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コラム
<投資/資産形成>
給与所得者による収益不動産経営
給与所得者の方がこれから収益不動産を購入し効率的な不動産経営をする方法について、不動産投資セミナーなどでご活躍中の桃石株式会社代表取締役の吉田隆一さんが解説します。
給与所得を税務対策ができるのか?
財産を築きたいと考え、何かしらの税務対策ができないかと考える給与所得者の方も多いでしょう。給与所得は事業所得や不動産所得と違い、収入から必要経費を差し引いて所得を計算するということができません。給与所得の計算は収入から給与所得控除額を差し引いて算出しなければならず、その給与所得控除額は次表の通りです。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 |
---|---|
1,625,000円 | 550,000円 |
1,625,001円~1,800,000円 | 収入金額×40%ー100,000円 |
1,800,001円~3,600,000円 | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円~6,600,000円 | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円~8,500,000円 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
国税庁No.1410 給与所得控除
給与所得者には必要経費が認められていないため、給与所得内だけで税務対策を実行するには限界があるのです。給与所得を減額する方法には、所得控除(生命保険料控除、個人型確定拠出年金による小規模企業共済等掛金控除など)と税額控除(配当控除、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)など)がありますが、年収が一定額を超えるとその効果も薄くなってきます。
その方法とは、給与所得内だけでなく、他の所得を活用した「損益通算」も合わせて検討していくことで、さまざまな税務対策の可能性を浮かび上がらせるものです。
損益通算とは、赤字の所得を他の黒字の所得と相殺して計算する方法です。不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つの所得に赤字が出た場合、他の所得と通算できるという規定です(所得税法第69条、所得税法施行令第178条、租税特別措置法31条、32条、37条の10、37条の11、37条の12の2、41条の4、41条の4の2、41条の5、41条の5-1の2、41条の14、平20改正所得税法附則47、平26改正所得税法施行令附則5)
4つの所得の概要は次の通りです。
所得の種類 | 内容 |
---|---|
不動産所得 | 土地やアパート、賃貸マンションを経営したときに生じる家賃収入 |
事業所得 | 個人事業主として事業を営むことによる所得 |
山林所得 | 個人で林業を営み、山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡することによって生ずる所得 |
譲渡所得 | 土地、建物、株式などの資産を譲渡することによって生じる所得。ただし、不動産や株式等には制限がある |
この4つの所得のうち、不動産所得と事業所得が税務対策として現実的ではないでしょうか。例えば山林所得の場合、個人で林業を開業しなければなりませんので、それなりのノウハウがないとできないのは明らかです。また、譲渡所得は、財産を譲渡したときに発生する所得で経常的ではないため、活用するのは難しいでしょう。
給与所得者の税務対策に有効?事業所得の検証
給与所得者の税務対策に事業所得がどのようにかかわってくるのか検証しましょう。
個人が業として継続的に何かしらの事業を経営し収益が発生した場合に得た所得が事業所得です。
事業所得の計算は、次のように算出されます。
事業所得=
収入-必要経費-(青色申告特別控除)
もし事業所得が赤字となった場合は、他の所得と損益通算ができます。会社員の方でも、何かしらの事業を始めて収入が発生すると、1年間の収入は「給与所得+事業所得」となるので確定申告の申告・納税をしなければなりません。このとき、事業所得の経費が収入よりも多い場合、事業所得は赤字になるので給与所得と損益通算することができます。ただし、事業所得とは、反復、継続・独立して行われる仕事でなければなりません。(参照:消費税法基本通達5-1-1 (https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/05/01.htm))そのため、会社員の副業は、損益通算の対象とならない「雑所得」に分類されてしまいます。事業所得の活用や減価償却費の計上などを上手に活用すれば、収支は黒字でも所得を赤字にして税務対策を講じることはできるのですが、副業が事業として認められるか否かのハードルは高いということを踏まえておかなければなりません。
給与所得者の税務対策には不動産所得がおすすめ
不動産所得とは、収益性だけでなく税務対策の観点においても興味深いものです。
不動産所得とは賃貸アパート・マンションを経営したときに生ずる所得です。不動産所得の計算は、次のように算出されます。
不動産所得=収入-必要経費-(青色申告特別控除)
不動産所得は事業所得と違い、収益不動産経営による収入がそのまま不動産所得となります。しかし、納税者にとって不動産所得の計算は事業所得よりも厳しい点があります。それは、不動産所得の必要経費枠が少ないからです。不動産所得の所得計算において必要経費枠に計上できる代表例は、建物の減価償却費、修繕費、火災保険料、固定資産税、借入金の利息、不動産管理費、地代などですが、接待交際費や現地視察のための交通費などは必要経費として認められません。この限られた必要経費枠の中で、いかに収支は黒字に、所得は赤字にするべきかを検討しなければなりません。そのためには、減価償却費、不動産管理費、地代を上手に活用していくことが重要なポイントとなるのです。
会社経営者こそ検討したい不動産経営
会社経営者の方こそ、不動産経営が有効です。まず、法人を設立し、その法人で土地を所有し、個人では建物を所有します。そうすると、個人は法人に地代の支払いが生じますので、ご自身で設立した法人に対して地代という必要経費を発生させることができます。さらに、設立した法人で収益不動産(賃貸アパート・マンション)に対して家賃保証(一括借上げ)をすることにより、個人は法人に対して不動産管理手数料の支払いも生じます。つまり、ご自身が設立した法人を活用して、不動産所得の必要経費枠を拡大させることができるわけです。また、この場合、法人には益金が計上されますが、そのときは所得税と違い、生命保険(法人保険)の活用により、比較的容易に対策をとることができます。
この方法は、既に会社を経営されている場合、大きな効果をもたらします。例えば、経営されている法人で土地を購入し、建物を社長個人で所有すれば、社長には不動産所得が発生しますので、役員給与(給与所得)と損益通算することができるのです。特に、年収が4,000万円を超える場合、所得税率を考えると税務対策の効果は大きくなります。
この方法を応用すると、定期借地権を不動産業者が設定し、そこに個人で収益不動産を建設しても同じようなことが実現できます。
このように、個人と法人を上手に活用することにより、税務対策を考慮した不動産経営が可能です。不動産経営は収支計算だけでなく、他の収入も把握しながら総合的に検討することが重要となります。もしこれから不動産経営をしてみたいという方や法人化に興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。
教えてくれたのは
桃石株式会社(https://tokoku.jp/)代表取締役 吉田隆一さん
※掲載の情報は2022年2月現在のものです。内容は変わる場合がございますので、ご了承ください。
写真:Getty Images