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コラム No.44-2

CREコラム

地方創生と不動産証券化(2)地方における不動産流動化・証券化【ヘルスケア・CCRC分野】

公開日:2017/12/25

内閣府は今年5月、地方創生の推進に向けて、地方で拡大する観光や健康関連の事業に対して安定的に不動産を供給するため、「地方創生に資する不動産流動化・証券化に関する意見交換会」を開きました。3回にわたって開催された意見交換会を通して、地方創生における不動産証券化を見ていきます。

中間層向けの年金で入居できる施設の実現・拡大

第2回会合のテーマは「ヘルスケア・CCRC分野における地方の不動産流動化・証券化について」。CCRCは「Continuing Care Retirement Community」の略称。高齢者が健康なうちに入居し、生涯そこで暮らせる生活共同体のことで、安全な住まいと医療・介護のサポートを提供します。1970年代頃にアメリカで急増したといわれています。

我が国では2015年、政府が地方創生の観点から、中高年齢者が希望に応じて地方などに移住し、地域住民と交流しながら健康で生き生きとした生活を送り、必要に応じて医療・介護を受けることができる「生涯活躍のまち」づくりを推進することを決めました。これを日本版CCRC構想として提唱、「東京圏をはじめとする都市部で生活する高齢者が、自らの希望に応じて地方に移り住み、地域社会において健康でアクティブな生活を送るとともに、医療介護が必要な時には継続的なケアを受けることができるような地域づくり」を目指すものと定義されました。

米国ではCCRCの対象を富裕層としていますが、日本は主に高齢者夫婦の厚生年金の標準的な年金月額(約21万8千円)で生活できるような水準を想定しています。また、米国のCCRCは高齢者だけが住んでいますが、日本版は高齢者だけでなく幅広い世代が共生し互いに支えあう地域づくりを目指しています。会合でも、「富裕層向けではなく、中間層向けの年金で入居できる施設の実現と拡大が大切で、そのためにはCCRCの家賃を下げる必要がある」との意見が出ました。

CCRCは健康な高齢者が入居するので、有料老人ホームや介護施設と異なり、介護職員は常駐していません。このため、入居後に介護が必要になった場合は、入居者が個別に契約して訪問介護やデイサービスなどの在宅サービスを利用することになります。ただし、CCRCは医療介護が必要な場合には受けられる体制を目指しています。

「ご当地ヘルスケアファンド」の提案

医療・介護施設に投資するヘルスケアリートについて、ジャパン・シニアリビング・パートナーズ社から提案がありました。
地方でヘルスケアリートを活用したCCRCを実現するには、入居者が負担できる家賃と投資家が求める家賃のギャップを解消することが必要で、投資家が期待する利回りを下げるため、「ご当地の、ご当地による、ご当地のための」ヘルスケアファンドの仕組みを立ち上げることを提案。「上場リートでは難しく規模が小さな地方の案件でも、地方のリスクを取り、地方のマネーを呼び込んで良質で有益なヘルスケア施設の供給を促進する私募ファンドとして仕組めるのではないか」と意見を述べました。

「ご当地のご当地によるご当地のための」ヘルスケアファンド ~地域社会における資金循環の実現

出典:ジャパン・シニアリビング・パートナーズ社の第2回意見交換会提出資料より一部抜粋

「ご当地ヘルスケア・インフラファンド」は私募ファンド形式で、家賃収入は長期安定し資産価値(元本)も長期安定的とミドルリスク・ミドルリターンが期待できるといいます。また3大都市圏のオフィスやマンション、商業施設などと比べて相対的に利回りは高く、非上場のため元本の変動リスクが低い(不動産鑑定評価による年1回の評価替え)と主張しました。

地方における不動産流動化事業

コミュニティネット社は、地方における不動産流動化事業について意見を述べました。 地方における流動化のハードルのひとつは、事業規模。地方では都市部と比較して対象となる人口や利用者数が少ないため、大規模案件は難しい。発生するコストや利回りは利用者負担となって価格に反映する。また高価格のものに対するニーズは低く、新築の場合は更に価格が高くなるなど、利用者負担が重い。また、運営主体は地方の事業者に新規事業展開の余力はあまりない、などと語りました。

