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2024年3月にリニューアルしました。
連載:未来の旅人
2025.5.29
「ゴミから感動をつくる」。
そんな挑戦を掲げる企業があります。廃棄される野菜や食品のかすを"素材"に変え、建材や家具へと生まれ変わらせるスタートアップ、fabula(ファーブラ)。その代表を務めるのが、町田紘太さんです。
現在、世界の食品ロスは年間25億tに達するといわれており※1、その多くはゴミとして廃棄されます。焼却処理する際に温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)が大量に排出されるなど、食品ロスは地球温暖化にも大きな影響を与えています。
fabulaが開発した「新素材」は、こうした環境問題にどのように寄与していくのでしょうか。新素材が生まれた背景、そしてなぜ町田さんがこの道を選んだのか、その軌跡をたどります。
※1:WWF(世界自然保護基金)と英国の大手スーパーマーケットチェーンのTESCOが共同で2021年に発表した報告書「DRIVEN TO WASTE」より。
「単なるリサイクルではなく、付加価値をつけて生まれ変わらせる。それが僕たちのやりたいことなんです」。
そう言って町田さんが見せてくれた四角や丸型のプレート、中には不思議な形状の物体もあります。
「これはカカオハスク(カカオ豆の種皮)からつくった建材です。実際に嗅いでみると香りもするんですよ」。
カカオハスクからつくられた新素材を、 建材用途に向けて開発中。
fabulaではさまざまな食品廃棄物をもとに、将来的に建材や家具などに使える新素材を開発しています。例えば白菜の廃棄物からつくった新素材は、厚さ5mmで30kgの荷重に耐え、材質が折れ曲がるまでの強さを表す曲げ強度は、コンクリートの4倍以上にも達します。
素材を乾燥させ、粉砕し、熱と圧力を加えて成形する──それだけで、さまざまなものに形を変える新素材が出来上がります。果物の皮やお茶、コーヒーかす、パスタや賞味期限の切れたコンビニ弁当まで、ほとんどの食品廃棄物が加工可能です。ただ、その裏には繊細な「調合=レシピ開発」の世界があるのだと言います。
提供:fabula.inc.
「同じ白菜でも、外葉と芯では水分量が全然違いますよね。いつ、どこで採れたか、季節によっても成分は変わる。だから素材に合わせてレシピを毎回つくっていく必要があります。僕たちは新素材を手がけているため"技術"に注目されることが多いですが、製造工程自体は非常にシンプル。求められる性能に応じての"レシピ"開発が事業の要なんです。まさに料理に近い感覚ですね」。
製品に求められる性質もさまざまです。強度が求められる構造材、軽さが重要な天井材、耐火性が必要な内壁材、香りや風合いが大切な家具……。選択肢を増やし「適材適所」を考えていく。そのためにも、レシピの精度を上げている段階だと、町田さんは話します。
町田さんが素材に興味を持ったきっかけは、大学時代の研究室でした。所属していた東京大学の酒井雄也准教授の研究室では「コンクリートのリサイクルや代替性」をテーマに日々議論が交わされていました。
「『大学は企業がやらない研究をしたい』という先生の言葉が心に残っていて。僕がやるべきことは、まだ解決されていない社会課題を掘り下げることなんだと、自然に思うようになったんです」。
幼少期をオランダで過ごした町田さん。オランダのインターナショナルスクールでは、地球温暖化について調べて発表するなど、「社会と自分の関わり方」について考える機会が当たり前にありました。大学で「社会基盤学」を専攻し、どのように自分たちの生活に活かせるかの"実用性"に重きを置いたのも、その延長だったのかもしれません。
当時、研究室で注目していたのが、コンクリート瓦礫の行き場がないことでした。日本だけでも年間約3000万tのコンクリート廃材が出ますが、再利用先は少ないのが現状です。道路の下に敷く「路盤材」などに使われることもありますが、1970年代をピークに道路整備の需要は減少傾向にあります。
加えて、そもそもコンクリート自体が抱える構造的な課題もありました。コンクリートの材料は水とセメント、砂・砂利です。そのうち、セメントを焼く際に大量のCO2が排出され、世界で排出されるCO2の約8%を占めています。
ほかにも、原料となる良質な砂・砂利が枯渇しつつあり、輸入に頼る国も少なくありません。ただの砂ではセメントとして用いることができず、一定の品質が要求されることから、砂漠の砂はセメントには不適格。砂漠大国のサウジアラビアですら輸入に頼っているほどです。それに、川から砂を取りすぎると生態系にも影響を与えてしまうため、場所によっては規制をかけている国もあります。すでに国連環境計画では「砂の危機」の警鐘を鳴らしています※2。
