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コラム No.20-3

PREコラム

「官民連携による地域活性化への取組を探る」(3)地域の再生のために、空き家だって役に立つ

公開日:2017/02/28

少子高齢化などによって、全国的に空き家が増加し、安全や衛生面で社会問題となっている。総務省の「平成25年住宅・土地統計調査」によれば、2013年の全国の空き家は約820万戸、現在は1,000万戸を超え20年後には住宅の3分の1が空き家になるとの推計もある。空き家と言っても所有者がいるわけだが、それが何らかの理由で放置されているのだ。
しかし、使われなくなって間もない空き家のほとんどは、まだ使える物件だ。このような空き家を活用して、若者の起業を支援している中小企業がある。

都会に隣接するオアシスで起業する

舞台は福岡市。近年、住みやすい街として注目を集めている。人口150万人を超える政令指定都市でありながら、職住近郊の環境が保たれており、また、九州の中核都市として大学や専門学校も多く、多くの若者が居住していることから、ベンチャー企業の活動も活発で、活気を感じさせる街だ。この福岡市の北、博多湾の目と鼻の先に、市民に親しまれている観光地がある。能古島(のこのしま)と志賀島(しかのしま)だ。市街化調整区域に指定されていることもあり、福岡市内中心部から1時間程度の距離にありながら、都会の喧騒とは無縁の手つかずの自然が残されている。その中で志賀島は、島とは言え砂州により本土と陸続きの周回11kmあまりの陸繋島で、近年では年間17,000人ものサイクリスタが訪れる。
この人口1,700人あまりの志賀島に、サイクリスタ向けのレンタサイクルとカフェを営む「シカシマサイクル」が2014年に開業した。「シカシマサイクル」は福岡市内でWebデザインや制作を行っているカラクリワークス株式会社が運営している。実は、この「シカシマサイクル」は空き家を改装した店舗である。2014年に、福岡市の市街化調整区域の規制が緩和されたことを機に、空き家の所有者と交渉の末、賃貸物件として借り受け、若者が集まる店舗へと姿を変えた。

空き家を活用した賃貸事業を展開する

市街化調整区域に指定されると、建物の新築や改築、用途の変更に規制がかけられ、物件の売買や賃貸が進まない。過疎化が進む中で、事業参入の障壁ともなり、産業の活性化の妨げになっているとして、志賀島地域の規制が緩和された。その適用をいち早く受けたのが「シカシマサイクル」である。
その手法はこうだ。まず、地域内の空き家の家主と交渉し賃貸物件として借り受ける承諾を得る。特徴は、店舗として改装しても、原状回復の必要がないという条件を付けるところだ。地区内には空き家の処分に困っている所有者もいるため、これが比較的に可能であるという。次に、自治体などと調整の上、用途変更や改装の許可を得て、店舗として改装する。2階建て物件の家賃相場は3万円程度ということなので、住居兼店舗としては、かなりお得である。
さて、ここで終われば、ユニークな開業手法のご紹介というところであるが、カラクリワークス株式会社の場合は、これに留まらず、この手法そのものを事業にしたところが違っている。
志賀島には、活用されずに放置された空き家が全島で約70軒あると言われている。そのような状況を受け、「シカシマサイクル」の開業ノウハウを使って、空き家を活用した島外事業者などへの賃貸事業を行ない、志賀島の活性化に繋げられるのではないかと考えたのだ。
現在では、自治会や住民、空き家所有者への説明会を通じて、空き家が有効活用できることを説明し、賃貸物件として登録することを促し、登録された空き家を志賀島情報サイト「みちきり」で公開している。また、「みちきり貸家ツアー」と称し、入居希望者への現地説明会を実施し、借り手が見つかれば家主との交渉をサポート、最終的な賃貸契約を民間の不動産会社に委託する。さらに契約後は、資金調達、お金を掛けない改装方法、廃材等の処理方法などを入居希望者へ情報提供している。
借り手は、自然の中で仕事をしながら自分らしい生活を営みたいと考える若者が多く、結果として地域の若返りに貢献している。また、「よそ者」に耳を貸し、地域の活性化に連携して取り組んでいる地域住民の寛容性も、事業を推進する素地であったようだ。

空き家の活用で若者の起業を支援する

若者の起業と言えば、IT産業にみられるような華やかなものに目が行きがちだが、近年では、その在り方も多様化している。企業の社員となって都会で暮らすライフスタイルを捨てて、地方で事業を営みながら自分らしく生きることを選ぶ若者も少しずつ増えている。このようなニーズを捉えて、民間と行政が連携した若者起業支援の取組は、地域の再生に向けた有効な手法として参考になるだろう。
ここでご紹介した志賀島の事例は、市街化調整区域での規制緩和という、極めて特殊な条件下での取組ではある。また、空き家の問題は、少子高齢化だけでなく、相続や税制の課題など、簡単に解決できるものではないだろう。しかし、「空き家」を「再生可能な賃貸物件」と捉えて、小さいながら若者の起業に役立てる発想は、特筆に値するのではないだろうか。
志賀島での事例以外にも、空き家を活用した店舗開業の取組は、全国各地に存在する。
例えば、空洞化した市街地の空き家を活用して屋台村を整備した、青森県八戸市や山形県酒田市の取組なども、民間所有の遊休資源を官民の合意形成の下で活用している事例として注目させるものだ。これら地域の多様な取組については、今後も紹介していくことにする。

今回は、民間企業主導による地域活性化の事例をご紹介した。
次回は、行政が主導して民間と連携し、次世代産業ベンチャー企業の集積と地域の中小企業の育成に取り組む事例などをレポートしたい。

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