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Sustainable Journeyは、
2024年3月にリニューアルしました。
連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目
2025.6.27
台湾在住のノンフィクションライター、近藤弥生子です。
私は社会やカルチャーについて取材することが多いのですが、近年、カルチャー界で開催されるさまざまなイベントで、「イベントごとに資材を使い捨てることはせず、できるだけ再利用しています」という主催者側の声を聞くことが増えてきました。
今年の11月で9回目になる台北アートブックフェア「草率季」がその一つです。昨年2024年には国内外から477組の創作者たちが出展しており、来場者は3日間でのべ1万人強と、独立出版とアートブックをメインで扱うブックフェアとしては台湾最大の規模を誇ります。
「経費の節約が一番の目的ですが、持続可能性を考えて、1回目の開催時から資材を再利用する方法を選んできました」と、主催者のフランク・ホワン氏。
木材などテーブルや棚に使う資材を再利用するほか、廃棄しても自然に還る素材を活用するなど、毎年サステナブルに配慮された会場づくりが行われています。
2023年の台北アートブックフェア「草率季」メインステージは、竹を組み合わせて作られていた(写真提供:草率季 Taipei Art Book Fair)
竹づくりのオブジェには、アートブックが掛けられていた(写真提供:草率季 Taipei Art Book Fair)
2024年の「草率季」では、各出展者のブースが段ボールで構成された(写真提供:草率季 Taipei Art Book Fair)
台湾カルチャーに大きな影響力を持つ「草率季」は、毎回さまざまなメディアで大きく報道されますが、主催者側が資材を使い捨てせず、これだけの大規模イベントであってもクリエイティブに工夫を凝らすことで毎回異なる表現を実現できることを実証してくれています。
次に紹介するのは台湾各地のデザイン関連大学や専門学校が参加する、世界最大規模の卒業制作展「新一代デザイン展 YODEX」。経済部(日本の経済産業省に相当)と教育部(日本の文部科学省に相当)の共同主導のもと、経済部産業発展署の主催、台湾デザイン研究院による実施で毎年開催されています。
2024年度はサステナブルをテーマに55校からおよそ1万人の学生たちが3,500近い卒業作品を出品しました。
会場は東京ドームとほぼ同じ広さの「南港展覽館2館」(写真提供:台湾デザイン研究院)
卒業制作展の展示会場の空間デザインを担当した建築士のツエン・ヤーシン氏とリン・ ジョンイー氏の両名は、作品展のテーマであるサステナブルを「借り物計画」と解釈したのだそう。製材所に積み上げられた丸太の束や、工場で焼き上げられたばかりのレンガ、家具工場の金属パイプといった原材料を限られた期間に借りて大量に使用することで、各種資材そのものの利用における可能性を探究するという試みに取り組みました。
展示会終了後にはそれらを解体して回収し、また元の場所へと戻すことで、それらは加工され、建築現場で建材として使用されていきます。
例えば、レンガが工場から出荷される時の1ユニットを設計の基準にして計算し、複数のユニットを積み重ねることで、展示棚やパーテーション、座席をつくり出しました。さらに、ユニットの下部にあるフォークリフト用の穴に支柱代わりに木片を差し込み、結束バンドで固定することで、展示会終了後に解体しやすくしました。
焼き上がったレンガを工場から借り、展示棚やパーテーション、座席をつくり出した(写真提供:台湾デザイン研究院)
空間デザインについて解説するツエン・ヤーシン氏は、日本の有名デザインオフィスnendoでの勤務経験もある建築士だ(写真提供:台湾デザイン研究院)
また、各種講演やファッションショーなどが行われるサロンエリアの座席には、家具工場でテーブルの脚に使われる金属パイプが用いられています。金属パイプを座席用の高さまで積み重ねてネジで仮止めし、座面部分には廃棄物から作られたクッション性のあるポリマーフォームを置くことで、座り心地にも配慮しています。
家具工場でテーブルの脚に使われる金属パイプの上に廃棄物から作られたポリマーフォームを載せたものを、椅子として使用している(写真提供:台湾デザイン研究院)
今回はイベントに関してご紹介してきましたが、台湾ではサステナブルに取り組む施設も少なくありません。2022年8月に開業した「台北パフォーミングアーツセンター」には、研究開発部マネージャーとサステナブル長を兼任する張玉玲氏のもと、サステナブルを担当するチームがあり、低炭素で運営されるグリーンな劇場を目指すため、資源は循環して再利用しています。
オランダの建築設計事務所OMAによる設計が目をひく「台北パフォーミングアーツセンター」(写真提供:臺北表演藝術中心)
同施設では、夜間に作った氷を日中に溶かして空調用の冷気を作る「蓄エネルギーシステム」を導入したり、高効率、省エネ、炭素削減を実現するグリーンサーバールームを構築するといったハード面での取り組みのほか、スタッフの制服にペットボトルを再利用してつくられた布を採用したり、イベントでは使い捨ての容器を使わない、スタッフにベジタリアン食を提供する「ベジタリアンミールデー」を設けるなど、ソフト面でも継続的な啓蒙が行われています。
ペットボトルを再利用して作られた制服(写真提供:JUST IN XX 周裕穎)
スタッフ向け「ベジタリアンミールデー」(写真提供:臺北表演藝術中心)
カルチャー・アートイベントが盛んに開催されている台湾では、ここ数年の間、キュレーターや建築士、デザイナーなどの間で“できるだけ資材を使い捨てずにイベントを実行する”という価値観が育まれ、業界内でもその考えが評価されてきました。
イベントをできるだけサステナブルに開催すること、その循環をクリエイティブに追求するという潮流が今後どのように発展していくか、今後も注目していきたいと思います。
台湾在住ノンフィクションライター。1980年生まれ。東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年に台湾に移住。日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作会社を設立。オードリー・タンからカルチャー、SDGs界隈まで、生活者目線で取材し続ける。近著に『心を守りチーム力を高める EQリーダーシップ』(日経BP)、『台湾はおばちゃんで回ってる?!』(だいわ文庫)、『オードリー・タンの思考』(ブックマン社)
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。
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