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Sustainable Journeyは、
2024年3月にリニューアルしました。
連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目
2026.2.27
かつて、深夜のオフィスや休日の外出前に、私たちは強い刺激で一気に覚醒させてくれるエナジードリンクに頼ってきました。一缶の刺激と根性論を燃料に、睡眠不足と長時間労働を乗り切る文化が当たり前だった時代です。
ですが、いま、その前提が揺らぎつつあります。必要なのは刺激ではなく、心身を擦り減らさずに「明日も続けられる」コンディションをつくるエネルギーなのかもしれません。この価値観の変化は若い世代を中心に広がり、世界的な潮流になりつつあります。
その象徴的な存在が、「TENZING Natural Energy」です。同社の手掛けるエナジードリンクの原材料は100%植物由来で、人工甘味料は不使用。緑茶やグリーンコーヒー(焙煎していない生のコーヒー豆)の自然なカフェインなどが配合されています。
同社創業者のハイブ・ファン・ボッケルさんは、かつてレッドブル欧州のマーケティング責任者を務めていました。ハイブさんは、自身の気づきから、サステナブルなエナジードリンクの文化を提示しようとしています。
本記事では、オランダ在住編集者である岡徳之さんが、彼の経験を通して、いま世界で起きている価値観の転換をひも解いていきます。
エナジードリンクが一般化したのは、1990年代のことでした。インターネットの普及、24時間稼働の経済、SNSによる常時接続の時代背景の中で、人々は次第に"休まないパフォーマンス"を求められるようになりました。
長時間労働や睡眠不足を乗り切る手段として、即効性のある人工的な刺激が歓迎され、エナジードリンクは"無理を押し通すツール"として広まりました。当時の社会では「限界を超える」「あとひと頑張り」といった価値観が美徳とされ、エナジードリンクはその象徴でした。
©SolStock
しかし、一時的な覚醒の裏には、集中力や気分が急降下する"クラッシュ現象"のような身体への負荷など"代償"がつきものです。急激にテンションを引き上げる反面、日々の生活や長期的なルーティンと両立しにくいものとして受け止められるようになっていきました。
近年、働き方やウェルビーイングに対する価値観が変わり始め、極端な頑張りを前提とした"マッチョな考え方"は、もはや現代の生活にフィットしなくなっています。つまり、従来のエナジードリンクが"持続可能ではなかった"のは、成分だけの問題ではなく、その背後にあった生き方そのものが時代に合わなくなってきたからなのかもしれません。
ハイブさんの転機は、もっと個人的なところにありました。レッドブルのマーケティング業務に携わり、ブランドの世界観づくりを担っていたにもかかわらず、ある日、自分自身がその商品を「飲まなくなっていた」ことに気づいたのです。
At one point I stopped drinking the product.(ある時、自分自身がもうレッドブルを飲まなくなった)
人工的な成分や高糖質による刺激が本当に必要なのか、瞬間の覚醒と引き換えにクラッシュ現象が訪れるサイクルは自分の日常に合っているのか。疑問が膨らむにつれ、彼は「エネルギーとは何か」を考え直すようになりました。
「TENZING Natural Energy」の創業者、ハイブ・ファン・ボッケルさん。
写真提供:TENZING Natural Energy
We had all become used to the idea that energy had to be artificial.(エネルギーは人工的であるべきだと私たちは思い込んでいた)
より自然な形へと方向転換しようと試みたこともありましたが、大企業が中核製品の価値観を大きく変えることは難しい。それならば、と彼は外に飛び出し、まったく新しいエナジードリンクの概念を示すブランドをゼロからつくる決意を固めます。
If a better kind of energy was possible, it had to come from the outside.(より良いエネルギーがあるのなら、それは外からつくるしかない)
レッドブルを退社し、わずか1年後、TENZINGは誕生しました。彼にとってエネルギーは"人間的なもの"へと位置づけが変わり、瞬間的な刺激よりも、生活に寄り添い、クラッシュ現象を生まない、自然で安定したエネルギーこそが求められると感じるようになったのです。
TENZINGの根本にあるのは、"Energy shouldn’t come at a cost — not to your body, and not to the planet.(エネルギーのために身体や地球に代償を払うべきではない)"という理念です。これは旧来型のエナジードリンクが当然としてきた「刺激と引き換えの負荷」という構造を覆すものです。
TENZING。
写真提供:TENZING Natural Energy
