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コラム
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同居、近居? 親子で考える、
介護や老後を見据えた住まい選び
親の介護やご自身の老後を考えて同居や近居を判断する方も多いでしょう。一度暮らしたことのある地域に住むのは、暮らしたことのない地域に住む場合と比べると、安心度がまるで異なるはずです。また、親の介護やご自身の老後を見据えて移住するケースもあるでしょう。その場合、住む家やエリアの選び方のほか、居住環境から得られる精神的な安定も重要視すべきでしょう。
このコラムでは、親の介護やご自身の老後を見据えた「10年先を考えた住まい」について考えてみましょう。
実家があるエリアは、高齢者にとって暮らしやすい?
実家があるエリアは、果たして高齢者にとって暮らしやすい場所でしょうか。確かに、その土地をよく知っていることによる暮らしやすさはありますが、それだけでは解決できない利便性の問題があります。
特に、自動車に頼る地域の場合、「自動車の運転ができなくなった後」の暮らしをイメージすることが重要です。「家を出て動く範囲」についてイメージするとよいでしょう。現在、買い物や通院などで日常的に自動車を利用している場合には、代わりに電車、バスなどの公共交通機関やタクシーなどの利用が想定できますが、駅またはバス停、タクシー乗り場へのアクセスのしやすさなども含め、今以上に発生する手間やコストについて考えてみましょう。
高齢者にとって暮らしにくいエリア・住まいとは?
では、実際に高齢者にとって暮らしにくいエリアや住まいとはどういうものなのか見ていきましょう。
利便性の低いエリアは高齢者にとって暮らしにくい
次のようなエリアは、利便性が低く、高齢者にとっては暮らしにくいものです。
■移動や買い物などの交通の利便性が低い
高齢者が暮らしやすいエリアを考える上で、移動や買い物の利便性は重視すべき項目の一つです。バスや電車、タクシーなどの公共交通機関が充実していれば、日々の買い物や通院にも便利でしょう。今は自動車で移動しているという場合も、将来的に運転が難しくなることを考慮すると、公共交通機関の利用と徒歩で生活できる街を選ぶことが暮らしやすいのではないでしょうか。さらに、ある程度人口が多く、中心地に近い街は、鉄道や路線バスといった公共交通機関の利便性も高く、医療施設も充実しているケースが多いため、暮らしやすいでしょう。
■医療機関が遠い、福祉サービスが充実していない
高齢になると、けがや疾患のリスクが若い時よりも高くなります。体調を崩した時やけがをした時などにすぐ受診できる診療所や大きな病気やけがに備えるための大学病院や総合病院などが近くにあるかどうか確認しておきましょう。
また、加齢により体に不調が出てきた場合に備え、デイサービスセンターや介護支援事業所などが近くにあるかどうかもチェックしておくことをおすすめします。
それから、医療や福祉サービスは、地方自治体によって制度に違いがあります。手厚い支援を受けられる街を探すことも大切です。
■生活コストがかかる
多くの方は、国から支給される年金で生活を営むことになります。住居費や食費といった毎月発生する生活コストの負担が少ない街を選ぶのも重要なポイントでしょう。一般的に都市部よりも郊外のほうが生活コストは安くなる傾向にあります。また、固定資産税や都市計画税なども不動産価格に応じて決まるため安くなる可能性があります。
ただし、地方に移住した場合、増加するコストもありますので注意が必要です。例えば、地方では都心ほど公共交通機関が十分ではないため、自動車を使うことが多くなるでしょう。移動のためにはガソリン代や車両維持費などがかかります。また、寒冷地では冬の寒さや雪の対策のため、暖房設備費、光熱費、灯油などの費用についても、負担が大きくなるでしょう。
■暮らしにくい気候や地形
冬は寒く雪深い地域などは雪かきなどの重労働が発生するだけでなく、外出する機会が減ることから運動不足になったり、家の外は足元が悪く滑りやすかったりと、高齢者にとって暮らしにくく、病気やけがにもつながります。また、特に寒い地域に住む場合は「家の断熱性」が大切で、断熱がしっかりしている家は住まい手の健康に良い影響を与えることが分かっており、住む家選びには注意が必要です。
