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コラム No.140-11

CREコラム

脱炭素社会と不動産(11)ESG

公開日:2023/10/31

脱炭素社会の実現に向けて、不動産はESG推進の観点から投資と開発の両面で貢献することができます。投資の側面では環境・社会・(企業)統治の各分野で改善策を推進する企業を評価するESG投資への関心が高まっています。またCO2削減策として再エネ・省エネ設計の不動産開発が成長ビジネスとして注目度が上がっていますが、今後は不動産開発に携わる労働者の人権にもスポットが当たっていくとの指摘があります。

運用市場で約3分の1を占めるESG投資

近年、ニュース報道などで頻繁に登場しているESGについて、おさらいしておきましょう。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取ったもので、「より良い社会を実現するために配慮すべき3つの要素」といわれています。現代社会は地球温暖化による環境問題や男女不平等、人種・民族差別などの人権問題、企業における利益相反や法令違反など、世界が直面している諸問題は「ESG」に包含されているといっても過言ではありません。

ESG投資は、こうした諸問題への改善・解決に向けて積極的に行動している企業を評価して投資することです。ESG投資の起源は、社会的責任投資(SRI=Social Responsible Investment)という投資手法にあるとされています。欧米でSRIは1920年代に宗教的観点から酒やたばこ、ギャンブルなどの業種・銘柄を投資の対象から外したといわれ、1960年代にはベトナム戦争や南アフリカのアパルトヘイトなどに対する反対運動で「人権」がクローズアップされ、1990年代には地球環境保護の運動が高まる一方、エンロン事件(不正会計)の発生などにより企業統治に注目が集まりました。

運用市場の世界で「ワーカーズキャピタル」といわれる年金基金が機関投資家としてビッグプレーヤーに成長。社会参画意識の高い労働者や退職者が加入する年金ファンドは投資先の非財務情報を重視するようになりました。こうした運用市場の変化によってESG投資は有力な投資手法として存在感を高めてきました。

国際的なコンサルティング会社「ボストンコンサルティンググループ」の調査によれば、2020年末における世界の資産運用残高は約103兆ドル(2022年末は98兆ドル)。これに対してESG投資とほぼ同義の「サステナブル投資」の統計を集計している国際団体「Global Sustainable Investment Alliance」(GSIA)の2020年調査で、サステナブル投資額は約35兆3千億ドル。ESG投資は運用資産の約3分の1を占める投資規模に成長しています。

世界情情勢の変化で「曲がり角」との指摘も・・・

ただ、ESG投資はここにきてコロナ問題や、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で発生したエネルギー価格高騰、さらには来年行われる米大統領選挙などの社会情勢変化で、岐路に立たされているとの指摘が出ています。米国では2023年5月に米南部の州でESG投資の活動を制限する「反ESG法」が成立し、地方債発行の際にESGの要素を考慮することを禁じた、ということです。背景にはESGを推進する立場の民主党と、これに反対する共和党の対立があるといわれています。 米国の政治的対立にも増して影響が大きいのがエネルギー危機でしょう。原油価格高騰で石炭などの化石燃料が再び需要増に転じており、脱炭素に向かいつつあった各国の産業界がCO2削減よりも生産活動を優先する傾向にあるようです。

企業のESG活動において「グリーンウォッシュ」と呼ばれる偽善的な環境対策が一部存在していることもESG投資の減少と無関係ではないとの声もあります。近年はSDGsやESGに対する関心の高まりを受けて、消費者に対する広告宣伝活動の中にこうした要素を組み込むことが一種のトレンドになってきています。一見すると環境保護に熱心に見えて、実態が伴っていない企業広告や企業活動があるとの指摘です。以前、「オーガニックタバコ」などと称して販売していたたばこ会社がありましたが、たばこ自体健康に害があると矛盾を指摘されました。

ESG型不動産開発では人権、社会性にも配慮

ESGの要素をバランスよく取り入れ、環境・社会との調和を重視した不動産開発事業を「ESG型不動産開発」と呼んでいます。これまでは省エネ・再エネに基づいたオフィスビルの建設設計や自然に優しい木造建築など、オフィス環境の快適性に注目が集まり、E(環境)の観点を優先してきた傾向があったといえるでしょう。
また、環境の観点だけではなく、現場の建築労働者に対する人権にも配慮することが重視されつつあります。外国人労働者とりわけ技能実習生への適切な対応や、増加傾向にある非正規労働者の処遇、事故防止など労務環境の整備は、建設業界と不動産業界が連携して取り組むべき課題です。完成したビルの環境設計面に目が行きがちですが、こうした人権問題にも配慮していく必要があるでしょう。
さらに、「社会性」の観点から見れば、都市部での再開発事業では用地取得やビル建設などで近隣住民への配慮が、今以上に必要になってくると思われます。敷地内に緑地を確保したからといって、それが近隣住民の憩いの場とならないようでは、十分な環境設計とはいえないでしょう。周囲の社会環境と調和することもESG型不動産開発に求められるのではないでしょうか。

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