今仲清の生産緑地シリーズ(2)バブル経済がきっかけで新生産緑地制度が誕生
公開日:2017/11/30
POINT!
・バブルによる地価暴騰で地価抑制が至上命題となり、新生産緑地法が施行された
・平成3年に改正された生産緑地法の最大のポイントは、指定解除が一律30年であること
農地の市街化推進と都市農地保全のせめぎ合いの中、昭和49年「旧生産緑地法」が創設され、昭和57年には「長期営農継続農地」制度が、平成4年には「新生産緑地法」が施行されました。ここでは、なぜ生産緑地制度が必要になったのか考えます。
バブルによる地価暴騰がきっかけで新生産緑地制度が施行
都市部における市街化が進行し、昭和49年の旧生産緑地法創設当時と比べ、市街化区域内農地の面積が10年余で半減したこともあり、国は昭和63年に「総合土地対策要綱」を定め、旧生産緑地法について「東京等大都市の市街化区域内農地については、都市計画において宅地化するものと保全するものとの区分を明確にする」ことになりました。
また当時の背景として、都市計画法※1に基づいた三大都市圏(首都圏、中部圏、近畿圏)の特定市※2の市街化区域内の農地について、宅地並みの課税を行うことで土地の流動化を図り市街化を進めたいという意見と、都市農業の衰退を防ぐために都市農地を保全すべきという意見がありました。
ところが、平成初頭に発生したバブル経済によって地価が暴騰した結果、宅地供給者への地価抑制が至上命題となりました。それが追い風となり、都市農家に大きな影響を与えることになる生産緑地法改正案が平成3年の国会で可決され、平成4年から新生産緑地制度が施行されることになりました。
- ※1 都市計画法:市または町村の中心の市街地を含みかつ一体の都市として総合的に整備、開発、保全を図る区域について「都市計画区域」として都道府県知事が指定することになっており、「市街化区域」と「市街化調整区域」とに分かれる。
- ※2 特定市:首都圏整備法第2条第1項、中部開発整備法第2条第1項、近畿圏整備法第2条第1項に規定された市。
生産緑地制度の改正
(1)最初の生産緑地法制定
昭和43年に制定された都市計画法に基づき市街化を推進すべき「市街化区域」を指定したものの、都市計画を進めるには区域内の農地について交通整理する必要がありました。そこで、昭和49年、最初の生産緑地法が施行され、三大都市圏の特定市の市街化区域内農地について農地所有者の同意を得て生産緑地の指定を行いました。ところが「買取りの申出」ができる期間が5年(第2種生産緑地)および10年(第1種生産緑地)と、現在に比べて緩やかだったにもかかわらず、面積基準が広大(500m²以上)だったこともあり、指定を受けたのは数%に過ぎませんでした。
(2)長期営農継続農地制度の制定
生産緑地の指定は極めて少なかったものの、市街化区域内の農地について、低い農地課税で農業を継続する農地と、宅地並み課税をして宅地化を図る農地に区分けしたい旧建設省は、妥協の産物として「長期営農継続農地制度※3」を昭和57年に発足させました。この制度は、市長が長期営農継続農地として認定した農地について、5年営農を継続すれば固定資産税等の宅地並み課税を免除するという緩やかな制度だったため、82%を越える農地がこの適用を受けた結果、宅地並み課税は事実上失敗しました。
※3 面積が990m²以上で、10年間営農を継続することが適当と認められた市街化区域内農地に対する固定資産税の宅地並み課税を猶予する制度。これらの農地は市街化区域にあっても、農地課税相当額の納税でもよいとされる。
(3)地価抑制の世論を受けて土地基本法が成立
バブルで地価が暴騰して地価抑制が至上命題の世論が形成され、その追い風を受けて、昭和43年に新都市計画法が制定されて以来の都市部の市街化区域内農地の交通整理が一気に進みます。「土地についての公共の福祉優先」「適正な活用」をうたった土地基本法が平成元年に成立し、「生産緑地法」および「相続税の納税猶予制度」の大改正が平成4年に実施され、新生産緑地制度施行につながります(図1参照)。
図1 新生産緑地法改正までの流れ
昭和49年と平成3年における生産緑地指定の違い
昭和49年当時は都市化の波が押し寄せていたものの、都市部における農地は十分でした。そのため最初の生産緑地法が制定された際の都市計画の変更は、市街化区域内農地について所有者が任意に申請したものだけを生産緑地として指定しました。ところが、平成3年の旧生産緑地法の改正を受けた都市計画法による地区指定は、市街化区域内の全ての農地について、「保全すべき農地」と「宅地化すべき農地」のいずれかの二者択一の選択を迫り、申請された「保全すべき農地」について、生産緑地指定を行いました。
新生産緑地制度のポイント
生産緑地法は条文が少ない法律(全21条)ですが、平成3年の改正も第4条、第5条の削除と第10条と第14条の変更だけでした。農地所有者にとって、生産緑地法の最大のポイントは都市計画法による地区指定が何年後に解除できるかという点にあります。
- ・旧生産緑地法の地区指定解除期関:第1種生産緑地は10年、第2種生産緑地が5年
- ・新生産緑地法の地区指定解除期間:第1種、第2種の区分をなくし、指定解除は一律30年
新生産緑地法では指定解除期間が一律30年に延びたのですが、30年という営農期間は農地を肥培管理することの労務から見て、現実には厳しいと思われました。