それから、徒歩での移動を考えると、坂道や階段、信号のない道路が多いよりは、平たんかつ信号や横断歩道が多く歩行者にやさしい街のほうが住みやすいと言えます。さらに、近年では台風や大雨による水害も各地で多発しています。そうした自然災害リスクについても確認しておくことがおすすめです。
なお、道路や公共の施設、店舗など、バリアフリーに対応しているか確認しましょう。バリアフリーに対応していれば、高齢になっても日常生活を送りやすいと思われます。また、防犯性を考え、防犯カメラや街路灯の設置状況を確認したり、適度に人通りがある街を選ぶのもよいでしょう。
利便性が低く、防犯性が気になるエリアに実家がある場合は、ある程度都市機能のある地域での物件探しも考えてみましょう。完全に知らない場所に移住するよりもスムーズになじむことがきるはずです。
介護に不向きな家は、高齢者も介護者も暮らしにくい
家の中に段差が多い、トイレやお風呂が介護者の寝室から遠い、必要な場所に手すりがない、狭い廊下で車椅子が通らないなど、介護に不向きな構造になっている住宅は、介護する側もされる側もストレスがたまり、気持ちよく生活することが難しくなります。段差が多いとあまり歩かなくなるなど、家の中でのリハビリがしにくくなることで症状が進み、体にとっても悪い影響を及ぼす可能性があります。その場合、次のような解決が可能か検討しましょう。
■建物の問題だけであればリフォームで対応する
手すりをつける、段差をなくす、トイレの位置を変えるといった建物の問題については、リフォームで対応することができます。介護に適した設備を用意するケースなどを含め、行政の補助制度を最大限利用し、介護生活に適した環境づくりを目指しましょう。
■エリアが適さない場合は住み替えの検討をする
病院が遠い、介護施設が遠い、あるいは介護サービスの範囲外になってしまうエリアに住宅がある場合には、住み替えも検討しましょう。
重要なのは、「住み替えにかかる費用」だけで住み替えの要・不要を判断してしまわないことです。「今の住宅のまま介護を行う場合、交通費やサービス出張費などはどの程度かかるのか」といった試算のほかに、「介護する人が提供しなければならない時間」についても考える必要があります。住み替えには費用がかかりますが、その分節約できる費用も発生することを忘れないようにしましょう。何より、介護する人の手間は大きく減ります。
後ほど詳しくご説明しますが、「実家を手放す」あるいは「賃貸に出す」といった方法で、新たな資金をつくることも可能です。
住み替えをする場合の注意点
移住に伴い家の住み替えをする場合、住みやすい住宅、住みやすいエリア探しはもちろんですが、それ以外にも課題があります。
親を説得するときに押さえておくべきこと
移住を考えるにあたり、まず重要なのが親との話し合いであり、移住のための説得です。実家はそこに住んでいた誰にとっても思い出深く、なかなか売却には踏み出せないことが多いかもしれません。特に本人たちが建てた家の場合、思い入れも深く「手放したくない」といった気持ちも出てくるでしょう。感情的にも無理がないよう、できれば時間をかけて丁寧に話を進めていくことが重要です。
■移住の必要性を理解してもらう
親にはまず、意思確認を行いましょう。親が移住を拒む場合には「移住の必要性を理解してもらうこと」が重要です。移住の目的を伝え、より暮らしやすい未来のためにどんな準備があるのかを伝えるようにしましょう。時間をかけて話し合いましょう。
■親の人間関係を配慮する
特に高齢者の場合、何十年も続く人間関係があることも忘れてはなりません。移住による人間関係の変化から精神的健康を損なうこともあるため、注意が必要です。移住先が近所か、あるいは遠方かによっても抱く印象は異なりますので、慎重に注意深く話をするようにしましょう。
過去の住まいを活用するかどうか検討すること
新たな家に住むことになった場合、実家やそれまでの持ち家はどうすればよいのでしょうか。家は「資産」です。次のような方法を検討し、資金づくりに役立てましょう。
■家を売却する
家を売却することで、現金化することができます。売却によりまとまった額の資金ができれば、移住資金の足しにもなるでしょう。なお、住宅ローンが残っていても住宅(戸建て・マンション)を売りに出すことは可能です。ただし、住宅ローン残債以上で売ることができなければ、自己資金を投入しないと決済ができませんので、注意が必要です。
また、資産としてどれほどの価値があるのか、一度不動産のプロに算出してもらい、客観的な判断を得るのも一つの方法です。第三者を挟むことで、家族・親族内で話すよりも冷静に話せる可能性があります。
