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コラム No.28-15

CREコラム

今さら聞けない「不動産証券化」(15)二重課税の回避

公開日:2018/06/29

不動産証券化は、比較的新しいビジネスです。事業がより広範に普及するための様々な仕組みを導入していますが、今回は二重課税の回避を取り上げます。少し難しい響きがありますが、シンプルに考えてみましょう。

参入障壁をなくすために講じられた

一般に、二重課税とは、税金を課せられる1つの対象に2つ以上の税が課せられている状態を指します。たとえば、ビールや酒の小売価格には物品税として酒税が含まれており、購入すれば消費税の対象になります。たばこやガソリンも同じ。ゴルフ場でプレーすれば利用税と消費税が取られます。企業は法人税を支払いますが、この会社が発行する株式や社債を保有して配当などのキャピタルゲイン(株式等売却益)を得ている株主や投資家に対しては、所得税または法人税が徴収されます。ことの是非はともかくとして、二重課税は色々な場面で生じています。

不動産証券化における二重課税は、オリジネータ(原債権者)から購入した不動産を証券化するSPC(特別目的会社)などの主体者(投資ビークル)の段階で法人税がかけられ、その後投資家に配当を実施する際に、受け取るのが個人投資家ならば所得税が、法人ならば法人税が課せられます。これでは不動産証券化における投資価値は半減し、ビジネスに参入する人は減少してしまいます。そうした参入障壁をなくして事業を本格普及させるため、証券化の制度を創設する際に二重課税の回避措置が取られました。

二重課税回避の方法はは2つある

倒産隔離とは、企業が倒産しても、その企業が保有している資産に影響を与えないようにすることです。不動産証券化における倒産隔離は、譲渡された不動産や証券化のスキーム(仕組み)を破たんリスクから守る、ということになります。

不動産証券化では、不動産の信用力によって資金調達

不動産証券化における二重課税回避の方法は2つあります。不動産証券化に関する専門書などには、やや難解な言葉が並んでいますが、簡潔に言えば、こうです。

  1. (1)SPC(投資ビークル)が課税対象にならないこと(=パス・スルー方式)
  2. (2)SPCがほとんどの利益を配当に回して課税対象から外れること(=ペイ・スルー方式)

(1)のパス・スルー方式では、SPC(特別目的会社)と「匿名組合」を組み合わせて、投資ビークルが課税対象にならない仕組みを作ります。匿名組合は「法人」ではないので事業の利益に税金が発生しない、という商法上の契約形態を使って課税を回避します。法人ではない匿名組合の事業には課税対象となる利益は発生しません。利益がなければ税金の発生する余地はないというわけです。ただ、投資家は匿名組合に出資した組合員の立場で配当を受け取りますが、この配当には課税されます。

課税対象の所得は、利益から費用(経費、損金)を差し引いた額で、これは税引前利益ともいいます。匿名組合で事業を営む者に対しては、法人税の基本通達で組合員への分配金を損金算入できることが定められています。

例えば、匿名組合が不動産の賃料収入で利益を200万円稼ぎ、必要経費が100万円かかったとします。この場合に分配金は100万円になります。匿名組合が稼いだ利益から必要経費と分配金を損金として差し引けば、収支はゼロ。つまり課税対象となる資産はないということになるのです。

利益(200)―経費(100)―分配金(100)=0

(2)のペイ・スルー方式は、投資ビークルが稼いだ収益の90%以上を配当に回す方法です。ペイ・スルー方式の場合は課税対象を実質的になくす方法ですが、SPCは利益の90%以上を分配金に充当させれば課税は免れます。これを「90%ルール」と呼んでいます。不動産証券化においては多くの場合がペイ・スルー方式で、上場しているJリートの大半が利益の100%を配当に回しているといわれています。

90%ルールは、一定の要件を満たせば、出資者に対する分配金を損金算入することが租税特別措置法で認められています。ペイ・スルー方式、パス・スルー法式とも投資家は配当課税を支払い、配当控除は適用されません。

どちらの方式も、収益から経費や分配金を差し引けば、儲けは限りなくゼロになる仕組みを作っているわけです。しかし経費を損金算入として計上できない場合は、より多くの分配金が必要になり、課税対象になるケースが出てきます。経費がゼロで分配金が160万円の場合、40万円が課税対象になり、あとで法人税を支払う可能性が出てきます。

利益(200)―経費(0)―分配金(160)=40

導管体ということ

不動産証券化において重要な機能のひとつに、不動産から得られた利益の大半を投資家に配分することがあります。この機能を導管体(どうかんたい)といいます。これは前回お話した「倒産隔離と真正売買」が、投資家にデフォルトリスクを及ぼさない措置のために設けられたのと同様に、証券化の根幹をなすものです。いわば「投資家ファースト」の観点に立った機能といえるでしょう。

導管とは、分かりやすく言えばパイプラインのことです。モノを移動させたり届けたりするための管(くだ)の総称で、証券化においては、不動産が生み出す利益を投資家に分配するパイプラインが、この「パス・スルー」「ペイ・スルー」の2方式であり、導管体は二重課税回避の仕組みそのものともいえます。

二重課税を回避する導管体は、不動産証券化で得る利益を投資家に最大限に還元するとともに投資家の保護・育成を図り、証券化ビジネスの普及と拡大に貢献しているのです。

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