CRE戦略
2025.9.30
2027年4月1日以降開始する事業年度から、新リース会計基準が適用されます。新基準では、原則として借り手のリース取引のすべてを貸借対照表(B/S)に計上することが求められるため、企業の財務諸表に大きな影響を与えると言われています。
特に多店舗展開を行う小売業や物流業、サブリース業を行う不動産業などにおいては、不動産賃貸借契約もリース取引として判断されることになりますので、財務戦略に大きな影響を及ぼします。貸し手にとっても借り手にとっても会計処理の変更がありますので、注意が必要です。つまり、企業の大切な資産であるCREをどのように戦略的に活用していくか、企業のCRE戦略にも影響を与えることが予測されます。
不動産を賃貸するいわゆる借り手にとっては、新リース会計基準が導入されると、財務諸表上の見え方が大きく変わります。中でも、ROA(総資産利益率)とEBITDA(税引前当期純利益+特別損益+支払利息+減価償却費)への影響が大きいといわれています。
多くの不動産を賃貸借契約(リース契約)している企業では、今回の新リース会計基準によって、総資産が増加しますので、ROAが低下する可能性があります。キャッシュフローには影響ありませんが、ROAが低下すると、資産効率が低い企業とみなされてしまうことがあり、投資家や金融機関からの評価に影響が出てくるかもしれません。現状のCRE戦略を再確認した上で、株主やステークホルダーへの説明が必要になるでしょう。
新リース会計基準は、損益計算書(P/L)にも影響を与えます。賃貸借契約を行っていた場合でも、減価償却費と利息費用として計上することになりますので、費用が増加したり、時期によって変動したりする可能性があります。ケースによっては、EBITDAが改善、つまり、収益力が向上したように見える場合もあります。
CRE戦略とは、企業不動産を「企業価値向上」の観点から経営戦略の一環として見直し、不動産投資、不動産活用の効率性を最大限にしようとする戦略です。本来、CRE戦略は、財務上の問題だけではなく、企業の保有する不動産を活用して、いかに会社としての経営状態を向上させるかということになりますので、財務諸表の見え方に注力するあまり、事業の将来へマイナスに作用するようでは、本末転倒になってしまいます。あくまで事業への貢献を踏まえながら、新リース会計基準の導入を実施する必要があります。
企業にとっては、今回のリース会計基準の改正を、CRE戦略を見直す好機と捉えることもできるでしょう。財務諸表には大きな変化があるかもしれませんが、業務プロセスや不動産戦略を再構築する好機でもあります。CRE戦略の実行体制を整備することで、新リース会計基準に従って、CREを適切に管理し、競争力の強化につなげていく必要があります。
不動産を保有し、本社や工場などとして活用している企業においては、保有しておくにせよ、売却し賃貸に切り替えるにせよ、財務的な変化はそれほど大きくありませんが、これまでのCRE戦略を見直す機会だといえるかもしれません。
一時は、財務面の評価を考え、不動産のオフバランス化が良いとされることもありましたが、新基準ではリース負債と使用権資産がオンバランス化されるため、賃借と購入の貸借対照表(B/S)上、損益計算書(P/L)上の差異は小さくなります。
このため、拠点戦略や、工場、物流施設の選定時には、むしろ、財務戦略上のことよりも、不動産の所有リスクを含めた、事業上の効果を重点においた選択が必要となるかもしれません。
さらに、高額な資産を長期で利用する場合は、賃借による負債計上を避けるため、購入を選択する動きも増加すると考えられますので、条件の良い不動産を保有する企業は、好条件で売買が行える可能性もあるでしょう。
気をつけたいのは、セールアンドリースバックです。企業が保有する不動産を売却し、売却先と賃貸借契約を結ぶことで資金調達を行う手法で、キャッシュフローを改善し、新たな再投資のためには有効な手法ですが、今後は、この取引もオンバランス化されるため、財務指標の改善効果を狙った施策としては、限定的となるでしょう。
遊休不動産や未利活用地を貸し、不動産賃貸収益を得ている企業においても、会計処理の変更点はあります。会計の変更により、契約内容の見直しや戦略変更の可能性も出てくるかもしれませんので、会計士などの専門家に相談しながら進める必要があるでしょう。
リース事業を展開する企業などは、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースで会計処理の方法が異なり、リース期間の問題などがありますので、注意が必要です。
基本的にビジネスの収益を生み出す仕組みやキャッシュフローに変化はありませんが、財務諸表が大きく変わることで、企業評価に影響を与える可能性があります。よって、投資家や株主、ステークホルダーに対して、財務戦略や資本戦略の将来へ向けた説明と説得力が必要となってきます。
そのためには、不採算のリース契約や過剰なスペースの削減などによる財務上の対策は当然のこと、不動産を単なるコスト要素ではなく、経営を支える重要な資産として位置付け、収益向上につなげるような戦略的な資産活用計画を打ち出すことが必要となってきます。
特に多店舗展開する小売業では、店舗規模や立地条件を見直し、購入か賃借の選択を戦略的に行うことが求められるでしょう。
多くの事業所や店舗などを賃貸借契約でビジネスを行っている企業は財務諸表上の問題解決のために、拠点戦略の練り直しや拠点の統廃合など、不動産市場が動くことが考えられるため、不動産投資の機会は増加しそうです。
また、今回の新リース会計基準によって、リースではなくサービス契約として扱われる、短期利用や必要なときだけスペースを確保するシェアリングサービスへのニーズが高まる可能性があります。サービス契約とは、「サービスを提供してもらうこと」を約束し、物の所有権は提供者に残り、利用者はサービスの機能や成果物に対して対価を支払う契約のため、原則としてリース契約にはなりません。たとえば、従業員の居住地近くのリモートワークスペース、会議室などに利用されるシェアオフィス、未使用の物流倉庫や空きスペースを他社と共有する倉庫シェアリングなど、サービス契約としてのビジネスが活発化する可能性もあります。
すでに、駐車場やオフィス、店舗や宿泊施設など、さまざまな物件が活用されており、不動産投資という視点からも、不動産とDXを結び付けたさまざまなシェアリングサービスへの投資も検討の余地がありそうです。
新リース会計基準が対象となる企業は、「上場企業など金融商品取引法の適用を受ける会社とその子会社・関連会社」「大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社)」「監査等委員会設置会社」などとなっており、それ以外の会社、いわゆる中小企業では従来通りの会計処理を継続できます。そのため、中小企業においては、新リース会計基準の影響はほとんどありませんが、大手企業ではちゅうちょするようなビジネスの機会が出現する可能性もありますので、注視しておきたいところです。
これまでも、日本におけるCRE戦略の遅れが指摘され、企業内でのCRE専門部門の設置を求める声もありましたが、今回の新リース会計基準によって、その声はより大きくなるでしょう。
財務部門と経営企画部門を一体化した、不動産関連業務を統括する専門部門を設置し、リース契約や不動産資産に関する情報を一元管理していく必要があります。不動産ポートフォリオの情報をデジタル化し、一元管理するITシステムも不可欠でしょう。
新リース会計基準が導入されても、不動産の価値が変わることはありません。むしろ、大切な資産として扱われるという本来の定義に近づいたともいえるでしょう。短期的な基準対応にとどまらず、長期的な視点での企業のCRE戦略を再考するきっかけとなりそうです。
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