原材料は100%植物由来、糖分は必要最低限で人工甘味料は不使用。緑茶やグリーンコーヒーの自然なカフェイン、レモンやガラナ由来の電解質、植物性ビタミンなどを組み合わせた設計になっています。こうした自然成分の組み合わせは、急激なテンションの高まりではなく、"緩やかで安定したエネルギー"をつくる役割を果たします。
また、人工甘味料を使わないのは、欧米で高まっている「人工甘味料離れ」とも合致しており、ナチュラル志向の高まりに対応した選択でもあります。
さらに注目すべきは、カーボンフットプリントの開示です。TENZINGは各商品のレシピごとの二酸化炭素排出量を公開し、ユーザーが"自分のエネルギー選択が地球に与える影響"を可視化できるようにしています。
缶はすべてリサイクル可能素材で統一し、企業運営も環境負荷の低減、従業員の働き方やガバナンス、地域社会への貢献など、企業活動を総合的に評価するB Corp基準に沿った形で行われています。飲む側の健康だけでなく、地球環境への影響まで含めて「代償のないエネルギー」を実現しようとしている点が特徴です。ハイブさんは
Good energy should make you feel good, immediately and in the long run.(良いエネルギーは、いまも未来も気持ちよくあるべき)
と語ります。TENZINGは、極端な"ハイ"を求める文化ではなく、"自然体で安定したコンディションを保つ文化"を提示しようとしているのです。
Z世代は選択を"自分らしさ"と結びつけて捉える世代です。
What you drink says something about who you are.(何を飲むかが、その人自身を語る)
というハイブさんの言葉は、その本質を捉えています。
食事、ファッション、SNSでの発信など、さまざまな領域で"自然体の美学"が重視されるようになりました。加工度の低い食材を選び、スキンケアやセルフケアを大切にし、SNSでも一時期の「加工」による過剰に自己演出するブームは一段落し、"素のまま"を好む傾向が見られます。
©FilippoBacci
TENZINGの調査では、ヘビーユーザーの91%が「従来のエナジードリンクと同等かそれ以上のエネルギーを感じながら、クラッシュを感じない」と回答していますが、支持理由の多くはそうした"自分の身体に対する納得感"です。
背景には前述のような社会全体の変化に加えて、ユーザーの価値観の変化がありました。かつてのエナジードリンクは速さ、アドレナリンなど"極端さ"をクールとしてきました。しかし、いまの若者は目的、誠実さ、自然体といった価値に魅力を感じています。
ここで言う「目的」とは、単なる大義名分ではありません。自分が何を大切にして生きたいのか、どんなコンディションで日々を過ごしたいのかといった"内側の基準"を明確に持つことを指しています。
The old cool was extreme. The new cool is purpose.(昔のかっこよさは極端さ。いまのかっこよさは目的だ)
自然体であることを美学として捉える世代にとって、人工的で強い刺激よりも、透明性があり無理をしないエネルギーが支持されるのは自然な流れといえます。
TENZINGの取り組みが示しているのは、エナジードリンクという領域にとどまらない価値観の変化です。エネルギーとは"今日だけを乗り切るためのもの"ではなく、"今日と明日を矛盾させないためのもの"であるという考え方です。
朝起きた時に気持ちが整っているか、仕事や学習の後に異常な疲労が残らないか、週末に意図的な休息を取らなくてもコンディションが大きく崩れないか。こうした日々の感覚こそ、持続可能性の指標といえます。家事や育児、勉強、働き方など、生活のさまざまな場面で"エネルギーの質"は影響を及ぼします。
TENZING。
写真提供:TENZING Natural Energy
ハイブさんは"Burnout is no longer seen as success.(燃え尽きることは、もはや成功とはみなされていない)"という言葉で、現代の価値観を切り取ります。外側の見せかけの強さではなく、内側の安定から生まれる力。それを支えるのが、自然で透明性が高く、自分を擦り減らさないエネルギーの選択です。
最後に、ハイブさんは"Even Everest was first summited as a team.(エベレストでさえ、最初に登ったのはチームだった)"と語りました。これは、無理を押し通すのではなく、支え合いながら、自分のペースで前に進むことの重要性を物語っています。
私たちが日々の生活で選ぶエネルギーは、自分の体と心をどれだけ丁寧に扱えているかを映し出します。明日も続けられる状態をつくること。それこそが、これからの時代に必要とされるサステナビリティではないでしょうか。

Livit代表・編集者/ライター。オランダ・アムステルダム在住。シンガポールにも在住経験あり。海外のハブ都市を拠点に、ミレニアル世代やZ世代を中心とした次世代の価値観、また生成AIなどの先端テクノロジーの潮流に着目し、ウェブメディアを通じて日本の読者に向けて発信している。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

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