CREコラム
今さら聞けない「不動産証券化」(5)広がる証券化ビジネス
公開日:2016/12/22
POINT!
- ・証券化の対象は、知的財産権など資産価値のあるものへと拡大
- ・もはや不動産証券化は、ビジネスそのものに変貌している
拡大する証券化
証券化は、物理的に切り売りできない資産を小口化して資金を調達・運用するツールです。都心の一等地は不動産価値が高く、これを有効活用して資金調達したいと考える企業があるとします。しかし、1棟のビルは切り分けられないので有価証券の形に変えて細かく分けます。細分化すれば販売単価は下がって多くの人に買ってもらうことができ、スムーズな資金調達が可能になります。
不動産証券化が資金の調達・運用の両面で優れた手法であることが理解されてきた現在、証券化の対象は「切り分けられないが、資産価値のあるもの」に拡大しています。事業そのものや知的財産権などが証券化の対象資産になっています。
事業の証券化について見てみましょう。10年前、大手IT企業ソフトバンクは携帯電話事業の拡大を狙いに、英国の大手通信会社を買収しました。このとき、携帯電話事業を証券化して約1.5兆円を調達、買収資金を借りていたローンの返済に充てました。携帯電話事業で得られる将来の収益は、それほど巨額なもので資産価値があると証券化市場から判断されたのです。
事業証券化の対象は、全業種といっていいかもしれません。例えばホテル・旅館業など、日々の売り上げが見込める事業は、証券化の仕組みとしてイメージしやすい業種ではないでしょうか。宿泊施設の収益は宿泊料がメイン。テナントビルの家賃収入と同じです。ホテル・旅館の建設資金や運転資金を調達するため有価証券を発行し、資金を確保します。営業開始後は稼働状況によって収益の多寡は変化しますが、収益の大部分は投資家に配当の形で還元されます。
メガソーラーの証券化
再生可能エネルギーとして注目を浴びている太陽光発電事業。このソーラー事業も証券化の対象事業の一つになっています。再生可能エネルギーには、国が定めた固定価格買い取り制度があります。メガソーラーの場合、電力会社が発電事業者から電力を20年間にわたって一定の金額で買い取ります。ところが発電事業は多額の設備投資を必要とするため、参入する事業者にとって設備投資のための資金調達がネックになりました。そこで、メガソーラーの証券化が登場します。
岡山県瀬戸内市が計画を進めているメガソーラープロジェクト「瀬戸内Kirei太陽光発電所建設プロジェクト」は、かつては塩田だった土地を太陽光発電事業の基地に変えて地域活性化を図る大規模事業です。2019年の運転開始を予定していますが、市の財政リスクを回避するため証券化を採用、日本で初めてのメガソーラー証券化として話題になりました。
映画やアニメも対象に
知的財産権の証券化も増加しています。中でも、著作権は巨額の製作費が必要にもかかわらず資金不足が続いている映画やゲームソフト、アニメの製作費の資金調達に証券化の仕組みが使われるケースが出てきています。映画製作費を調達するため映画やゲームの脚本や原作を著作権として証券化し、興行収入やDVD、テレビ放映権、キャラクターグッズの売り上げによって投資家に配当を支払います。
音楽の分野でも、証券化が行われています。先ごろ亡くなったロック歌手のデビット・ボウイ氏が発行した「ボウイ債」は、1997年に自らの楽曲にかかる著作権から生じる利益などを担保としたABS(資産担保証券)です。これを機に、アーティストの資金調達方法が多様化したともいわれています。演奏会や演劇などの芸術文化活動は、商業主義的な色彩のものを除いて、必ずしも興行的に成功する保証はありません。儲かるから演奏する、演じるというものではないからです。
しかし、芸術活動にも資金は必要です。銀行が芸術文化活動に対して理解を示し融資を実行することは、あまり考えられません。そこで、会場の使用料や広告宣伝費用などを確保するため、演奏家や俳優を支持するファン層やスポンサー企業などが投資することを期待し、コンサートなどエンターテイメント事業を証券化して資金調達する機会が今後増えていく可能性があるのではないでしょうか。
ビジネスとして目的化している
我が国の証券化は、金融システムの安定化を図るため、自己資本比率を高める狙いで始まった銀行の資産減らし策(債権流動化)が発端でした。その後、不良債権処理で不動産売買市場が冷え込み、不動産の流動化が始まりました。証券化・流動化は、金融業界が主役だったのです。
金融市場が再び回復し始めると、不動産証券化は、それ自体が独自の資金調達・運用ツールとして普及し始め、証券化を行って利益を出す動きが広がっていきます。保有する不動産の有効利用として始まった不動産証券化は、ビジネスとして自己目的化されているのです。
不動産証券化のために関係者が集まり、土地を取得して有価証券化し、投資家に販売して配当を支払いながら、自らも利益を確保しています。J-REITのほとんどは、銀行借り入れや投資ファンドから資金を引っ張ってきて新たに不動産物件を購入、ビルや商業施設を建設して証券化します。銀行は、不動産物件からの将来収益を返済金と見なしているのです。
こうなると、不動産証券化は、既存の保有不動産を有効活用して効率的な資金調達をする、という当初の姿から、証券化という金融手法を使って利益を上げるビジネスそのものに変貌しているといえるでしょう。
今さら聞けない「不動産証券化」
- (1) 証券化は、こうして始まった
- (2) ABSは証券化の代表選手
- (3) 不動産証券化のメリットとデメリット
- (4) Jリートとはなにか?
- (5) 広がる証券化ビジネス
- (6) なぜ不動産証券化が登場したのか
- (7) 不動産証券化の歴史(1)
- (8) 不動産証券化の歴史(2)
- (9) 不動産証券化の歴史(3)
- (10)資金調達、運用、そして新しいビジネス
- (11)3つのタイプの不動産証券化
- (12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
- (13)不動産証券化における資金調達
- (14)倒産隔離と真正売買
- (15)二重課税の回避
- (16)信用補完について
- (17)ノンリコースローンについて
- (18)デュー・デリジェンス
- (19)格付けについて
- (20)利益相反について
- (21)出口戦略について
- (22)セール・アンド・リースバックについて
- (23)不動産鑑定評価について
- (24)不動産証券化に「信託」が利用される理由