続・土地活用・不動産投資におけるトラブル第5回 賃貸住宅と相隣問題
公開日:2019/02/28
POINT!
・賃貸住宅を建築する場合は、隣接境界線から50cm以上の距離を空ける
・境界線から1m未満の距離で、他人の宅地を見通せる窓または縁側(ベランダ)を設ける場合、目隠しが必要
オーナー様が土地上に賃貸住宅を建築しようとしたとき、隣接地の居住者から、建築予定の賃貸住宅につき、隣接境界線からセットバックしてほしいとか、窓などに目隠しを付けてほしいなどの要望がなされることがあり、これらを巡ってトラブルに発展することがあります。もし、そのようなトラブルにより、建築予定の建物の設計変更をせざるを得なくなった場合、想定していた規模の賃貸住宅を建築できず、想定していた利回りを確保できなくなったり、賃借人の募集や収益に影響が生じたりすることもあります。
そこで今回は、賃貸住宅建築において留意すべき相隣関係について説明したいと思います。
境界線付近の建築制限
- (1)民法234条1項では、建物を築造するには、境界線から50㎝以上の距離を保たなければならないと規定されており、この規定に違反して建築をしようとする者があるとき、隣地の所有者は、その建築を中止させ、または変更させることができるとされています。なお、建築に着手したときから1年を経過し、またはその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができるとされています。
よって、賃貸住宅を建築する場合には、隣接境界線から50㎝以上の距離を空ける必要があります。 - (2) 上記に対して、建築基準法65条では、防火地域または準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができると規定されているため、民法234条1項の関係でどのように整理すべきか解釈が分かれていました。しかし、1989年の最高裁判決は、建築基準法65条が適用される場合には、民法234条1項の適用を排除すると判示したことによって、解釈の争いに決着がつきました。
よって、賃貸住宅建築予定地が、防火地域または準防火地域内であって、賃貸住宅の外壁が耐火構造の建築物である場合には、その外壁を隣地境界線に接して設けることができることとなります。
境界線付近の窓などに対する目隠し
- (1)民法235条1項では、境界線から1m未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓または縁側(ベランダを含む)を設ける者は、目隠しを付けなければならないと規定され、上記距離は、窓または縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出するとされています。
- (2) 上記規定の中で、「他人の宅地」とは、人が住居として使用する建物の敷地をいい、工場、倉庫、事務所に使用されている建物の敷地は含まれないものと解されています。そのため、隣接地が倉庫であるような場合には、仮に、当該敷地を見通すことができる窓であったとしても、目隠しを設置する必要はありません。
- (3) 上記規定の中で、例えば、押開き式の小窓で、トイレや浴室に設置された換気用の窓については、便器や浴槽越しに身を乗り出すような姿勢でわざわざのぞき込まない限り隣地を見通すことができないような窓は、他人の宅地を「見通すことのできる窓」に当たらないと解されます。しかし、容易に見通せるような場所に設置している場合には、「見通すことのできる窓」に該当することになります。
それでは、曇りガラスを張った窓は、上記の他人の宅地を「見通すことができる窓」に該当するでしょうか。確かに、窓を閉め切った状態であれば、ガラスを通じて外部を観望することはできないものと考えられます。しかし、開閉式のものであれば、結局、窓を開けてしまえば外部を観望することができるので、やはり、他人の宅地を「見通すことができる窓」に該当すると考えられます。
このように、民法235条1項の窓に該当するか否かは、窓の大きさ、設置位置、ガラスの材質、開閉の可否・程度などから総合的に判断することになります。
なお、民法235条1項は、窓だけではなく、縁側やベランダも含まれますが、日常生活上頻繁に出入りが想定されない、いわゆるサービスバルコニーもこれに含まれると解されています。 - (4) 先程説明しました境界線付近の建築制限では、建築基準法65条の適用がある場合には、民法234条の適用は排除されました。しかし、例えば、建築基準法65条の適用がある建物では、窓が境界線から1m未満でも、目隠設置義務を免れることができるかというと、建築基準法65条と民法235条は直接関係がないことから、目隠設置義務を免れることはできません。
- (5) 民法235条による目隠設置義務の判断においては、建物の建築の先後関係も重要な要素となってきます。例えば、既存建物が存在しているところ、隣地所有者が、後発的に境界線に近接して住居を建築し、既存建物の所有者に目隠設置を請求するようなケースでは、権利の濫用としてその請求を認めないとする裁判例もあります。
慣習の存在
民法236条では、民法234条に定める境界線からの建築制限及び民法235条に定める目隠設置に関して、これと異なる慣習がある場合には、その慣習に従うと規定しています。そのため、過密した市街地などにおいて土地の全部を利用することが慣習になっているような場合には、民法234条1項の規定にかかわらず、これと異なる方法により建物を建築することもできます。ただし、慣習となっているといえるかどうかの判断は、実務的にはかなりハードルが高くなりますので、専門家に十分相談したうえで判断してください。
プライバシー権との関係
民法235条などは、窓などから観望されることにより、居住者のプライバシー侵害が生じないようにするための調整規定になりますので、例えば、目隠設置義務などを懈けたい怠(実施せず放置すること)して、隣地居住者のプライバシー権を侵害するようなことがあれば、当該居住者に対して慰謝料などを賠償する必要も生じます。もっとも、目隠設置義務を履行していないことが直ちにプライバシー侵害になるものではなく、実際に、社会生活上一般に受忍すべき限度を超えた侵害行為がなされたときに初めて賠償責任が発生することになります。
これから賃貸住宅を建築しようとされているオーナー様においては、建築予定地周辺の建物環境、近隣建物の種類、構造、塀、境界線との位置関係、敷地の最大限の有効活用、入居者の生活への配慮などを総合的に考慮して、具体的な設計内容を決めるようにしましょう。