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連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目 フィンランドに学ぶ。「暮らしの幸福」を実現するサーキュラー都市のつくり方

連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目

フィンランドに学ぶ。「暮らしの幸福」を実現するサーキュラー都市のつくり方

2025.3.31

    オランダ・アムステルダム在住のサステナビリティ・スペシャリスト、西崎こずえです。私が住んでいるアムステルダムをはじめ、現在ヨーロッパは各地で「サーキュラーシティ(循環型都市)」への移行が急速に進んでいます。

    前回のアムステルダムに続き、今回は世界で最も「幸福」な国のひとつであり、サステナブルな都市でもあるフィンランド・ヘルシンキの現状をお伝えします。

    ヘルシンキがサーキュラーエコノミーに本気で取り組むわけは?

    フィンランドは幸福な国として知られています。世界幸福度ランキングでは8年連続1位。この背景にあるのは、豊かな自然や教育・医療への機会、ワークライフバランスや文化的な豊かさなど、数多くの理由です。また、ヘルシンキはグローバル・デスティネーション・サステナビリティ・ランキング(GDS)指数で2024年に初めて世界1位を獲得。訪れるのにも暮らすのにも豊かな国・街として多くの注目を集めています。

    それでは、なぜヘルシンキはこのような成果を上げることができたのでしょうか。背景には、行政が市の目指す未来を目標として明確に定義し、具体的な行動を起こし、着実に歩みを進めている姿勢があります。

    ヘルシンキは2021年より、2035年までにカーボンニュートラルを、そして2040年までにカーボンゼロを達成する目標を掲げています。多くの国が、2050年までに完全カーボンニュートラルの目標を掲げる中で、この目標は非常に野心的です。

    具体的には、炭素排出の大きな原因となってしまっている暖房、電気、モビリティ(移動・輸送)の脱炭素化に取り組むことが行動計画に組み込まれています。暖房については、ヒートポンプの利用や再生可能エネルギーの利用を進める計画です。モビリティについては、自転車インフラの拡充、EV推進、公共交通機関の電動化などが主な取り組みです。また、極端な気象現象への適応策として、海面上昇や豪雨による浸水対策、緑地の拡充などが進められています。

    市内のシェアサイクル(photo:西崎こずえ)

    加えて、資源の持続的利用を促進するため、ヘルシンキはサーキュラーエコノミーへの移行を目指しています。市内では使い捨てプラスチックの排除や、廃棄物のリサイクル率の向上を目標として取り組みが進んでおり、2025年までに市の公共施設で発生する廃棄物の60%をリサイクルすることが目標とされています。また、食品ロス削減のため、市が提供する食事サービスにおいて、2030年までに廃棄量を半減する計画が進行中です。

    生物多様性の保全も、この戦略の重要な柱となっています。市は2030年までに生態系の回復を進めるとともに、都市部の緑地や森林を維持し、新たな保全区の創設を進める方針です。特にバルト海沿岸の保全が重視され、海洋プラスチックの削減や水質改善に向けた取り組みが進められています。

    ヘルシンキがこのような野心的な環境戦略を推進する背景には、いくつかの具体的な要因が挙げられます。まず、気候変動の影響が市の都市環境に直接的なリスクをもたらしていることです。バルト海沿岸に位置するヘルシンキは、海面上昇や異常気象の影響を受けやすく、これらへの適応策を早急に講じる必要があります。例えば、豪雨による洪水対策として、都市計画の段階で緑地の拡大や透水性舗装の導入が進められており、2050年までの都市成長を見据えた気候リスク管理が求められています。

    市民だけではなく、観光客も巻き込む

    経済的な観点からも、ヘルシンキは持続可能な都市開発を通じて、グリーン経済への移行を加速させようとしています。例えば、サーキュラーエコノミーの推進は単に環境負荷を低減するだけでなく、資源利用の最適化によって長期的なコスト削減を実現するという経済的メリットもあります。市が主導する「シェアリングエコノミーと循環経済の行動計画」では、公共施設のスペース活用やレンタルサービスの拡大を通じて、市民や企業が資源を共有できる環境を整備しています。

    さらに、市民の環境意識の高さも市の政策決定を後押しする要因となっています。2020年にヘルシンキ中央図書館「Oodi(オーディ)」で開催された市民対話イベントでは、市民が環境目標について直接意見を述べる機会が設けられました。市民は、関心が高いテーマが再生可能エネルギー、廃棄物削減、生物多様性の保全などであると具体的に示したことで、政策立案者がこれらの内容を優先的に取り組むアクションにつながりました。

    また、ヘルシンキでは「My Helsinki」というデジタルプラットフォームを通じて、市民や観光客が環境に配慮した消費や移動手段を選択しやすくする取り組みを行っています。サステナビリティを担保するために活動するレストランやショップ、イベント、宿泊施設などを紹介し、どのようにヘルシンキでの滞在や生活を、環境や社会を犠牲にすることなく楽しむことができるか行動を促しているのです。

    このように、気候変動のリスク、EUの規制、経済戦略、市民の意識の高さという複数の要因が重なり、持続可能な都市づくりを進めることになりました。これは単なる環境対策ではなく、都市の競争力向上や社会全体のレジリエンス強化にもつながる、包括的な戦略といえます。

