家づくりを考えるとき、建物を優先して、
エクステリアは後回し…という方は意外と多いかもしれません。
しかし、内(建物)と外(エクステリア)のつながりにこそ、
快適な住まいづくりのポイントが隠れているのです。
この連載では、ダイワハウスの設計士が「ここちよいエクステリアの作り方」を、
フロントガーデン、メインガーデン、植栽計画といったテーマ別にご紹介します。
連載の後半では、おうちでのキャンプやアウトドア気分でのテレワークを叶えるエクステリア、
非日常を感じさせるリゾート風ガーデンの作り方といった実例もたっぷりご紹介します。
第4回目のテーマは「植栽計画」です。
植栽は住まい全体の印象や、室内の過ごしやすさを左右する大切な要素です。
ニューノーマル時代で改めて見直される緑の効用や、
ライフスタイルに合った無理のない植栽計画について、
大和ハウス工業の設計士、河原和美が解説します。
Profile
大和ハウス工業 本社 住宅事業本部 西日本住宅設計室一課
一級造園施工管理技士 一級エクステリアプランナー
河原 和美
個々にとっての快適な空間は千差万別です。お客さまのご要望とイメージをお聞きし、具現化するのがデザイナーに任された役割であり、そこに内部空間、外部空間の垣根は存在しないと思っております。敷地と建物、庭を一体的に設計することで住まい手と建築と庭が調和した暮らしを提案してまいります。
おうち時間が増えてガーデニングがブームに
テレワークや外出自粛で「おうち時間」が増えたことをきっかけに、ガーデニングを楽しむ方が増えていると言われます。植栽は住まいに「潤い」をあたえるだけでなく、暑さをやわらげたり、プライバシーに配慮したりと機能面でもさまざまな効果があります。
一方で、「手入れをする時間がない」「手入れが行き届かず荒れてしまったら…」とハードルの高さを感じる方もいるでしょう。
お客さまとの打ち合わせで、はじめは「植栽は要らない」とおっしゃるお客さまでも、実際に植栽に彩られた暮らしを経験されると、「日常にホッとくつろげる空間があると癒やされる」とおっしゃる方は多いです。植栽を植えることで得られるいくつかの効果をご紹介しましょう。
ストレス軽減、子どもの感受性を育む…
見直される「緑のチカラ」
庭に植栽を入れるいくつかのメリットをご紹介します。
ストレス軽減&子どもの「人間関係能力」を育む
生活ではストレスがかかることが想像できるでしょう。森林浴にはストレスによってバランスが崩れた心身を正常な状態に戻す働きがあるという科学的研究データが次々と報告されていますが、森まで足を運ばずとも、植物を眺めるだけで以下のような効果が得られることも実証されています。
「私たちは、花や植物が、屋外でも、室内でも、自宅でも、職場でも、幸せをもたらしてくれることを直感的に理解し、研究もされています。(中略)観葉植物の前に座って見るだけで、生理的にも心理的にもリラックスすることが報告されています」 「観葉植物を見ることによって、対照に比べて、副交感神経活動が13.5%上昇し、交感神経活動が5.6%低下しました」
※『Shinrin-Yoku(森林浴): 心と体を癒す自然セラピー』より
さらに、子どもの頃に豊かな自然体験をした方ほど、人間関係能力が高いという結果※もあります。
※独立行政法人国立青少年教育振興機構「子どもの体験活動の実態に関する調査研究」報告書より
自宅の庭に植栽をするだけで、大人には無意識のうちにリラックス効果が得られ、子どもには豊かな感受性の発達をうながす効果があるなんて嬉しいですよね。
家庭菜園や果樹栽培で収穫する喜びを味わえる
自宅の庭で家庭菜園や果樹栽培に挑戦して、子どもの五感を刺激しましょう。野菜が苦手なお子さまも食べるきっかけになるかもしれません。香りのいいハーブや果実、野菜を実らせる品種を植栽として取り入れるのもおすすめです。アプローチに植えれば、出入りのたびにハーブの香りに包まれます。
夏は涼しく冬は木漏れ日を誘う。緑で得る快適な室内環境
室内環境を快適にする
植栽には室内環境を向上させる効果もあります。夏場には生い茂る葉が直射日光の約9割を遮り、落葉する冬場には木漏れ日が差し込むことで、屋内の温度を調整します。また、低木や地面を覆う草は直射日光を軽減させ、葉からの蒸散と地表の保水水分の蒸発により、ヒートアイランド現象の緩和が期待できます。隣家や道路からの視線をほどよく遮る効果もあります。
自然が作り出す美しい樹形や新緑、紅葉の色彩は、「我が家」と「街」に潤いのある景色をもたらしてくれるでしょう。建物はどうしても水平・直角のラインが多いですが、植栽の有機的な曲線が硬い印象をやわらげ、建物を引き立ててくれます。
植物の特性を理解して無理のない庭づくりをしよう
