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Sustainable Journeyは、
2024年3月にリニューアルしました。
連載:未来の旅人
2026.7.31
2012年、東京都大田区の青果店「気まぐれ八百屋だんだん」の一角で、日本初の「こども食堂」が産声を上げました。こども食堂とは、子どもが一人でも安心して立ち寄れ、安価または無料で温かい食事をとれる地域の居場所のことです。
店主の近藤博子さんが始めたこの小さな取り組みは、瞬く間に全国へと広がり、今や全国に1万2,602カ所(2025年度)ものこども食堂が存在しています。これは全国の公立小学校・義務教育学校の約7割に迫る規模です。
しかし、その広がりとは裏腹に、近藤さんは2025年春、自身のSNSで「『こども食堂』の大きな流れからは、一線を引く」と宣言しました。こども食堂の名付け親でもある彼女は、なぜそのような発信をしたのでしょうか。今回は近藤さんに、彼女が抱える危機感と、私たちが本当に目を向けるべき「子どもの貧困」の本質について話を伺いました。
近藤さんがこども食堂を開いた2012年当時、日本の子どもの貧困率は過去最悪の16.3%を記録し、約6人に1人の子どもが貧困状態にあることが大きな衝撃を与えました。しかし、そうした現実に対して、子どもたちを支援する取り組みはあまり整備されていなかったと言います。
「それまで、子どもの貧困といったら、遠い海外の発展途上国に住む子たちのイメージが強く、支援も諸外国に向けたものがほとんどでした」。
社会問題化を追い風に、この10数年で「こども食堂」は急速に広がりました。同時に子どもの貧困解消に向けた対策や法律、予算も整備され、社会の注目度は格段に高まりました。近藤さんも、こうした変化を前向きに受け止めています。
「子どものために何かをしたいと思う大人がいるということは、まんざら日本も捨てたもんじゃないなって思えたんですよ」。
ですが、こうした動きを手放しで喜んでいるわけではありません。活動が広がるにつれ、近藤さんは違和感を抱くようになります。
「ある時から、国や自治体からお金が出るようになって、それと比例するようにどんどん広がっていきました。運営や継続にはもちろん資金は必要ですが、『お金が出るから広がったの? お金がなければできないの?』と、なんだかとても複雑な気持ちになったんです」。
2023年には、ACジャパンの「こども食堂」のCMも放映されました。国や行政が「こども食堂を応援しましょう」と旗を振る姿に、違和感が大きくなっていきました。
「私は『いつか、こども食堂が必要なくなる世界が来ればいい』と思って運営を始めました。それが今は逆で、国を挙げてこども食堂を応援し始めている。"こども食堂を"応援するんじゃなく、"子どもを"応援しないといけないでしょう。子どもの貧困そのものをなくすように動かなきゃいけないんです」。
そもそも、近藤さんが目指していたのは「こども食堂」という"場所"を増やすことではありませんでした。貧困に陥る子どもや親たちを、地域の人たちが自然に気にかける社会そのもののあり方です。
「夕方6時になったら、こども食堂という見えないような暖簾が、全部の家庭の入り口にかかる。そういう雰囲気の地域にしたかったんです」。
画像提供:気まぐれ八百屋だんだん
こども食堂が増えたのであれば、社会は本当に子どもたちに優しくなったのでしょうか──。子どもの貧困率は2022年調査で11.5%と緩やかに改善しつつあるものの、小中高生の自殺者数や虐待相談は増加傾向にあります。こども食堂を運営している間も、本当に支援が必要な子どもたちへ、支援が行き届いていない現実に何度も直面しました。
「一時期のCMの影響もあって、こども食堂=楽しい場所、誰でも来られる居場所という文脈で用いられるようになってしまいました。"誰でも"はそのとおりですが、本来の意味から少し広がりすぎてしまったのかな、と」。
近藤さんは「こども食堂について説明する時、よく"バナナの子"の話をする」と言います。"バナナの子"とは、こども食堂の前身となる青果店を営んでいた頃に出会った、ある小学1年生のことです。地元小学校の副校長がお店に立ち寄った際に「親が病気で食事をつくれず、その子は給食以外ではバナナ1本しか食べられていない」と聞かされました。
その話がきっかけとなり、「子どもたちに温かい食事を届けたい」という思いから、"子どもが1人で入っても怪しまれない食堂"として「こども食堂」は生まれました。
気まぐれ八百屋だんだんには、今でも自然と子どもたちが集まります。
楽しい場所としてアピールするのではなく、原点に立ち返り、地域密着型の地道な関わりを大切にする。それが、近藤さんが「一線を引く」という言葉に込めた真意でした。
活動を続けるうちに、近藤さんは貧困の背景にある家庭環境の複雑さに気づかされていきます。