■家を賃貸に出す
家を賃貸に出すことで、賃貸収入を得ることができます。賃貸の場合は売却ほどまとまった資金は得られませんが、一定期間、継続的に家賃収入を得ることが可能です。住宅ローンが残っている場合には、住宅ローンを組んでいる金融機関に相談しましょう。介護などを目的とした移住であれば、賃貸が認められる可能性があります。
例えば、「将来的には売却したいが、まずは賃貸にする」といった方法もあります。賃貸であれば完全に手放すのとは異なりますし、そのような妥協点も出てくるはずです。どのように考えれば住宅をより価値のある資産にできるのか、じっくり考えてみてください。
建物自体が古ければ、更地にして別の方法で活用も可能です。不動産業者に相談してみるとよいでしょう。
■「空き家」として維持するのはできるだけ避けること
避けておきたいのが「空き家」で維持することです。空き家にすることで家の傷みは進み、資産価値は下がってしまいます。管理を他人または業者に任せればその費用がかかりますし、住む人がいない場合も固定資産税の支払いが発生します。家の規模や状態によりますが、実際に介護が始まってからご自身で空き家管理をするのは難しいものです。また、親が所有している住宅である場合、相続等の問題が発生する可能性もあります。できるだけ大きな負担が発生しないよう、早めの対策を講じるようにしましょう。
同居と近居、どちらがベストか検討すること
住み替えを検討する場合、もうひとつ考えなければならない大きなポイントとして、同居か近居か、というものがあります。ご自身が実家に住むか実家の近くに住むかを選ぶことになります。また、親を自分が住むエリアに呼び寄せる場合には、親を自宅に住まわせるか、自宅の近くに親の住まいを準備するかを選ぶことになります。これは一概には答えが出ないことであり、さまざまな要因から考えていく必要があります。
なお、一昔前、介護は家庭内で行うことが当然とされてきましたが、現代においては介護が改めて負担の大きなものであることが認識され、個人や家族内で解決すべき問題ではないという考え方も少しずつ定着しています。高齢者人口の増加に伴い、介護サービス、高齢者向けサービスも増えていくでしょう。「介護前提であれば同居が当然」と考える必要はないのです。介護を要する方の状態にもよりますが、あくまでも将来の介護に備えての移住であるのなら、別の住まいを持って近居とすることも検討してみましょう。
同居と近居、どちらがベストか検討するときは、次のような問題について考えましょう。
■資金的な問題
親世帯と子世帯が同居する場合は「住まいを一つにまとめる」ことになり、別々に住むより費用面では大きな節約となります。同居なら高齢になった親世帯に目が行き届きやすいというメリットがありますが、お互いに気を使うというデメリットもあります。もし費用の折り合いがつくなら、近い場所に住まいを構えた「近居」であっても問題はありません。また、実家の家の面積が広すぎる・部屋数が多すぎる場合には、今後のことを見据えてコンパクトな住まいへ住み替えたほうが、日々の掃除がラクになるだけでなく、光熱水費やメンテナンス費などの維持費、税金もかからなくなります。
■スペースの問題
生活スタイルが違う2世帯が同居を始める場合、それぞれがストレスをためないためにも家族それぞれに個人的なスペースを確保できるかどうか考え、スペースが不足する場合には同居は避けたほうが良いかもしれません。介護が必要になった時、より広いスペースが必要になる可能性もあります。
■家事負担の問題
同居する場合、同居する若い家族に家事の負担が集中する可能性もあります。これは家族内での不和を生むことにもつながり、暮らしやすさを維持することができません。家事の分担をどうするか話し合い、ルールをつくることで解決できるかどうかがポイントです。
家族に合わせたエリア探しと住まいの選択を
一級建築士・インテリアプランナー 井上恵子さん
「安心・安全・快適な住まい」をテーマに、webサイトや新聞での記事執筆、マンション購入セミナーの講師として活躍中。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所(http://atelier-sumai.jp/)
※掲載の情報は2021年9月現在のものです。内容は変わる場合がございますので、ご了承ください。
写真:Getty Images