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連載:未来の旅人 工芸の世界に足りなかった"しまいかた"。中川政七商店が考える、ものづくりの責任と未来

連載:未来の旅人

工芸の世界に足りなかった"しまいかた"。中川政七商店が考える、ものづくりの責任と未来

2026.2.27

    お茶碗でご飯を食べる、湯呑みやカップでお茶やコーヒーを飲む。
    そんな当たり前の生活の風景が、この先なくなってしまうとしたら……?

    「工芸の世界では、これまでリサイクルやリユースは一般的ではありませんでした。ですが、産地では資源枯渇が起こりはじめており、その対策が急務です」。

    そう話すのは、経済産業省から中川政七商店に転職し、2026年2月から始まった"工芸のしまいかた"を考える循環プログラム「C KOGEI」を立ち上げた羽端大さんです。

    2025年10月に、社会や環境に配慮した公益性の高い企業に与えられる国際認証「B Corporation™(B Corp)」を取得した中川政七商店。300年以上続く老舗企業として、これから先もサステナブルであり続けるために、どのようなアクションを起こしたのでしょうか。ものづくりの現場から見えること、目指す未来について話を伺います。

    中川政七商店が目指す「いい会社」とは

    中川政七商店は1716年創業の奈良の老舗企業。「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、全国約800のつくり手と協業し、日本の工芸をベースとした生活雑貨を製造販売しています。同社が大切にしているのが「いい会社」であること——。

    中川政七商店の考える「いい会社」とは、いったいどのような会社なのでしょうか。

    「大切にしているのは『個別善』と『共通善』と『収益』の3つです。弊社の場合、『日本の工芸を元気にする!』というビジョンは個別善の位置づけです。前会長が2007年にこのビジョンを掲げた時は、特に工芸が注目されていたわけではなく、誰からも頼まれていない中で、志や哲学を持って取り組み始めました」。

    「他方で共通善は、社会にとっての大きな善だと呼べるもの。さらに、それらを理想論で終わらせないために、経営上の利益も考えていかなければなりません。私たちは、この3つが揃っているのが『いい会社』だと考えています」。

    理想の会社のあり方を世界基準で見つめ直すために、同社はB Corp認証の取得に取り組みました。ただ、これは単なるCSRの一環として取得したわけではありません。

    「B Corpが目指す企業のあり方と、弊社が考える『いい会社』のあり方に共通するものがあると感じました。B Corp認証の取得は、我々がどういう立ち位置にいるのかを外の物差しで見てもらい、自分たちがこの先何をしていくべきかを考える意味合いが大きかったですね」。

    工芸の世界には、リサイクルやリユースがほぼなかった

    B Corp取得後、最初のアクションとして2026年2月1日から始まったのが、"工芸のしまいかた"を考える循環プログラム「C KOGEI」です。これは使用されなくなった自社商品の陶磁器を、旗艦店4店舗で回収し、必要な修繕をして再販売したり、修繕するのが難しい状態のものは再資源化して、陶磁器の原材料に戻していくという、"ものの終わらせかた"を見つめ直す取り組みです。

    第一弾の開催期間は2026年2月1日〜3月31日。まずは、中川政七商店で購入した陶磁器が対象です。
    提供:中川政七商店

    意外にも、これまで工芸の世界では、リサイクルやリユースに関する取り組みがほとんどありませんでした。経産省時代は官僚として家電業界の環境政策を担当し、家電リサイクル法の改定にも携わった羽端さんとしては、そのことに大きな問題意識を抱いていました。

    「製造小売業という自分たちの役割や立場を考えた時に、工芸業界において、中川政七商店はつくって売る側の責任があると思っていました。ですが、弊社も含め、工芸業界は必ずしもそこにコミットしきれていないのが現状だと感じています。家電業界では、80年代以降の大量生産・大量消費・大量廃棄型社会がもたらした問題などを踏まえて、事業を続けていくためには環境政策に向き合う必要があると自覚し、法律がつくられていった経緯があります。その後もメーカーや小売が積極的に投資を行い取り組みを推進することで、家電ごみは着実に減量化されているんですよ」。

    工芸の世界でリサイクルが進まなかった背景には、一つ一つがそれほどかさばるものではないことに加え、自然素材を原料としていることから、処分する際に問題になりづらいという事情がありました。

    「ですが、工芸品の多くは、ご家庭から捨てられる場合、『不燃ごみ』という形で自治体に回収されます。すると大抵の場合、最終処分場に運ばれ、再活用されないまま埋め立てられます。再利用や再資源化が可能な工芸品がただ埋められている。サプライチェーン全体が、非常にいびつな構造になってしまっているんです」。

