CREコラム
今さら聞けない「不動産証券化」(16)信用補完について
公開日:2018/07/31
不動産証券化は、企業にとって有効な資金調達手段の一つですが、投資してくれる人がいなければ成り立たないビジネス。ひとり(1社)でも多くの投資家を呼び込むためには、魅力ある投資環境を整備することが求められます。
信用力を高めて投資を促進させるのが狙い
金融商品の中でも商品内容が複雑な証券化商品を購入する人たちの大半は、投資における基本的な知識を身に付けていると思われます。しかし、リスクとリターンの相関関係を理解している人でも、投資する対象がより安全でより有利な条件ならば購入する意欲は当然高まります。商品の信用力が高ければ投資する人は増えるでしょう。そこで不動産の証券化では、信用力を向上させる(補完する)仕組みを備えるようになりました。
信用補完は内部と外部に分かれる
投資家は、投資に見合う配当を受け取りますが、それにはリスクが伴います。より多くの投資家に投資してもらうためには、そのリスクをいかに抑えるかが重要になります。
以前のコラム「倒産隔離と真正売買」で、「証券化ではオリジネータ(原債権者)とSPCに破たんリスクがある」ことをお話ししました。そして、「不動産証券化における倒産隔離は、譲渡された不動産や証券化のスキーム(仕組み)を破たんリスクから守ること」も指摘しました。
証券化では、資金調達するために保有する不動産をSPCに譲渡するオリジネータと、証券化の主体者であるSPCに資金回収(支払い)リスクが存在しており、信用力を高めるには、この部分を補強する必要があります。また、証券化の構造に工夫を加えて信用力を補う方法があります。
証券化された債権が債務者(オリジネータまたはSPC)の破産の申し立てなどで回収困難となる事態が発生するケ-スを予め想定し、弁償する際に不足する額を補う措置のことを信用補完措置と呼んでいます。信用力の補完には、内部信用補完と外部信用補完があります。
図1:不動産証券化における信用補完措置
証券化の仕組み自体を補完する「優先/劣後構造」
証券化商品において、調達した資金の返済に優先権を付けて信用力を高める仕組みが、優先/劣後構造です。証券化の資金調達における返済順位は「デット」「メザニン」「エクイティ」の3層構造になっています。デットは負債、エクイティは資本の意味です。負債は銀行融資などで返済の義務がありますが、エクイティは資本金への出資という投資ですから、返済義務はありません。メザニンは返済義務のあるデットの一部です。
返済の優先順位はデット→メザニン→エクイティの順になり、この順位で返済の優先権が決まっています。つまり、返済順位が優先される部分は、優先されない(劣後する)部分に比べて信用力が高いという構造を作り出すことで、証券化商品の信用力を補っているというわけです。
「劣後」というと、劣っている、または損をするように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。不動産という資産が生み出す収益の受け取り順位に差をつけたもので、商品設計上の仕組みです。一般に、優先する部分はローリスク・ローリターン、劣後する部分はハイリスク・ハイリターンとなります。
セラーリザーブとキャッシュリザーブ
オリジネータ(原債権者)がSPCに不動産を譲渡する際、SPCが発行する証券化商品の発行額を超えた価格の不動産を譲渡して、その差額をオリジネータの持分とする仕組みをセラーリザーブといます。セラー(売り主)はこの場合、オリジネータを指します。リザーブとは、SPCが投資家に対して証券化商品の配当などを支払う場合にキャッシュが不足することのないよう積み立てること。
オリジネータが負担する積み立ての比率は、会計上5%以下に定められています。これは、5%以上をオリジネータが持分として保有していると、「譲渡した」ことにならないからと思われます。証券化商品を発行するSPCが現金不足に陥った場合にオリジネータが負担することで、商品の信用力を補完します。見方を変えると、SPCはオリジネータから譲り受けた不動産の価格の5%未満を残して証券を発行すると理解すれば、分かりやすいのではないでしょうか。
セラーリザーブの仕組み
図2:セラーリザーブの仕組み
セラーリザーブがオリジネータの信用補完であるのに対し、キャッシュリザーブはSPCによる信用補完です。証券化の対象である不動産やビルなどが生み出す収益から、投資家に支払う元利金などを差し引いた余剰金を積み立てておくことです。現金準備ともいいます。テナントビルなどの修繕積立金や地震損害積立金などがあります。
外部信用補完は損害保険などが該当する
外部信用補完は2種類あります。キャッシュコラテラルの「コラテラル」は、証券取引における証拠金のこと。これはオリジネータの負担になります。SPCが資金不足に陥って投資家への返済などが滞ることがないよう、不動産資産を譲渡する前に現金を積み立てておきます。具体的には証券化の組成において銀行と融資契約を結ぶことでキャッシュフローの不安を解消しておくということになります。
もう一つは、損害保険や高い信用力のある第三者の保証。これは説明の必要はないでしょう。損保は金融庁から認可を受けた金融機関。高い信用力を誇る金融機関の保証に問題はありません。
信用補完は投資家の投資意欲を促すために開発されてきましたが、多様な金融商品を生むツールにもなりました。例えば、優先劣後構造は、証券化商品だけではなく、優先株や劣後ローン、劣後社債などさまざまな資金調達の手段にも組み込まれています。配当の支払いが優先(あるいは劣後=後回し)される代わりに、リスクの程度や株主の議決権がないなどといった特性を有しています。信用補完措置は、商品の骨格は同じでも信用力補完の観点から商品にバラエティを付けます。投資家のニーズに応える重要な「トッピング」になっているのです。
今さら聞けない「不動産証券化」
- (1) 証券化は、こうして始まった
- (2) ABSは証券化の代表選手
- (3) 不動産証券化のメリットとデメリット
- (4) Jリートとはなにか?
- (5) 広がる証券化ビジネス
- (6) なぜ不動産証券化が登場したのか
- (7) 不動産証券化の歴史(1)
- (8) 不動産証券化の歴史(2)
- (9) 不動産証券化の歴史(3)
- (10)資金調達、運用、そして新しいビジネス
- (11)3つのタイプの不動産証券化
- (12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
- (13)不動産証券化における資金調達
- (14)倒産隔離と真正売買
- (15)二重課税の回避
- (16)信用補完について
- (17)ノンリコースローンについて
- (18)デュー・デリジェンス
- (19)格付けについて
- (20)利益相反について
- (21)出口戦略について
- (22)セール・アンド・リースバックについて
- (23)不動産鑑定評価について
- (24)不動産証券化に「信託」が利用される理由