今仲清の生産緑地シリーズ(4)生産緑地の相続は納税猶予か、買取請求すべきか?
公開日:2018/01/31
生産緑地を所有している方に相続が起きた場合、相続人は生産緑地の指定を受けたまま納税猶予の適用を受けるべきか、買取請求をして高い相続税と宅地並み課税の固定資産税を払うか、十分検討して決める必要があります。
農業後継者がいないと生産緑地を続けられない
生産緑地を続けていけば納税猶予の適用で相続税の納税猶予を受けることができ、固定資産税も農地課税なので非常に安い金額で済みます。しかし、猶予された相続税は生産緑地の相続人自らが死亡しない限り免除されないので、生産緑地の営農を一生続ける必要があります。つまり後継者が営農を続けなければならないのです(図1参照)。
図1 生産緑地で相続が起きた場合の選択肢
農業後継者がいなくて営農できない場合は、生産緑地を解除するほかありません。したがって、宅地としての高い評価額で計算した相続税を、相続発生から10カ月後に金銭で納付しなければなりません。相続税の納税資金や固定資産税の納付資金がなければ、その生産緑地か他の土地を売却するなどで準備するか、あるいは延納や物納して納税します。ただ、延納や物納は権利調整ができないこともあり、時間がかかることが多く、抵当権が設定されたり利子税がかかるなど容易ではありません。相続発生までに生産緑地所有者が一定の要件に該当し、買取請求をして事前対策をしておくことが重要です。
農業後継者がいる場合には生産緑地の継続も選択肢の一つ
農業後継者がいる場合には、生産緑地を継続し、相続税の納税猶予を受け、農地課税の安い固定資産税で済ませることが有利です。しかし、この場合は次の代、被相続人から見て、孫が営農を続けていく意思があるかどうかが重要です。確かに固定資産税は安いのですが、相続税は孫が営農しなければ、今回の相続人に次の相続が発生したときの相続税負担が大変になるからです。
生産緑地所有者に相続が発生すると、納税猶予を受けたとしても死亡による買取請求事由が発生するので、生産緑地解除はいつでもできます。しかし生産緑地の買取請求を行うと、申請と同時に生産緑地にかかる納税猶予を受けている相続税と利子税を一括納付しなければなりません(原則年3.6%ですが、変動金利で平成26年は年0.9%)。
生産緑地を継続して当面は営農を続けて固定資産税を大幅に安くしておき、一方で相続税は手持資金や他の土地を売却して支払うという選択もあります。孫が営農しないことが確実な場合の次善の対策の一つです。
二代を通じて意思確認する
図2のように、生産緑地を所有している甲さんに相続が発生した場合、その子である乙さんが生産緑地として相続することは簡単です。そうすれば相続税の納税猶予の適用を受け、固定資産税を農地課税の安い税金で保有し続けることができます。しかし、乙さんに相続が発生したときにその子(丙さん)に営農の意思がなければ、乙さんにかかる相続税は何の対策もできていないので、宅地として非常に高い評価額でまともに相続税がかかってしまいます。
図2 相続が発生した場合には営農の意思を確認する
孫である丙さんに営農意思があれば問題ない
甲さんの相続時に乙さんが生産緑地として相続税の納税猶予を受けても、丙さんに営農意思があれば問題はありません。乙さんが元気なうちは引き続き農業を続け、体力的に無理が出てくれば丙さんに営農してもらえばいいからです。場合によっては生産緑地の全部を丙さんに一括贈与し、贈与税の納税猶予を受けることもできます。
ただし、丙さんに相続が起きたときに、同じ問題が生じます。次の代の営農意思が明確でない限りは、一括贈与による贈与税の納税猶予を受けるべきではありません。通常は甲さんの相続発生時にはそこまで見通せませんので、少なくとも丙さんの意思確認だけはしっかり行っておくことが必要です。
乙さんの相続対策は別の土地で行う
最近は90歳前後まで長生きされる方も珍しくありません。そうするとその後継者も60歳代後半ということになり、次の相続を考える必要があります。乙さんの相続対策を考慮して、甲さんの相続財産を分割することが重要です。その際には、生産緑地を丙さんが営農する予定がない場合と、営農する予定がある場合で対応が変わります。
- (1)営農しない場合
別の土地で相続税評価下げ対策を実行することが可能であったり、財産移転などで乙さんの相続税対策がある程度可能であったりすれば、生産緑地で相続税の納税猶予を受け、固定資産税も農地課税とすることも考えられます。乙さんが営農できなくなったときのことを考えると、相続税を一括で払い、その資金は一部土地の売却で賄うことを考える必要があるでしょう。 - (2)営農する場合
乙さんの相続時について、他の土地で対策が可能であれば、生産緑地で相続税の納税猶予を受けます。対策が困難なときには生産緑地の一部を解除して対策を行い、場合によっては土地の一部売却も考慮します。