    近年アパレル業界では着なくなった衣類を回収してリユースしていく循環型の仕組みに変えていこうという流れが起きているのは多くの人が知るところです。「工芸にも同様の流れをつくりたい」。江戸時代には当たり前だった循環型の暮らしへの向き合い方を、改めて今の日本に提案するべく、中川政七商店は動き出しました。

    粘土は「石油」と同じ

    工芸の世界にもサーキュラーエコノミーを。その第一歩として、数ある工芸品の中から陶磁器を選んだのには理由がありました。一つは茶碗や湯呑など、どの家庭にも必ずあること。もう一つは、原材料の粘土や陶石の枯渇がすでに問題になっているためです。

    「粘土や陶石は、山を物理的に切り崩して得ています。ですが、これらは数万年、数十万年かけてつくられる堆積物で、元に戻そうと思ったら、当然ですが同じ年月がかかります。つまり一度使ってしまえば、私たちが生きている間には到底元に戻らない。粘土は石油と同じで、けっして無限にある資源ではないんです」。

    常に足元にある土。あまりにも当たり前に目の前にあるからこそ、私たちには「土が枯渇する」というイメージや"資源"という認識が薄かったのではないでしょうか。

    「すでに美濃焼、常滑焼、瀬戸焼、萬古焼という東海地区にある4つの焼き物の産地のみなさんが独自に取り組みを進めています。我々としても問題意識を共有し、活動に協力させていただきたいと、陶磁器からスタートさせることになったんです」。

    提供:中川政七商店

    こうした取り組みは社会貢献活動の一環として見られ、経営上のメリットはないと思われがちです。しかし、大きな循環の仕組みが構築されれば、必ず事業に返ってくると羽端さんは考えています。

    「例えば陶石は、このままのペースだと、採掘可能なものについては数十年後にはなくなるといわれています。資源の枯渇はここ数年の問題ではないかもしれないけれども、10年、20年の問題ではある。近い将来、陶磁器がつくれない未来がくるとしたら、工芸品の製造販売を手掛ける我々にとっても、非常に大きなビジネス上のリスクです。だからこそ、こうした取り組みを実施することは"必要な投資"なんです」。

    経産省時代から変わらずある「日本を良くしたい」という思い

    羽端さんは2023年に経産省をやめて、中川政七商店に入社しました。国を動かす大きな仕事から一転、地元・奈良に戻り、暮らしの手元を耕すような工芸の仕事へ。なぜ転職することにしたのでしょうか。

    「日本の文化に着目するきっかけは、経産省時代にニューヨークのデザインスクールに留学する機会をいただいたことでした。さまざまな国の人と話していると、日本に対しての期待値は最先端テクノロジーではなく、文化や考え方にあることがわかったんです。そこからは、日本のポテンシャルは文化の領域にあると思うようになり『文化経済』に関心を持つようになりました」。

    文化と経済、相反する概念のようにも感じますが、なぜそこに注目したのでしょうか。

    「私自身が前職の時から変わらず持っているのは『日本を良くしたい』という思いです。そして、それは文化を強みとして実現できるのではないか、と。一方で、いいものをつくっていても、どうやって買ってもらうのか、ものづくりを続けられる環境をどう整えていくのかということは、それほど考えられていないとも感じたんですね。言い換えると、日本を良くしていくためには、ちゃんと経済が回る形で文化と向き合うことが必要だと思いました」。

    中川政七商店は、工芸が補助金を頼らず、自分たちの力だけで続けられるようにしていくことに真摯に向き合っている会社です。「そこが私の問題意識とも重なって、転職したんです」と羽端さん。

    「『C KOGEI』も、持続可能な文化経済の構築のためには必要な仕組みだと考えています。利益とサステナビリティは、もはや『両立して当然』というフェーズに入っています。ありとあらゆる経済活動は、自然という土台の上に成り立っている。そこが危機的状況に瀕している状態なので、両立なんて言っていては生ぬるいですよね。そういう意味でも、今まさに取り組み始めた『C KOGEI』は、弊社が取り組むべきミッションだと思っています」。

    PROFILE

    羽端大

    羽端大Dai Habata

    1989年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、2011年に経済産業省へ入省。政府成長戦略、環境政策、スタートアップ政策、大阪・関西万博の企画などを担当。2018年より米パーソンズ美術大学大学院において公共分野へのデザインの活用に関する研究を行う(MFA/美術学修士)。2023年、株式会社中川政七商店へ入社。経営企画、サステナビリティ戦略、経営・ブランドコンサルティング、新規事業開発を担当している。一般社団法人STUDIO POLICY DESIGN共同設立者・理事。

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