植栽計画は自分で手入れができる無理のない範囲で考えていくことが大切です。やみくもに植えてしまうと、手入れができずに荒れてしまい、ご近所に迷惑をかけてしまうことも。住まいを素敵に演出する、効果的な植栽計画を考えていきましょう。
成長度合い・特性を踏まえた樹種選定
植栽のトラブルで多いのが「大きくなり過ぎて困る」という声。新築祝いでいただいた苗をご自身で植えたら、巨木になってしまった!というケースも聞きます。鉢植えと地植えでは成長度合いが違うので、想定を超えたサイズになってしまうことも。写真は常緑樹のシマトリネコです。この木は成長スピードが速く、こまめに剪定しないと数年で巨木に成長するので、植えるスペースに余裕がない場合はおすすめしません。他にも、枝が前後左右に広がって動線の邪魔をしやすいもの、地下茎が隣地に侵入しやすいもの、害虫がつきやすいものなど、注意を要する樹種があります。
目隠しをしたい場所には常緑樹が適していますが、適度に抜けがあると風も光も通るので、半日陰となる場所であれば落葉樹のような樹形をした常緑樹の「ソヨゴ」などをおすすめすることもあります。南向きのリビングの外には、夏は直射日光を遮り、冬は葉が落ちて木漏れ日が差し込む落葉樹がおすすめ。常緑樹は葉が厚く日差しを遮る効果が高いので、西側に植えれば強烈な西日を遮ってくれます。
自然に見える配置は「不等辺三角形」
上から見たときに等間隔にならないよう、高さの異なる中高木を「不等辺三角形」に配置し、空いたスペースに低木や地被類を配するとバランスが良くなります。横から見たときも、木の高さを揃えず、流線的に変化するように植えると自然です。建物とのバランスも考慮しましょう。敷地内でポイントを絞って植栽をするなら、毎日住まい手が行き交うフロントガーデンを優先的に。門柱のそばにシンボルツリーを植え、アプローチにも植栽し、季節感を演出します。
カラーリーフで彩りを添える
緑一色になりがちな植栽に彩りを添えてくれるのが、赤、紫、黄色などの色や斑入りの模様が美しいカラーリーフです。一年草のように季節ごとに植え替える手間が省ける多年草や宿根草なら毎年楽しめて手入れの手間が軽減されます。
土の表面を残して「余白」を作る
お客さまご自身が住んでから手を加えられるよう、すべてを作り込んでしまわず「余白」を残しておくことも大切です。こちらは、階段の脇と門柱の手前に余白を残した例です。草取りの手間を省くためにコンクリートなどの土間仕上げにしてしまう方もいらっしゃいますが、余白を残しておけば、後からお客さまご自身で花や緑を植えることができます。花を植えなくても、石や砂利を敷いても素敵です。
庭の手入れを助けてくれる便利アイテム
植栽の手入れを楽にする便利なアイテムをご紹介します。
自動散水機
植栽の導入に心理的なハードルを感じるのは、やはり水やりの心配ではないでしょうか。特に夏場はこまめな水やりが必要ですが、タイマー式の自動散水機があればその手間が軽減されます。ホームセンターやインターネットで気軽に入手でき、水栓があれば後付で簡単に設置できます。植栽の場所に合わせて、水栓を計画しておきましょう。
ブロワー
落ち葉の掃除に便利なのが充電式のブロワー。送り出した風で落ち葉を集めたり吹き飛ばしたりできるので、植物の間や木の根の間に落ちた落ち葉の掃除もストレスフリーです。
玄関土間収納やシャッター式の外部収納も合わせて計画しておくとガーデニンググッズがすっきり収納できます。
コンテナガーデンやインドアで観葉植物に触れる
暮らしに緑を取り入れるなら、室内緑化という方法もあります。「庭を作るのは少しハードルが高い」と感じる方は、まずインドアで観葉植物に触れる機会を増やしてみてはいかがでしょうか。空気の浄化やリラックス効果、インテリアとして見栄えを良くする効果が期待でき、コンセントなど気になる設備をさりげなく隠すのにも向いています。
植栽計画に迷われている方は、まずインドアで観葉植物やコンテナガーデンのある暮らしに挑戦してみてください。
設計士からのアドバイス
「土の表面を残さず、土間仕上げにするとどうしても殺風景で味気ない住まいになりがちです。スペースが限られていても、コンテナグリーンを置いたりサブ駐車場を芝生にしたりと植栽を取り入れる方法はあるので設計担当者にご相談ください。お手入れがあまりできない方なら、花壇である程度区切ってあげることで、雑草が茂っても雑然とし過ぎる心配はありません。植栽計画も間取りとセットで考えることが大切です。配管や室外機などの設備の位置を踏まえ、部屋からの眺めも考慮した植栽レイアウトが可能です。ぜひ住まいに植栽を取り入れて、暮らしに彩りを添えてみてはいかがでしょうか」
※掲載されている実例写真の外観や仕様等につきましては、敷地、周辺環境等の諸条件や地域の条例、その他諸事情により、採用できない場合もございます。