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コラム No.140-9

CREコラム

脱炭素社会と不動産(9)森林活用

公開日:2023/08/31

炭素の貯蔵効果がある森林を有効活用し、CO2削減を推進しようとする動きが広がっています。太陽光発電や風力発電など、脱炭素社会の実現には再生エネルギーの利用が注目されがちですが、森林大国であるわが国で脱炭素のために森林を上手く使うことは、地域貢献など副次効果をもたらすメリットがあります。

森林は「CO2吸収」で脱炭素に貢献している

木々は光合成によって大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、炭素化してブドウ糖に変わり、幹や枝などを作り出しています。木の中には多くの炭素が貯蔵されることから、森林は存在そのものがCO2削減の役割を果たしています。そして、木々は伐採されて住居や家具などの材料になれば、森林と同じように炭素の貯蔵庫としてCO2削減(=地球温暖化対策)に繋がっていきます。森林を適切に伐採、植林するなどして育成・管理し、木材として安定的に利用すれば脱炭素社会の実現に大きく寄与できます。

わが国は、国土の3分の2を森林が占める森林大国ですが、この事実は一般にはあまり知られていないようです。森林といえば北欧をイメージしますが、国土に占める森林の比率(森林率)で見ると、OECD加盟37カ国中、首位のフィンランド、2位のスウェーデンに次いで世界3位にランキングされています(「世界森林資源評価2020」による)。

図1:OECD加盟国森林率上位10ヶ国

出典:世界森林資源評価2020

脱炭素に関する報道は、地球温暖化に対する関心の高まりを背景にCOP26(国連気候変動枠組条約締結国会議)の動向や太陽光発電や洋上風力など再生エネルギー、さらに省エネの家電製品などが話題の中心になっているようで、温暖化の国際対応や代替エネルギー動向、省エネに偏りがちに見えます。森林がもたらすCO2の削減(炭素の吸収と貯蔵)に視野が広がっていないのは残念といわざるをえません。まずは、私たちの国が森林大国であること、森林の「CO2吸収」が省エネ、再エネに匹敵する温暖化対策であることを知ることが重要ではないでしょうか。

所有者特定が困難な不動産でもある

森林が国土の3分の2を占める以上、森林はわが国で最も重要な不動産のひとつです。ところが、戦後の経済成長期を経て木材需要は長期的な下落傾向が続いたために、適切な育成や管理がなおざりにされてきました。ウッドショックで輸入材、国内材ともに2021年を境に急激に値上がりしてはいますが、わが国では戦後からの長い期間においては、木々を育てたとしても割安な輸入材の台頭などで市場価格は下がり続け、林業は生産性の低い、割の合わないビジネスに転落。高齢化による担い手不足が業界不振に拍車をかけ、伐採も間伐もされずに放置されている森林が増え、所有者特定が困難な森林が増加しました。
そして環境保護に貢献する森林は、林業を含む不動産業界の構造的な問題になりました。そこで国は2019年、森林の所有者に代わって自治体や民間事業者に伐採や植林など森林の管理を委託できる「森林経営管理法」を制定し、2021年には法改正により脱炭素社会実現の要素を盛り込んだ「公共建築物木材利用促進法」をスタートさせ、所有者特定と木材利活用に道を開きました。

2030年の政策目標は木材利用拡大が急務

2022年10月に閣議決定された地球温暖化対策計画で、わが国の温室効果ガス排出量は2030年度に46%削減(2013年度比)、そのうち2.7%を森林吸収量で確保する目標を設定しました。森林によるCO2吸収量を約3,800t-CO2(森林吸収量が3,120万t、伐採木材製品が680万t)を目指しています。この計画の先には2050年のカーボンニュートラル実現という大目標がありますが、このためには間伐やエリートツリーなどによる再造林の森林整備や建築物による木材利用の拡大が求められています。

図2:新たな温室効果ガス排出削減と森林吸収量の目標(2030年度)

出典:林野庁「森林と脱炭素をめぐる情勢について」(2022年1月31日)

エリートツリーとは、人工林の中で選ばれた「精英樹」(森林の中で格段に成長が良く、形質が優れているもの=第1世代)の中で、特に優れた樹々を交配した苗木の中から選ばれた第2世代以降の精英樹の総称をさし、一定の条件をクリアした優秀な個体は農林水産大臣の認可を受けます。わが国では1950年代中盤から始まったとされており、2012年にエリートツリーの原種が配布されました。

エリートツリー制度は効率的な樹木育成を展開して投資対象としての魅力を高め、安定した森林経営を実現する狙いがあります。高品質の木材を市場に供給することで、木材市場が活性化することが期待されていますが、林野庁の調査によれば2019年時点でエリートツリーは苗木需要本数約7,000万本の約3%といわれており、需要をまかなうほどの量に達するには、まだ時間を要すると思われます。

「森林×脱炭素チャレンジ」が始動

森林によるCO2削減の取り組みとして、林野庁は2022年から脱炭素社会の実現に貢献している企業の取り組みなどを支援する顕彰制度「森林×脱炭素チャレンジ」を開催しています。SDGsやESG投資への関心が高まり、企業が支援を強化して森林つくりが全国で広まっており、こうした運動を定着・拡大させるために設けられました。チャレンジ制度に応募した企業などは、「グリーンパートナー」としてCO2吸収量とともに企業名が林野庁のウェブサイトに公表されるので、企業価値の向上にも繋がります。

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