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連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞く、サステナブルの「目」 世界が注目する「ブルーカーボン」「ブルーフード」。専門家が解説する「海のエコ」の可能性

連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞く、サステナブルの「目」

世界が注目する「ブルーカーボン」「ブルーフード」。専門家が解説する「海のエコ」の可能性

「サステナビリティが大事」なのは分かっていても、実際には、どこにどんな課題があって、私たちの生活にどう影響していくのか、正直、縁遠く感じてしまう方もいるでしょう。

そこで本連載では、実際に「サステナビリティ」の現場に向き合う当事者のリアルな声を、寄稿形式でお届けします。1人目は「海のサステナビリティ」に取り組むYahoo! JAPAN SDGs編集長・長谷川琢也さんです。

最近食べた魚、覚えてますか?

みなさんは、最近魚をいつ食べましたか?

お刺身でしたか?煮魚でしたか?

その魚の種類を覚えていますか?

この質問に答えられる人は、なかなかいません。「昔に比べて魚を食べなくなったかも…」とお思いの読者の方もいらっしゃるかもしれません。実は、昨今、海をめぐる環境は、大きな危機にさらされているんです。

ただの会社員が、ある日突然石巻へ

ちょっと唐突な書きぶりで始めてしまいました。はじめまして、長谷川琢也と申します。

もともとは海とは縁もゆかりもない、IT企業のヤフー(現在のLINEヤフー)に勤めていた普通の会社員でした。安定した会社員人生を歩んでいるさなか、2011年に東日本大震災が起きて、会社の被災地復興プロジェクトをきっかけに東北にわたり、そのまま宮城県石巻市に移住しました。

現在は石巻を拠点に、若手漁師による組織である「フィッシャーマン・ジャパン」を立ち上げて、多くの関係者とともに活動を広げている最中です。移住から12年、今でもLINEヤフーでYahoo! JAPAN SDGs編集長を務めるかたわら、石巻で海のことに携わっているという点で、「半漁半会社員」といえるかもしれません。

「フィッシャーマン・ジャパン」の目的は、石巻で漁業をサステナブルなものにすることです。日本の漁業は課題が山積みです。日本人が魚を食べなくなったことに加えて、漁師は20年で半減。それにとどめをさすように東日本大震災が起きて、東北の漁業は壊滅的な打撃を受けました。そんな漁業を「カッコよくて、稼げて、革新的」な"新3K"産業に変えるべく、日々奮闘中です。

注目が集まる「ブルーカーボン」とは

そこで冒頭の話に戻ります。日本人にとって身近だった魚ですが、漁獲高は1984年のピークから3分の1にまで落ち込んでいます。理由はさまざまですが、そのうちのひとつが海洋環境の変化です。

例えば、下の写真を見てください。海底が真っ白になっているのが分かると思います。これは「磯焼け」という現象で、別名「海の砂漠化」と言われています。本来この海底にはワカメなどの海藻が繁殖して、光合成を行い、プランクトンが発生し、小魚が集まり…と生態系を形成するはずでした。それが昨今の異常気象で生態系が破壊されてしまいました。

耳の痛い話ばかりですよね。でも、海には大きな可能性が眠っているんです。それが今回お話する「ブルーカーボン」です。

ブルーカーボンとは文字通り、「海の中の炭素」のことです。「グリーンカーボン」が森林や陸上の植物によって吸収・貯蔵される炭素であるのに対して、海藻やマングローブなどの海洋生態系に取り込まれる炭素を意味しています。海に溶け込んだCO2を吸収した海洋生物が、死後海底に沈殿し、炭素が固定化されます。固定化された炭素は微生物の分解により、数百年〜数千年かけてゆっくりと再び放出されていくサイクルが海中で構成されているんです。

1年間の地球上の炭素吸収量は、海域全体で29億トン、陸域全体で19億トンと言われており、陸上の植物に比べて、吸収量が多いのが特徴です。

また、注目すべきはその吸収率の高さです。海洋の生態系のCO2吸収率は約30%と言われており、陸の生態系のCO2吸収率の約12%と比べると大きな違いがあります。

「ブルーカーボン」は「温暖化対策」と「海の豊かさを取り戻すこと」の両方の課題に効果があることから注目を集めています。

手軽で環境への負荷が低い「ブルーフード」から始めよう

とはいえ、「海の環境にいいこと」を始めようと思ってもなかなかすぐに行動に移せませんよね。でも実は、一番簡単な方法があります。それが「海のものを食べること」なんです。魚でもいいですし、ワカメなどの海藻でも構いません。実は海産物は、環境負荷の低い「ブルーフード」と呼ばれているんです。

例えば、スーパーで牛肉の切り身とアジのお刺身があったとします。両方ともスーパーでよく見かける日常的な食材ですが、「環境負荷」という点に着目するとまったく違った背景が見えてきます。

牛を一頭育てるには大量の穀物が必要です。一般的に1kgの牛肉を生産するために、11kgの穀物が必要と言われています。それだけではありません。その牛を育てるためには淡水が必要です。その量はなんと牛肉1kgに約1万5500リットル。また牛が排出するゲップに含まれるメタンガスには温室効果があります。

一方の魚は天然のものであればエサは不要ですし、淡水も消費しません。環境負荷という点から考えると同じ動物性タンパク質でもまったく環境負荷が異なります。

もちろん、乱獲すれば生態系は壊れてしまいますから、適切に資源管理をする必要があります。日本も世界から大幅に遅れましたが、資源管理を目的に 2020年12月に70年ぶりに漁業法を改正しました。

MSC認証という青いエコラベルが貼ってあれば、「資源の持続可能性」「生態系への影響」「管理システム」の3つのポイントをクリアした水産物を意味します。フィッシャーマン・ジャパンでは2021年に仙台空港にサステナブルシーフードをテーマにした海鮮丼屋「ふぃっしゃーまん亭」を開きました。

今では大企業にもその動きは波及しています。イオンやセブン-イレブンのおにぎりにMSC認証エコラベルが貼ってあることがあるので、ぜひ見かけたら買ってみてください。意外なところでは、マクドナルドのフィレオフィッシュにも貼ってあるんですよ。

「環境のためにできること」と考えると途端に難しく感じますが、日常からできることはまだまだたくさんあります。

PROFILE

長谷川琢也Takuya Hasegawa

フィッシャーマン・ジャパン Co-Founder SeaSO/ヤフー Yahoo! JAPAN SDGs編集長。

1977年3月11日生まれ。 誕生日に東日本大震災が起こったことをきっかけに「ヤフー石巻復興ベース」を立ち上げ、石巻に移り住む。 漁業を「カッコよくて、稼げて、革新的」な新3K産業に変えるため、漁業集団フィッシャーマン・ジャパンを設立。「豊かな未来のきっかけを届ける」Yahoo! JAPAN SDGs編集長も務める。

大和ハウスグループは、2050年の温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すカーボンニュートラル戦略を進め、未来の子どもたちの"生きる"を支える持続可能な社会の実現に貢献します。

脱炭素への挑戦-カーボンニュートラル戦略-

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