コラム vol.099
ケースで学ぶ「土地活用と税金」(3)
経費の範囲はどこまで?
公開日:2016/01/29
賃貸住宅経営では賃貸収入が生じる一方、各種「支出」が発生します。この支出が必要経費となるかならないかで、税額も異なってきます。
- 1.借入金利子
- 2.修繕費
- 3.減価償却費
- 4.租税公課
- 5.損害保険料
- 6.その他の経費(管理費、交通費、交際費など)
1.借入金利子
賃貸住宅を建てるために借入金を活用される方は多いと思われますが、この賃貸住宅を購入するための借入金の利子は必要経費となります。なお、以下の資産に関する借入金の利子が対象となります。
- (1)建物の本体
- (2)土地
- (3)建物附属設備(空調設備や給排水設備)
- (4)構築物(賃貸住宅周辺の外構、擁壁、アスファルト・コンクリート舗装など)
- (5)その他建築に関連する資産(水道負担金や借地権代など)
はじめて賃貸住宅経営をする方の場合、建設中など不動産の賃貸を始める前に支払った利子は必要経費にはならず、不動産の取得価額に含まれてしまいます。(賃貸開始後の利子は必要経費に含まれます。)
また、不動産所得が赤字の場合は、赤字のうち(2)の土地を取得するために要した借入金利子部分は必要経費には算入できませんので、注意が必要です。
中古賃貸住宅の取得など、土地と建物を一体として購入し、土地分の利子の金額が判明しない場合には、以下の算式で土地に関する利子の額を計算してください。
【土地等を取得するために要した負債の利子の額】
その年分の建物等と土地等を取得するために要した負債利子の額 | × | 土地等を取得するために要した負債の額 |
建物等と土地等を取得するために要した負債の額の合計額(当初借入金額) |
ケース1 土地の借入金利子
Aさんは賃貸住宅1棟を8000万円(うち土地分は3000万円)で購入し、銀行から7000万円の借入を行いました。
今年度中に支払った利息は100万円でした。また今年度の不動産所得は、▲100万円でした。
この場合、
土地の借入金利子=100万円×3000万円÷8000万円=37万5000円
となります。
Aさんの不動産所得はマイナスなので、この土地の借入金利子は必要経費に入りません。
(注)土地と建物の内訳が不明な場合には、不動産会社にご相談ください。なお、土地等を取得するために要した借入金の額は、分母(当初借入総額)から建物等を取得するために要した負債の額を減額して計算すると有利な場合があります。
2.修繕費
賃貸住宅の通常の維持管理や修理に関する支出は、修繕費として必要経費にすることが可能です。
しかし、一般に修繕費といわれるものでも資産の使用可能期間を延長させたり、資産の価額を増加させたりする部分の支出は「資本的支出」とされ、修繕費とは区別されます。資本的支出に計上されると資産として計上され、減価償却として複数年にわたり経費として計上されることとなります。
修繕費の主な例
- (1)建物の破損部分の取替や修理
- (2)壁紙や障子、ふすまの張替え、割れたガラスや瓦の取替え
- (3)痛んだ外壁や屋根を元の状態に戻す際の塗装
- (4)おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理、改良
- (5)一つの修理、改良などの金額が20万円未満のとき
- (6)一つの修理、改良などの金額のうちに資本的支出か修繕費か明らかでない金額がある場合で、その金額が60万円未満のとき又はその資産の前年末の取得価額のおおむね10%相当額以下であるとき
資本的支出とされる例
- (1)建物の空調設備やエレベーター、避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額
- (2)用途変更のための模様替えなど、改造又は改装に直接要した金額
- (3)機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合で、その取替えの金額のうち通常の取替えの金額を超える部分の金額
ケース2 修繕費か資本的支出か
先ほどのAさんが、保有する賃貸住宅の価値を高めるべく、以下の工事を行いました。
- (1)ひび割れている玄関部分を修繕した(100万円)
- (2)全室のトイレを温水洗浄便座に変更した(1部屋あたり10万円。全部屋で70万円)
- (3)台風により傷んだ外壁を塗り替えた(100万円)
- (4)賃貸住宅に掲示板(15万円)を設置した
- (5)屋根のうえに太陽光発電装置を設置した(300万円)
- (6)従来のインターホンが古くなったため、特別発注のオートロックシステム(200万円)に取り替えた。通常のオートロックは100万円程度で導入できる。
- (7)一部の部屋を住居から事務所用に変更した(200万円)
- (8)モルタルの外壁をタイル張りにした(300万円)
修繕費か資本的支出のいずれかになるかは、以下のとおりとなります。
(1)ひび割れている玄関部分を修繕した(100万円)
「建物の破損部分の取替や修理」に該当し、修繕費となります。
(2)全室のトイレを温水洗浄便座に変更した(1部屋あたり10万円。全部屋で70万円)
「一つの修理、改良などの金額が20万円未満のとき」に該当し、修繕費となります。
(3)台風により傷んだ外壁を塗り替えた(100万円)
「痛んだ外壁や屋根を元の状態に戻す際の塗装 」となり、修繕費となります。
(4)賃貸住宅に掲示板(15万円)を設置した
「一つの修理、改良などの金額が20万円未満のとき」に該当し、修繕費となります。
(5)屋根のうえに太陽光発電装置を設置した(300万円)
「建物の空調設備やエレベーター、避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額」となり、資本的支出となります。
(6)従来のインターホンが古くなったため、特別発注のオートロックシステム(200万円)に取り替えた
「建物の空調設備やエレベーター、避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額」に該当し、資本的支出となります。
(7)一部の部屋を住居から事務所用に変更した(200万円)
「用途変更のための模様替えなど、改造又は改装に直接要した金額」となり、資本的支出となります。
(8)モルタルの外壁をタイル張りにした(300万円)
「資産の使用可能期間を延長させる支出」として、資本的支出となります。
上記ケースで見てきましたとおり、必要経費を多くし、税金額を減らすためには、以下がポイントとなります。
- ・使用可能期間を延長しない修繕であること
- ・資産の価値を増加させない(通常の維持管理の範囲の)修繕であること
- ・新たな資産の取得(物理的な付加)でないこと
- ・用途の変更でないこと
しかし修繕費に該当するか資本的支出に該当するかは判断に難しい場合がありますので、最寄の税理士にご相談ください。