にはつらいことがいっぱいあるから、せめて創作物からは少しでも明るいエネルギーを届けられたらと思います」。

    PROFILE

    夕暮宇宙船Yugure Uchusen

    1996年生まれ。神奈川県在住。会社員として働く傍ら、2020年頃から漫画を描き始め、SNSや同人誌などで作品を発表する。2023年12月に発表したエッセイ『未題』が話題となり、のちに地下BOOKSより『小さき者たちへ』として出版。2024年、『水の定規』で第86回ちばてつや賞(一般部門)入選。2025年より、商業作品にも挑戦している。同年『utopia』を発表し、SNSを中心に話題を集める。趣味はボクシング観戦とひとりでドライブすること。
    X:@yugureuchusen2
    Instagram:@yugureuchusen_painting

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