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コラム No.140-10

CREコラム

脱炭素社会と不動産(10)インターナル・カーボンプライシング

公開日:2023/09/29

企業の脱炭素推進を後押しすると注目されている「インターナル・カーボンプライシング(ICP)」。CO2排出量に価格を付けて投資判断などに活用し、脱炭素に関連する損益を明らかにしていくものですが、排出コストを金額に換算して経営に生かすことで脱炭素推進の動機付けを図る狙いがあります。

高まるCO2削減圧力 企業選別にも

大規模な自然災害が世界各地で頻発しています。洪水や干ばつ、猛暑に森林火災など、地球温暖化による気候変動がもたらすと思われる異常気象が続き、私たちは地球環境の保護に敏感になってきました。温室効果ガスの削減をうたった京都議定書は1997年に制定されましたが、それから四半世紀。国民の環境保護に対する関心は格段に高まっているといえるでしょう。

化石燃料を使用したエネルギーの消費量は、生産活動を展開する産業界がより多くもたらしていることは論をまちません。それだけにCO2削減は企業の削減努力なしには前に進まないことも自明の理です。ただ、企業が生産活動を停滞させてまでCO2を削減するには限界があります。再生エネルギーの使用は現時点で高コストの側面があり、国が2050年に実現を目指すカーボン・ニュートラルに十分貢献できるわけではありません。

一方で、温暖化対策に消極的であれば企業評価が低下する時代に入ってきました。評価が下がれば市場からの資金調達にも支障をきたします。企業の脱炭素経営は、好むと好まざるにかかわらず推進せざるを得ません。CO2削減努力は企業選別に直結するのです。

情報開示と規制への対応

ICPは、カーボンプライシング(CP)の手法のひとつ。国際条約などで決めた枠組みをもとに国が設定したCP、企業が独自に自社のCO2排出に価格付けして削減努力を行うICP、民間によるクレジット取引の3種類があります。政府によるCPには炭素税や、CO2排出枠を設けて温室効果ガス削減の取り組みを推進する排出量取引などがあります。

炭素税は1990年にフィンランドで初めて導入されて以来、欧州各国が導入し、化石燃料や電気使用量に応じて企業や個人に課税されますが、わが国ではまだ実施されていないので、聞き慣れない人が多いのではないでしょうか。ただし、わが国では2012年に炭素税の一種として「地球温暖化対策税」制度がスタートしています。2022年2月時点で排出量1トンあたり289円。早期に導入した欧州の炭素税と比べて1割にも満たない低税率といわれています。

排出量取引は、CO2削減に苦慮する産業界の妥協の産物といえるかもしれません。化石燃料使用エネルギーの消費が避けて通れない企業が、排出枠を超えて生産活動を継続せざるを得ないために「CO2消費枠」を金銭購入するものです。国や企業によってCO2の排出量は違いがあり、排出するためのコストも異なります。排出枠の設定によっては、少ない労力、少ないコストで利益を得る矛盾も生じることが指摘されています。国際条約による取り決めでは、国力や国ごとのエネルギー事情など排出に対する考え方や取り組み姿勢が異なるため、必ずしも公平な取引が行われる保証はないとの見方があるのです。

図1:カーボンプライシングの分類

出典:資源エネルギー庁Webサイト「脱炭素に向けて各国が取り組む『カーボンプライシング』とは?」

そこで、CO2削減自体が企業業績を左右する経営課題であるとの認識に立って実践していくICPが登場します。IT大手のマイクロソフト社は各部門にCO2排出量を割り出し、排出量に応じた資金を収集。集まった資金は低炭素投資の促進に使っています。国内製薬大手は低炭素投資を行う際、CO2削減コストがICP価格以下になれば投資を実施、上回れば投資回避する仕組みをつくるなど、投資判断の基準に活用しています。

世界のICP導入企業は、環境省の調査(2020年3月)によれば2,000社を超えており、わが国は米国に次ぐ規模。導入済みが118社、2年以内に導入予定の企業が134社に上るなど、約250社がICP導入企業となっています。ICPは企業の主体的なCO2削減対策であることから市場の評価も高いとされるだけに、ICPに関する情報開示は絶好の投資家へのアピールとなります。

図2

出典:環境省『インターナル・カーボンプライシングについて』(2021年4月2日)

東証が10月にもにカーボン・クレジット市場を創設

2023年10月にも東京証券取引所が「カーボン・クレジット市場」を開設します。この市場は東証が経済産業省から受託・実施したカーボン・クレジット市場の実証実験から得た知見を活かして開設するものです。取引対象は国が認証した「Jクレジット」。Jクレジットは再エネや省エネ、森林管理などでCO2排出を削減し、または吸収した量を認定したもので、経団連のカーボン・ニュートラル計画の目標達成などの用途に活用できます。前述した排出量取引の市場化ともいえますが、相対で実施されてきた排出量取引のマーケットが拡大することで、企業の主体的な取り組みであるICPにも好影響が出てくるのではないでしょうか。

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