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連載:みんなの未来マップ AI時代に必要な「工芸の力」とは 株式会社中川政七商店 羽端大さん

連載:みんなの未来マップ

AI時代にこそ、工芸が必要な理由──。感受性を取り戻す装置として

2026.2.27

    羽端さんのロングインタビューはこちら

    工芸の世界に足りなかった"しまいかた"。中川政七商店が考える、ものづくりの責任と未来

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    タイパ・コスパが重視され、暮らしを効率化しようという流れのある現代。最新テクノロジーによってさまざまなものの機能性が向上し、手頃な価格で入手できるようになりました。手をかけ、時間をかける「工芸品」は、ある意味でその価値観とは真逆の世界にあります。

    中川政七商店でサステナビリティ戦略担当を担う羽端大さん。実は前職の経済産業省では、スタートアップ政策や最先端技術を生かしたイノベーション政策に取り組んでいたそうです。

    両方の世界を見てきた羽端さんだからこそ感じている「工芸の力」とは。

    "割れる器"が教えてくれる、人間らしさ

    工芸の未来について、羽端さんがこうなっていたらいいなと思う理想のイメージはありますか。

    私は工芸というのは、人の暮らしを形づくるものだと思っています。「こういう暮らしをしたいから、こういうアイテムを取り入れる」という順番だけでなく、工芸的な道具を使うことで、その人の暮らしが後から形づくられることもあるんじゃないかと思うんです。

    例えば、今は割れない素材でつくられた機能的な器があります。そちらのほうが陶磁器やガラスの器よりも便利かもしれません。でも、割れてしまうものを使っているからこそ、丁寧に物を扱う態度や大事に使う感覚が身につくのではないでしょうか。

    羽端さんが手に取っているのは美濃焼のお茶碗。「佇まいはもちろん、たっぷりごはんが入るのがいいんですよね」

    確かに、そういった側面はあるように思います。

    これだけ最新テクノロジーが普及して、いろいろなものが簡便化され機械に代替されていく時代に、果たして人は、何を人らしいものとして残していけるのか。それは身体性とそこから生まれる暮らしではないかと思っています。

    もちろん私も、家では食洗機をありがたく使っているし、最新技術はとても便利です。でも、大事にしている器だけは手洗いしようとか、布巾で拭いて食器棚にしまおうとか、そういう時間をつくるだけで、暮らしのスローダウンができる。工芸自体が、人間性を保つための装置ではないかと感じています。

    茨木のり子さんの詩がエールとなって

    確実に自分自身の価値観の一部を形づくってくれているのが、茨木のり子さんの「自分の感受性くらい」という詩です。

    どのようなところに惹かれたのでしょうか。

    さまざまな捉え方がある詩だと思いますが、私は人間賛歌の詩だと感じています。これまでの人生で見てきた「世の中のままならなさ」は、単純な正義や論理では片付かず、努力が報われない局面が多いんですね。そうした中で、ある種の絶望感を感じることはよくありました。

    それでもこの詩を読むと、叱咤されるとともに「それでも自分の足で立ってがんばれ。それが、人間であるあなたの尊厳を守ることだ」というエールを感じます。実は今でも折に触れ、読み返しては泣いています(笑)。こうした祈りにも似た思いが、自分の選択や行動原理につながっているんです。

    「will」を持つことが未来をつくることにつながる

    最後に、羽端さんが考えるサステナビリティについて教えてください。

    「続けたいことを続けるための考え方だったり営みのこと」かなと思います。

    続けたいという意思が先にある。

    そうですね。人によって何を持続させたいかはいろいろあると思うんですが、僕は「will(やりたいこと)」を持つことがすごく大事だと思っています。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンは、まさに前会長のwillでした。2007年当時、誰からも頼まれていないのにやり始めたことです。

    AIをはじめ、さまざまな技術が発展したことで、合理的な正解は多くの人が導き出せるようになっています。でも、「じゃああなたはどうしたいんですか」と問われた時に「私はこれがやりたいです」と言える人が、果たしてどれぐらいいるのか。

    社会という大きなシステムは一人の意思だけで変わることはないかもしれません。一方で、成り行きに任せているとどんどん良くない方向に向かっていく。だからこそどうしていきたいか、つまりwillがすごく大事だなと思うんです。

    一人ひとりの意思と選択が未来をつくることになる。

    工芸は"感受性の手入れ"を日常の道具として実装できるものです。触れて使い、手をかけ、時間をかけ、関係を結ぶ——そのプロセス自体が感受性を涵養する。工芸の持つこの特徴は、多くの人にとって共通し得る豊かさであるというところに、工芸のポテンシャルを感じます。

    転職時には言語化できていませんでしたが、改めて捉え直すと、工芸をキャリアのフィールドに選んだこともここにつながっているように思います。ブレることなく、強い「will」を持って工芸を元気にしていく取り組みを、この先も進めていきたいです。

    PROFILE

    羽端大

    羽端大Dai Habata

    1989年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、2011年に経済産業省へ入省。政府成長戦略、環境政策、スタートアップ政策、大阪・関西万博の企画などを担当。2018年より米パーソンズ美術大学大学院において公共分野へのデザインの活用に関する研究を行う(MFA/美術学修士)。2023年、株式会社中川政七商店へ入社。経営企画、サステナビリティ戦略、経営・ブランドコンサルティング、新規事業開発を担当している。一般社団法人STUDIO POLICY DESIGN共同設立者・理事。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    大和ハウス工業と考えよう。「対話から始めるダイバーシティ&インクルージョン」有識者×社員の対談(「発酵」からひもとく、異文化のチームマネジメントと「日本らしさ」の活かし方)はこちらよりご覧いただけます。

    「発酵」からひもとく、異文化のチームマネジメントと「日本らしさ」の活かし方

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