こうした中、新興国での道路や建物の建築ラッシュにより、コンクリートの使用は増加の一途をたどると見込まれています。当たり前だと思っていたコンクリートは、近い将来、奪い合いを招く「戦略資源」になっているのかもしれません。
※2:国際連合「Sand and Sustainability: 10 Strategic Recommendations to Avert a Crisis」(2022)
「もちろん、コンクリートを全否定したいわけではありませんし、コンクリートなしの生活は現実的に難しいでしょう。実際、耐久性や耐火性などに優れた良い素材なんですよ。でも"オーバースペック"な場面では別の選択肢があってもいいはず」。
町田さんの新素材の可能性を模索する試みが始まりました。
新しい素材をつくるにあたって、町田さんの頭に浮かんだのはこんな疑問でした。
「そもそも、現代で"循環しているもの"ってなんだろう?」
石炭や石油のように、自然界の資源はいつか尽きてしまいます。では、今すでに大量にあり、しかも常に"出てくるもの"とは何なのか──導き出した答えは「ゴミ」でした。
「新たな天然資源を使うのって、問題を未来に先送りしているのと同じだと思うんです。コンクリートの砂・砂利のようにいつかは枯渇し、それが問題になる。だったら、すでにあるもの、つまり"廃棄される運命のもの"から素材をつくれたほうが、ずっと自然じゃないかと思ったんです」。
まず柑橘類(オレンジ)を原料とした試作に取り組み始めると、2、3カ月という短い期間で鮮やかなオレンジ色の素材が出来上がりました。その後もさまざまな素材で実験を重ね、大学卒業後、この技術を世の中に発信すると想定以上の反応が寄せられました。
2021年、周囲の反応に背中を押された町田さんは、「ゴミから感動をつくる」ため、幼馴染と3人で起業に踏み切りました。
今では提携する工場と連携しながら、サインボードのような建材や店舗用テーブルなどの開発を進めています。今後は、大型の家具や建材といった、より多くの廃棄物を活用できるプロダクトへの展開を目指しています。
大型になればその分、利用する廃棄野菜の量も跳ね上がります。ある企業のオフィスで使用する用途として、カウンターテーブルの天板を複数枚つくった際には、1t近くの廃棄野菜を使用しました。もしかしたら、廃棄される野菜は捨てられ、燃やされるのではなく、fabulaの手によって、すべて新素材に生まれ変わるようになるのかもしれません。
「まさにそこを目指しています。今までは、ものを生み出しエンドユーザーに届ける動脈産業ばかりが注目されていました。一方、廃棄物や使用済み製品を処理したり片付けたりする静脈産業には光が当たりにくかった。さらにいうと、静脈産業は動脈産業のようにエンドユーザーに届ける前提のものづくりがあまりできていません。廃棄物に新しく価値をつけて、使う人のもとにちゃんと届ける仕組みを構築したいんです」。
町田さんはfabulaという会社のことを「サステナブルや素材の会社ではなくて、考え方の会社」と表現します。
「例えば、おせんべいって、酒米を削った残りでできてることもあるじゃないですか。でも"サステナブルだから買ってる"なんて誰も思っていない。ただ、おいしいから買ってる。欲しいから手に取る。それが、本当の価値だと思うんです。だから、サステナブルかどうか、新素材かどうかではなく、それが生まれた背景やストーリーこそが価値になっていく」。
そんな思いを込めて、町田さんはラテン語で「物語」を意味するfabulaを社名に据えました。サステナブルだから選ばれるのではなく、魅力的だから選ばれる。その結果として社会や地球にもいい。それを目指すのがfabulaのスタンスです。
「『どんな素材を使うか』ではなく『なぜそれを使うのか』。何に心を動かされるのか──。僕らが届けたいのは、感動や気づき、そしてゴミから生まれる次の物語なんです」。
町田さんがつくろうとしているのは、新しい素材ではなく、"未来の当たり前"の風景なのかもしれません。
1992年生まれ。幼少期をオランダで過ごし、環境問題に興味を持つ。東京大学生産技術研究所酒井雄也研究室で、卒業研究として食品廃棄物から新素材を開発し注目を集める。2021年、小学校からの幼馴染3人でfabula(ファーブラ)株式会社を設立。同社の代表取締役を務め、現在も新素材に関する研究を進めている。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。
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