解決策として同社は、「(1)小規模案件をまとめて流動化(2)空き家を活用(3)コミュニティネット(CN)が一括で借り上げる、もしくはCNが地元事業者をサポートする」の3点を指摘しました。同社は、八王子UR団地の一部を高齢者・障がい者支援住宅や留学生、シングルマザーなど3つのカテゴリーに分けて再生するプロジェクトに取り組んでいます。

地方不動産への取り組み~リバースモーゲージ

金融機関の立場から、みずほ銀行が出席しました。同行は、地方不動産の取り組み例として、リバースモーゲージを紹介しました。リバースモーゲージとは、持ち家を担保にして、そこに住みながら金融機関から融資を受けるシニア層向けの貸付制度です。住宅ローンの「逆バージョン」と言えるかもしれません。リバースは「逆」の意味、「モーゲージローン」は不動産を担保にした貸し付けのことです。

1980年代後半に東京都武蔵野市など一部の自治体で制度融資として取り扱いが開始されましたが、存命中は金利だけ返済し、死後に担保の持ち家を処分して返済することから、日本人のウエットな感覚からは受け入れにくい金融商品で、あまり注目されませんでした。ところが、年金の支給開始年齢が遅れたり、年金の支給額そのものが目減りするなど公的年金制度が変容したころから、いま改めて注目され始めています。

みずほ銀行によると、2035年には世帯主60歳以上の世帯数が世帯主20~50代の世帯数を逆転すると推測されています。一方、高齢者世帯の経済実態は、一般的な高齢世帯は毎月6.2万円、年間で約75万円の預金を取り崩して生活しており、貯蓄額が不足する世帯もあるといわれています。

不動産資産が小規模の地方での証券化推進とは

札幌に本社を置く不動産デベロッパーであるアルファコート社は、地方都市の不動産開発に携わる立場から意見を述べました。

同社は、これまでの経験から官と民の連携事業事例の特徴を次のように3点挙げました。

  1. (1)老朽化した公営住宅団地跡地や遊休市有地を、今後の市の施策へ民間事業を誘導する「種地」として活用する。
  2. (2)コミュニティ形成や維持のためのセンターの運営や、生涯活躍のまちを推進することなどに求められる要素を公募用件に加えることにより、建物整備だけではない官民連携を担保する。
  3. (3)生活都市をコンパクトにすることと、特色ある地方都市として発展することの両軸を、官民連携で実現を目指す。

次に、地方でより証券化をすすめるために、その課題と対策について言及しました。地方では個々の不動産資産規模が小さいために、ヘルスケア施設だけでなく商業施設などと複合化させ、街区丸ごとの証券化ができれば地方で証券化がより進むのではないかと指摘しました。現状では用途別に特化したファンドやリートが多いので、小規模で多くの種類の資産の組み込みが可能で地方に特化したリートやファンドなどの登場を望むと語りました。

社会福祉法人が建物を所有しなければならないなど、規制がある特別養護老人ホームは証券化に適さない施設があるが、CCRCで求められる自立型から特別養護老人ホームまで幅広い施設の保有を証券化が可能となるような規制を解除すべきと述べました。また、土地を売却したくない大地主や地方公共団体の土地では、事業用定期借地権の設定となり評価が下がることを懸念することが多いので、こうした土地所有者に対する啓蒙活動の必要性を説きました。

第2回の意見交換会では、このほか、「官が民を助けるという考え方が問題であり、民間や地域住民が自治体や国をどうやって助けるかという逆の発想でないと難しい」との指摘や、「地方でのコミュニティビジネスはさまざまあるが、人件費の高い大企業が対応するには難しい側面がある。地元住民の有償ボランティアやNPO、中小企業の人材を活用しながら自治体と連携し、売り上げはそんなに上がらなくても、売り上げに見合った経費にするために人件費などを落とすことが重要な要素になる」として、そのためには地域プロデューサーの養成も非常に重要になってくる、などの意見が出ました。

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