メニュー
Sustainable Journeyは、
2024年3月にリニューアルしました。
連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目
2026.4.28
2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)は、昨年で10年という節目を迎えました。
2030年の目標期限まで残り5年を切る中、欧州の進捗を分析した最新の「Europe Sustainable Development Report 2026」が2月に公表されました。欧州はこれまでSDGs達成度の国際ランキングで上位に位置してきましたが、今回のレポートが示しているのは必ずしも楽観的な状況ではありません。むしろ、“進捗の鈍化と課題の固定化”という現実が浮き彫りになったといえるでしょう。
今回のレポートが注目されるのは、SDGs採択から10年が経ち、2030年まで残り5年を切ったタイミングで公表されたためです。これまでの取り組みの成果と限界の両方が見え始める時期でもあり、本レポートは、SDGsの「これまで」を振り返ると同時に「残りの時間で何が必要か」を問い直す意味合いも持っています。
実際、10年経った今の状況や評価はどうなっているのでしょうか。オランダ在住編集者である岡徳之さんが、現地で起こっていることも照らし合わせながら、本レポートからSDGsの現在地を読み解いていきます。
このレポートは、欧州におけるSDGsの達成状況を体系的に分析したものです。対象は欧州41カ国。貧困、教育、健康、エネルギー、気候変動、生物多様性など幅広い分野の約115の指標を用いて評価が行われています。
各国の状況は0〜100点のスコアとしてまとめられ、100点がSDGsの完全達成を意味します。つまりこのランキングは単なる順位表ではなく、各国が2030年の目標にどれだけ近づいているかを示す“距離の指標”でもあります。スコアの差は数ポイントであっても、その背景には教育政策やエネルギー政策、社会保障制度など多くの政策の積み重ねが存在しています。
SDG Index 2026では、ランキング上位に北欧諸国が並びます。
欧州全体の平均スコアは約72点です。これは世界平均より高い水準にありますが、それでもSDGsの17の目標すべてを達成している国はまだ存在しません。
トップの国でも80点前後にとどまっており、SDGsの完全達成にはなお距離があることが分かります。レポートが強調しているのは、欧州のSDGs進捗がここ数年で明確に鈍化しているという点です。
首位フィンランドの首都、ヘルシンキ
象徴的な分野が気候変動(SDG13)です。欧州は温室効果ガス排出削減では世界でも先行しており、EU全体では1990年比で約32%の排出削減を達成しています。しかしEUの2030年目標は55%削減であり、残りの期間でさらに大きな削減が必要になります。
こうした中で欧州では、排出削減を現実の社会のルールとして組み込む動きも進んでいます。
例えばオランダでは2025年から都市中心部に「ゼロエミッション区域」が導入され、ガソリン車やディーゼル車の配送トラックは原則として進入できず、電気自動車や水素車のみが利用可能になります。さらにエネルギー政策では、2030年までに石炭火力発電を完全廃止することを法律で決定しており、企業への補償も基本的には行わないという強い方針が取られています。
「ゼロエミッション区域」の標識(出典:オランダ商工会議所)
実際にオランダで生活していると、こうした制度が日常に入り込んできていることを実感します。私自身も日常的に車を使っていますが、自宅の近くにはすでにゼロエミッション区域が設定されており、ディーゼル車で来る知人が訪問する際には、どのルートなら規制を避けて到着できるかを事前に調べる必要がありました。単なる環境政策というより、移動の仕方そのものがルールによって変わり始めている感覚があります。
排出削減は目標ではなく、生活や都市の構造を変える現実のルールとして実装され始めているのです。
生物多様性(SDG14・15)の分野でも課題は大きいとされています。EUは2030年までに陸地と海の30%を保護区域にする目標を掲げています。現在その割合は約26%まで拡大していますが、生態系への圧力は依然として続いています。
農業や都市開発による土地利用の変化などが生態系に影響を与えており、レポートは保護区域の拡大だけでなく、生態系そのものを回復させる長期的な政策が必要だと指摘しています。
実際に欧州では、生物多様性の保全はより踏み込んだ政策として進められています。例えばオランダでは、窒素排出規制の強化により畜産業の縮小や農家の買収といった議論が現実の政策として進んでいます。
©Smederevac
またEU全体では、劣化した自然環境の回復を義務づける「自然再生法(Nature Restoration Law)」が進められており、湿地や河川などの再生が政策として推進されています。さらに各国ではダムの撤去によって魚の回遊ルートを回復するなど、「自然を元に戻す」ための取り組みも広がっています。
一方で、こうした変化は日常生活の中で強く実感されるものではないというのも正直なところです。気候変動のように移動やエネルギーの使い方が直接変わるわけではなく、制度や政策としては大きく動いている一方で、個人の生活実感とは距離がある分野ともいえます。