「学習支援に来ていた子たちには、うどんなどの軽食を出してたのですが、それが、土曜日のその子の夕食になってたっていうのを知った時にとても複雑でした。その子が食べられていないということは、お母さんも食べてないということ。迎えに来た時にごはんを一緒に食べてもらうようにしていました」。
子どもの貧困の背景には、親の貧困や就労問題、教育格差など、さまざまな課題が絡み合っています。だからこそ、一つの制度や窓口だけで解決できる問題ではありません。
「子どもたちに食事を提供すれば解決する問題ではありません。もう、本当にいろんな問題がこんがらがっている。だから、縦割り運営の行政に紹介したところで、解決できないことの方が多いんです」。
実際、行政の窓口では担当外と言われれば別の部署を案内され、そのたびに事情を一から説明しなければなりません。「もう相談したくない」と支援を諦めてしまう人も少なくないと言います。
「自治体が『重層的支援体制整備事業※』を進めていますが、うまくいっているところをあまり見かけません。すべての自治体がそうだとは言いませんが、基本的には窓口も縦割りなので、自分たちの知らないことには何も手をつけられない。たらい回しにされて、またゼロから説明し直しとなったら、行きたくないってなっちゃうじゃないですか」。
さらに、行政の縦割り構造や、「手上げ方式」と呼ばれる自己申告制の支援制度に対して、近藤さんは厳しい目を向けています。
「役所って手上げ方式だから、助けてくれって言わないと対応してくれない。個人情報の問題もありますが、生活保護や納税の履歴でもなんでも調べて、あたっていきなさい!って思うんです。よく『困っているご家庭がいたら教えてください』と聞かれるんですが、そうじゃない。まずは自分たちが建物からさっさと出て、各家庭を訪問しなさいよって」。
※全国の市区町村で導入が進められている高齢・障がい・子ども・生活困窮といった属性の壁を越え、複雑化・複合化した課題を抱える世帯や個人を包括的にサポートする制度、体制。
こうした行政の姿勢は、夏休みになると一層あらわになります。給食がなくなる夏休み中にやせてしまう子どもが出ることから、行政から「こども食堂さん頑張ってください」という声がかかると言います。
「ボランティアの私たちに丸投げするのは違うよね、と。でも、頑張っちゃう人たちがいるんですよ。目の前のかわいそうな子どもたちを見たら、対応しないわけにはいかないでしょう。でも、本来、それは国や行政の仕事であって、私たちのやることではないんです」。
自己責任主義のイメージが強いアメリカでさえ、夏休み中に18歳以下の子どもに教会や学校で無料で食事を提供する国の支援プログラムが存在します。近藤さんはその事実も引き合いに出しながら、日本の現状に疑問を呈します。
「日本でもやるべきだと思います。それができないのであれば、せめて子どもたちに自分でごはんを炊くことを教えて、お米を持ち帰らせる。そうした自立支援などもやらずに『とりあえずこども食堂に行けば大丈夫だ』は、本来おかしいんです」。
こうした問題を「個人の責任」で片付けようとする社会全体の風潮にも、近藤さんは歯に衣着せません。
「私、SDGs大っ嫌いなんです(笑)。バッジに使うお金があったらなんとかしてって思いませんか。だってもう2030年まであと数年。日本、全然やれてませんよ。立派なバッジをつけてCSRとかSDGsとかなんかかっこいいこと言ってるんじゃなくて、さっさとやってくださいって常々思っています」。
一方で、近藤さんは学校などとも連携を広げ、地域で子どもたちを支えていく体制をつくっています。無理をせず、自分にできる範囲で活動を続けることが、長く続けるための秘訣だと言います。
「もともと大きな社会課題を解決したいと思って始めていませんが、活動を通して感じるのは、貧困の"解決"なんてとても私にはできないということ。それでも、子どもたちが困っていたら、そっと手を差しのべて、生きる力を少しだけ与える拠りどころにはなれるかなとは思っているので。近所のおばちゃんとしてできる以上のことはやりませんよって宣言しつつ、地道にね」。
近藤さんは「いつでも辞められる気持ちでいますが、まだできることがあると思っちゃうのよね」と、笑います。キリがない問題に対して、地道に、そして無理なく向き合い続ける。だんだんが掲げる見えない暖簾は、今日もそっと子どもたちを迎え入れています。

「気まぐれ八百屋だんだん」店主、一般社団法人ともしびatだんだん代表理事。1959年、島根県生まれ。2008年、歯科衛生士のかたわら、「食と歯と健康をつなげたい」と、無農薬野菜を扱う「気まぐれ八百屋だんだん」を開店。その後、八百屋の一角を活用し子どもの学習支援「みちくさ寺子屋」や勉強会などを開き、2012年に子どもが一人でも安心して入れる食堂「だんだん こども食堂」を始める。2023年、吉川英治文化賞を受賞。だんだんは島根県の方言で「ありがとう」の意味。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

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