    訪れるにも住むにも良い街

    街の中では、さまざまなところにこうした取り組みに関する拠点があります。先述したヘルシンキ中央図書館「Oodi」は、2018年12月5日にオープンした、市民のための未来型図書館であり「市民のリビングルーム」です。フィンランド独立100周年にあたり、市民が自ら選んだ「自分たちヘルシンキ市民への誕生日プレゼント」として建設されました。

    Oodiはただ本を借りる図書館にとどまらず、誰もが無料で使える3Dプリンターやミュージックスタジオ、映像編集室、共用オフィススペースを備えた「創造と学びの場」です。書籍の貸し出しに加え、ワークショップや市民活動の場としても機能し、都市の知的・文化的ハブとしての役割を果たしています。

    写真:Vadim Morozov on Unsplash

    また、「スカイサウナ観覧車」はウェルビーイングを大切にする、フィンランドのサウナ文化をよく表した街中スポットです。2016年にオープンしたこのサウナ観覧車は、言葉通り観覧車にサウナが搭載されており、マーケット広場、ヘルシンキ大聖堂などの市内の美しい街並みを一望しながらサウナを楽しむユニークな体験が可能です。

    空中サウナ「スカイサウナ観覧車」(photo:西崎こずえ)

    また、ヘルシンキでは、近年「公衆サウナの復活」が注目されています。その象徴的存在が「Löyly(ロウリュ)」と「Allas Sea Pool(アッラス・シープール)」です。

    ロウリュは2016年、再開発が進むヘルシンキの海岸エリアに誕生したデザイン性の高い公衆サウナです。サステナビリティに配慮した建築物(FSC認証の木材使用、エネルギー効率の高い設計)で知られ、地元の人と観光客がともに楽しむことができる「開かれた社交の場」となっています。伝統的な薪サウナとスモークサウナの両方を体験でき、海にそのまま飛び込めるアクセスの良さも魅力です。

    アッラス・シープールは2016年、ヘルシンキの中心地、港に隣接する場所にオープンした都市型のサウナ複合施設です。温水プールとバルト海直結のシーウォータープールを備え、冬でも水泳が楽しめます。併設されたサウナは、健康とウェルビーイングをテーマに、心身のリセットを提供しています。

    このような公衆サウナは、単なるリラクゼーションの場にとどまらず、フィンランド人にとっての「ソーシャル・ウェルビーイング」の象徴であり、人とのつながりと心身の健康にとって欠かせない存在となっています。

    サーキュラーエコノミーを多角的に実現

    市内では、サーキュラーエコノミーに特化したまちづくりも急ピッチで進められています。

    「Kalasatama(カラサタマ)」は、ヘルシンキが進める最先端のスマートシティ開発エリアであり、サーキュラーエコノミーとテクノロジーの融合モデルとして注目されています。元は港湾エリアだったこの地区は、サステナビリティを核に再開発されており、2030年までに約25,000人の居住者と10,000人の働く場が整備される予定です。

    特徴のひとつがモジュール式住宅の導入です。これにより、建物は将来的な改修や再利用を見越した柔軟な設計となっています。また、地域内にはリユースマーケットや共有の修理スペースが設置され、住民が物を長く使い、廃棄物を減らす仕組みが整えられています。

    さらに、エネルギー面ではエネルギーシェアリングシステムが導入され、太陽光発電やヒートポンプを活用した余剰エネルギーを地区内で共有。これにより、エネルギーの自給自足とCO2削減が実現します。

    カラサタマのもうひとつの面白みは、市民参加型の都市づくりを徹底している点です。住民や地元企業が実証実験に参加し、都市の課題解決に貢献できるリビングラボとして機能しているのです。

    また、ヘルシンキは「都市と自然の融合」を体現する街として知られています。都市の中心部からすぐ行ける距離に、300以上の島々が点在しており、市民も観光客も気軽に自然にアクセスできるのが特徴です。これらの島々は、フェリーや自転車で簡単に訪れることができ、夏にはハイキングやカヤック、ピクニックが楽しめ、冬には凍った海の上を歩くユニークな体験も可能です。

    市内の公園や森林も充実しており、フィンランドならではの森林浴やハイキングを日常の延長で楽しめます。また、冬季にはアイススイミングが人気で、都市の公衆サウナと連動して、冷たいバルト海に飛び込むことで心身をリフレッシュする文化が根付いています。

    写真:Abby Rurenko on Unsplash

    こうした「都市と自然の境界が曖昧な設計」は、ヘルシンキのサステナビリティとウェルビーイングの両立を象徴しており、都市生活の中に自然と共生するライフスタイルを提供しています。まさに、「訪れるのにも暮らすにも豊かな街」といえる理由のひとつではないでしょうか。

    今回紐解いたように、ヘルシンキは、都市での快適な暮らしと自然との共生を巧みに融合させながら、人々の心と身体の豊かさを支えています。その姿は、私たちが目指すべきサステナブルな未来都市のヒントとなるはずです。

    PROFILE

    西崎こずえ

    西崎こずえKozue Nishizaki

    2020年1月よりオランダ・アムステルダムに拠点を移し、サーキュラーエコノミーに特化した取材・情報発信・ビジネスマッチメイキング・企業向け研修プログラムなどを手がける。日本国内でサーキュラーエコノミーに特化した唯一のビジネスメディア「Circular Economy Hub」編集部員。2024年4月からはオランダのサステナビリティに特化した経営コンサルティングファーム「Except Integrated Sustainability」に参画。サステナビリティコンサルタントとして活躍する。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

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