社会的不平等(SDG10)も欧州が直面する重要な課題です。EUでは相対的貧困や社会的排除のリスクにさらされている人の割合が約21%とされています。これはおよそ5人に1人に相当します。
欧州は社会保障制度が比較的充実している地域と見られていますが、所得格差や地域格差、移民の社会統合などの課題は依然として残っています。レポートは「誰も取り残さない」というSDGsの理念がまだ十分に実現されていないことを示しています。
©kieferpix
オランダで生活していても、強い格差を日常的に意識する場面はそれほど多くありません。ただ一方で、例えば住宅価格の上昇によって若年層が住居を確保しにくい状況が話題になるなど、社会の中にじわりとした歪みが存在していることは感じられます。また移民コミュニティとそれ以外の間で教育や雇用機会に差があるといった議論も見聞きします。
つまり、制度としては整っていても、それがすべての人に同じように機能しているとは限らないという状況があり、この点はレポートの指摘とも重なります。
こうした状況の中で、欧州ではサステナビリティへのアプローチも変化しています。背景にあるのは、SDGsを理念だけでは実現できないという認識です。企業や自治体が目標を掲げるだけでは、気候変動や不平等といった複雑な課題は十分に改善されないという経験が、この10年で蓄積されてきました。
そのため欧州では、サステナビリティを社会のルールとして組み込む動きが広がっています。
©Weedezign
その代表例が、企業のサステナビリティ情報開示制度です。EUでは企業に対して環境や人権への影響を詳細に報告することを求める制度が導入され、対象企業は欧州全体で約5万社に及ぶとされています。
企業は温室効果ガス排出や労働環境、サプライチェーンのリスクなどを具体的なデータとして開示する必要があります。つまりサステナビリティは企業の理念ではなく、経営情報として可視化されるテーマになりつつあります。
日本でも、2023年3月期から全上場企業を対象に有価証券報告書での「サステナビリティに関する考え方及び取組」記載が義務化され、特に人的資本や多様性、気候変動リスクの開示が必須となりました。
ただし欧州の制度は、日本と比べてより厳格で範囲も広いのが特徴です。例えばEUでは、温室効果ガス排出について自社だけでなくサプライチェーン全体の開示が求められるケースもあり、企業活動の影響をより広く捉える仕組みになっています。また開示内容には詳細な基準が設けられており、企業ごとの裁量に任せるのではなく、比較可能なデータとして統一することが重視されています。
この違いは、サステナビリティを「情報開示のテーマ」として扱うのか、それとも「市場のルール」として機能させるのかというスタンスの差ともいえます。
欧州では企業の環境アピールに対する規制も強化されています。欧州委員会の調査では、企業が行う環境主張の約53%に根拠の不足が見られたとされています。
そのため「環境に優しい」「持続可能」といった表現には科学的な裏付けが求められるようになり、根拠のない環境アピールは消費者を誤解させる行為として問題視されています。サステナビリティはマーケティングの言葉ではなく、客観的な事実として検証される領域へと変化しているのです。
こうした変化は、筆者がオランダで生活していても徐々に感じられるようになっています。ただ興味深いのは、日常生活の中でそれを「サステナビリティ」として強く意識する場面は意外と多くないことです。
例えばオランダでは自転車が交通の中心にあり、スーパーでは植物由来の食品が自然に並び、住宅ではエネルギー効率の話が日常的に語られています。しかしそれは特別な環境意識として語られるというより、社会の仕組みとして当たり前に組み込まれている印象があります。
SDGsの採択から10年。「Europe Sustainable Development Report 2026」が示しているのは、欧州が理想を掲げる段階から制度として実装する段階へと移行しつつあるという現実です。
進捗の鈍化や課題の固定化といった厳しい指摘もありますが、それは同時に、目標をより現実的な形で実行していこうとする試行錯誤の過程でもあります。
サステナビリティは理念として掲げられるだけでなく、社会の前提条件として静かに定着しつつある。
SDGsの次の10年は、その仕組みをどこまで現実の社会に組み込めるかを試す時間になるのかもしれません。
出典:United Nations Sustainable Development Goals
本記事の内容は国際連合によって承認されたものではなく、国際連合またはその職員、加盟国の見解を反映するものではありません。

Livit代表・編集者/ライター。オランダ・アムステルダム在住。シンガポールにも在住経験あり。海外のハブ都市を拠点に、ミレニアル世代やZ世代を中心とした次世代の価値観、また生成AIなどの先端テクノロジーの潮流に着目し、ウェブメディアを通じて日本の読者に向けて発信している。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

Sustainable Journeyは、
2024年3月にリニューアルしました。